魔王引退編:魔王の憂鬱
魔王城の玉座で1人、とある存在を待ち続けた。
今日でやっと俺の使命が終わるのだと心を躍らせている。
この魔王城に拘束されて一体何万年待っただろう。
魔王として魔物を管理し、向かってくる人類を追払い、時に癖の強い魔物同士の争いを止め…。
「やってらんねぇよこんな仕事。」
魔王として慕ってくれるのは嬉しい。
だがそれはそれとしてどいつもこいつも俺に頼りすぎだろ。
別にこっちから侵略行為をしてるわけでもないのに人類はめっちゃ俺を目の敵にしてくるし…。
そりゃ魔物が怖いのは分かるよ?
アイツら野蛮だよね、すごい分かる。
ただ俺が管理できるのにも限度があるんだよ。
全て俺のせいにされても困るんだよ…。
すると俺の側近で尚且つ魔王軍幹部のダークエルフの女性、エルヴィアが部屋に入ってくる。
「魔王様、そろそろ勇者がこの部屋まで来ます。」
やっと!やっと来たんだ!イヤッフゥ!
「そうか、やっと…。」
やっとここまで来れる勇者が来たんだ!
歴代の勇者はみんな俺のところまで来る前に魔物にやられてここまでいる。
どうやら人類達の間では全員『魔王と勇敢に戦った』と評価されているらしいが…。
そう言った方が多分人類的にはいいんだろうな。
知らんけど。
「…やっと終われそうですね。」
「あぁ…やっと、やっと終われるんだ。」
エルヴィアは数少ない俺の本性と本音を知っている者だ。
付き合いもかなり長い部類だろう。
「ただ魔王様、魔物達の長として手を抜くことだけは…。」
「分かってるよ。そんなことしたら他の魔物達の格も下がっちまう。」
魔物達のトップに君臨している以上、手を抜くわけにはいかない。
魔物はそこまで強くないと印象付けてしまうと馬鹿な人間が魔物を狩ろうとして返り討ちにあう可能性がある。
あと戦闘が苦手な種族が人類に迫害されるとかもありえるな。
「だから全力で戦って、その上で負ける!マジで頑張ってくれよ勇者!」
だから魔物は強くて恐ろしいというイメージはしっかりと持ってもらってもらいつつ、俺は敗北して引退。
隠居生活を楽しむぜ!
「隠居確定したらエルヴィアも一緒に行かないか?というか仲良い幹部全員でもう大人しく余生を過ごそうぜ。」
「そうですね…私もここの業務は懲り懲りです。是非お供させてください。」
目が…目が死んでる…。
…多分この城で俺の次に忙しいのは側近である彼女だし当たり前か。
ということは俺と彼女は今同じような目をしてるのかな?
ウフフ、死に目友達だね。
そんな話をしていたところでドアが開く…いや開かないな。
懸命にドアを開こうとしているのは分かるか。
やっとほんの少しだけ隙間ができて、そこから5名の人間が入ってきた。
「魔王め!ドアに細工して入れなくするとは往生際が悪いぞ!」
え…なにそれ知らない。
魔物基準では普通なんですよそのドア。
…大丈夫か?
本当にこいつらに俺を倒せるんか?
で、でも、ここまで来れたんだから強いに決まっている!
「よく来たな勇者よ!我こそは…。」
よっっっっっっわい。
こっちが口上を述べている間に急に斬りかかって来た。
しかもびっくりしてつい手を出したら壁まで吹き飛んでった。
それを見て後ろの仲間も大分萎縮しているようだし…。
「くそ…やるじゃないか。」
いやお前がやれないだけだよ。
エルヴィアにこっそり耳打ちする。
(なんか変じゃないコイツら?)
(そうですね…少し調べて来ます。)
エルヴィアは素早く部屋を出た。
「ふん!部下にも見捨てられたか!哀れだな!」
「…いいから早く掛かってこい。」
頼む、頼むから急に覚醒とかしてめっちゃ強くなってくれ!
「行くぞみんな!はぁぁぁぁぁ!」
「魔王様、ただいま戻り…。」
「あぁ…おかえりエルヴィア。」
「…勇者はどちらに?」
「…お帰りになられたよ…。」
「…土に?」
「いや普通に返したよ!?ちょっとボコボコにしたけど。」
「…魔王城内からワープゲートが見つかりました。恐らく魔王軍の何者かが人類に加担したものかと。」
「あぁ、勇者達から聞いたよ。どうやらここまで連れて来てくれたのはウチの幹部の…名前なんだっけ?ヴァンパイアロードの…。」
「イーヴィル伯爵ですね。」
魔王軍幹部の中にはそこまで俺を評価していない者もいる。
イーヴィル伯爵もその1人だ。
あの人プライド高いから魔王の存在が気に入らないらしい。
なら立場変わろうかとも思ったが俺の激務を見ているためそれは嫌だとか言い出すし。
「多分魔王様を勇者に倒してもらい魔王軍そのものを無くしたかったのでは?」
上に人がいるのも嫌、かと言って上に行くのも嫌。
ならその組織自体壊しちまえってことか。
「まぁ伯爵も勇者がここまで弱いとは考えていなかったのかもしれませんね。」
「…なんかもう魔王嫌になって来た。いや前から嫌だったけど。」
マジで期待が大きかった分落ち込みも大きい。
「てか勇者って人類の最高戦力じゃないの?そんなに弱いの人類って?」
「優秀な者もいるはずです。剣豪と呼ばれる者やありとあらゆる武器を作ることができる鍛冶職人など。…ですが歴代勇者に優秀さを感じたことはないですね。」
なんというか…話を聞いた感じ貴族上がりの奴が多くてあんまり勇者っぽくないんだよな。
なんかこう…もっと伝説的な生まれ方する者じゃないの?
「そうだ!もうめちゃ強い人類拉致して倒してもらうのはどうかな!」
「それを魔王様が発案するのはアウトですね。」
「だよな…イーヴィル伯爵もせめて強いやつかしっかり確認して連れて来てくれよ。」
どっかにめちゃくちゃ強くて俺と接戦してくれる猛者いないかな…。
「…なんか疲れたわ。休憩がてら外出て散歩して来てもいい?」
「お供しますか?」
「いや大丈夫。そんなに遠くまで行くつもりはないから。」
久々に魔王城を出る。
外に出ただけだか心なしか空気が美味い。
それほど閉鎖的な空間で仕事させられてるんだなと再認識させられる。
さて、時間は…丁度日付が変わったぐらいかな。
…ん?
なんだこの気配。
何か危険な感じがするわけではないけれど異様に気になる。
まるで不思議な力に導かれているような感覚だ。
「…行ってみるか。」
どうせ散歩先は決まっていない。
もしかしたらめちゃくちゃ強い奴が…いやこんなところに人類なんかいるわけないか。
「まぁいいか。行こう。」
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