魔王引退編:俺と戦え
「この前皆んなでアイス食べたじゃん?」
「食べましたね。大きなレモンの輪切りが入っているアイス。」
「美味しいかったですね。何個でも食べれちゃいそうでした。」
「お腹ゆるゆるになっちゃいますよ。」
「…あのアイスとかレモネードとかみたいにレモンの輪切りが入っているたびに思うんだけどさ…あの輪切りって食べる?」
「え?食べないのですか?」
「え?あれ飾りじゃないんですか?」
「ちなみに俺はアイスで毎回口にして酸っぱさに勝てず諦めるわ。」
俺と上原さんとルシルさんはいつも通りくだらない会話をしていた。
「だって食べられますし…レモン美味しいじゃないですか。」
「この前あのアイス食べさせて貰いましたが、上のレモンには手を出しませんでした。種とかもそのままついてますし。」
「それはレモンですもの。種はありますよ。」
「正直さ、あのレモン酸味を口にしてアイスの甘味を強めるためだけに口にしてるわ。」
「なるほど。」
「あとレモンって少し苦いですよね。」
「たしか柑橘系の果物の皮に多く含まれる成分が原因だったかと…。」
「そうそう、その苦味と酸味がしたのアイスを何倍にも上手くするんよ。」
ドゴォォォォォン!
そんな意味のない会話をしていると事務所の外で爆発音が鳴り響いた。
「な、なんですか!?」
「主人公が来たのでしょうか。」
「悪性反応はでてないしあり得るんじゃないかな。ちょっと見てくる。」
佐久間が玄関のドアを開けた。
興味が惹かれる、気になった方向へ飛んでいく。
「確かこの辺り…!?」
急に周りの雰囲気が変わった。
とても安心する心地の良い感覚が全身を包み込む。
「何だこの空間は…。」
神聖な空間…ではないか。
俺は魔王なんだから心地よい気持ちになるはずがない。
しかし魔物にとって心地の良い空間の場合は他の魔物も本能で寄って来ていると思うが…魔物が溢れかえるような様子もない。
「あのー。」
「ん?」
振り返るとそこには不思議な格好の人間がいた。
そして一目見て気がつく。
(コイツ、いつのまに後ろに…!?)
警戒して少し距離を取る。
「…何者だ。」
「いや、この事務所で働いてる者ですけれど?」
事務所…?こんなところに?
「まぁこの空間に困惑してるのかもですけど、安心してください。とりあえず色々と説明しますね。」
…この空間や自分が何者なのかを話している。
普通の人間なら俺を前にしただけで震えが止まらないであろうに。
(コイツ…只者じゃない。)
それにコイツの身体を見れば一目でわかる。
何度も修羅場をくぐり抜けて来た強者の身体だ。
「…というわけでこの空間に入れた人の願いの手伝いをしてるんですけど…って聞いてます?」
「あぁ…聞いているとも。」
俺の願いを叶えると…この男は言っている。
…まさかこんなにも都合の良い展開が来るとは。
「じゃあ願いを言おう。俺と全力で戦って欲しい。」
「え?」
「俺と戦い、全力の俺を負かしてくれ。」
「はい?」
誰かを倒してくれじゃなく『俺を倒してくれ』は初めてだ。
「えっと…一応理由を聞いても…?」
「とりあえず人目に着くところでやるぞ!誰も知らないうちに負けても意味ないからな!」
やっべ…この人話聞いていない。
「とりあえずエルヴィアに報告だ!着いてこい!」
腕をガッと掴まれたかと思うと俺たちの周りに魔法陣が形成される。
「ちょ!?何ですか!?」
「魔王城にいくぞ!」
ワープゲートを利用して魔王城に帰る。
「魔王様、おかえりなさいませ…そちらの方は?」
「聞いてくれエルヴィア!コイツ多分強いぞ!」
もの凄く不服そうな顔をした人間を見せてやる。
威嚇している犬のように唸っているな。
「もしかして無理矢理連れて来ました?」
「そんなことはない!何でも力になると言っていたんだ!」
「あくまでできる範囲内です。」
「…とりあえず彼に理由など諸々説明しましょう。」
「なるほどね。そんな魔王の激務を終わらせるためにさっさと勇者に負けたいけれど、手は抜けないし相手は弱すぎるしでやってられないと。」
「そうなんだ!そんなところにお前が来た!」
「どうでしょう…うちの魔王様と戦っていただけませんか?」
正直嫌ですけど?
何万年と生きてきた魔王と喧嘩するなんて誰がしたいんだよ…。
でも仕事だからな…。
「…可能な限りは頑張りますけど…俺死にたくないですよ?」
「上手いようにやるから!頼む!」
「いざという時は私が仲裁に入りますので。」
「…わかりました。」
「よし!だがどうやって人類側に見せつける?」
「王都付近で壮大に戦いましょう。人間たちに飛び火しないよう何名かの幹部を呼んで結界も張るのはどうですかね?」
「それで行こう!よし早速行こうじゃないか!えっと…お前名前なんだっけ。」
「佐久間です。」
「よし!サクマ!いきなりラスボス戦だ!気張って行けよ!」
そんなこんなで王都の近くにある荒野まで連れてこられた。
「あ!佐久間さんです!」
あ、早瀬さんじゃん。
「こんなところでどうしたんですか?」
「多分主人公に会ったんだけど、その人俺に倒されたい魔王みたいで…。」
「よくわかんない状況ですね!」
「俺もそう思う…。とりあえず上原さんとルシルさんにこのわけわからん状況を伝えてきてくれない?」
「了解です!」
早瀬さんは颯爽と走り抜けていった。
「パワフルな娘だな。」
「あの娘は元気なのが取り柄なんで。」
「…さて、では我々も始めるとしようか。」
大地が震え、空が曇天に変わる。
魔王の身体は一回りほど大きくなり、見る者全てを失神させんと言わんばかりの目つきでこちらを睨みつける。
「はぁ…。」
剣と銃を取り出す。
いざという時は止めてくれるとのことだったが本当に大丈夫だろうか。
…正直かなり不安だ。
様々な世界で所謂魔王と呼ばれる存在に出会ってきたが…。
(歴代トップクラスだ。流石何万年もトップの座に座っていただけあるな。)
ただの剣とちょっと強い銃だけで倒せるような相手とはとてもじゃないが思えない。
…一応異世界から拾ってきた宝石とかも手元にあるけれど…。
「さぁ来るがいい愚かな人間よ。我が魔王の力がどのようなものなのか直々に教えてやろう。」
魔王様…完全にスイッチ入ってるな。
「別に魔王の力とか知りたかないんだけど…お仕事頑張らせていただきますよ!」
互いに突撃して剣と拳が交差する。
今ここで相談所職員と魔王の決戦が始まった。
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