無能王子編:予想外の出来事
5日目、残り時間も僅かで特にやれることも無くなったのでソウド君のトレーニングを見ていた。
このまま何事もなく終わるであろうと考えていたのだが…。
「緊急事態です!」
念のため王宮に向かってもらっていた早瀬さんが隠れ家までやってきた。
「緊急事態って…どうしたの?」
「件の側近が気になって話を色々聞いて回っていたのですが!とんでもない話を聞いてしまいました!」
「どんでもない話?」
「女王と国王の暗殺が失敗に向かっているため、王族の中でも1番手薄なソウドさんを今度は狙っているそうです!」
「俺を!?」
まぁ確かに今1番簡単に仕留められそうなのはソウド君だろう。
普通ならば。
「ここにやってくるメンバーは側近と繋がりのある者もいれば、ただ国に対して多少文句がある一般市民もいるように様々です。一般市民はあくまで国王に反旗を翻すために誘拐するだけど考えているようですが…。」
…口を濁すということはそれ以外のやつは誘拐以上のことを考えているんだな。
「とりあえず早瀬さんはソウド君を連れて安全な事務所に。それと新しい隠れ家が欲しいからそこのあても必要になるな。俺はこれから忙しくなるから頼んだ。」
「サクマさんは?」
「俺はここで迎え撃つ。」
「…サクマさん、一つお願いがあるんだが…。」
「ん?」
「さっきの話を聞く限り何も知らされていない一般市民も混ざっている。どうか一般市民だけでも助けてやってくれないか。」
「いや…俺にはそれを見破る手段がないし…。」
「どうか…無理を聞いてくれないか?」
えぇ…?
優しいのは美徳だけど流石に悪い奴といい奴を一瞬で見分ける方法なんて…。
「いやあるかも?」
ワンチャン上にあのシステムを持ってきてもらえれば?
「早瀬さん!追加でソウド君を送った後に上原さんに頼んで上に至急報告して欲しいんだけど…。」
「…なるほど!了解しました!」
「それじゃあ急いで。頼んだよ!」
全く、急に矛先をこっちに向けるとは…隠れ家の場所はバレているだろうしもう住めないな。
せっかく運んだ筋トレグッズをまた別の住居に送らなければいけなくなった。
「マジで許さんからな?」
注文通り悪い奴だけボコボコにしてやる。
2人を見送って2時間ほど経った。
俺は相手の接近にすぐ気付けるよう屋根の上にいた。
「…お!」
どうやら来たようだ。
うわ、ざっと30人くらいいそうだな。
しっかりと武装もしている。
全員が同じような鎧を着て、尚且つ顔を隠している。
「こりゃ誰が誰なのかなんて分からんな。」
というか早瀬さんまだ来てないんだよな…。
早く来てくれないと俺が体を張って耐えなきゃいけなくなる。
「お待たせしました!」
「お!ナイスタイミング!」
早瀬さんが息を切らせながら屋根に飛び乗ってきた。
「お疲れ様。だいぶ時間がかかったのを見るに上が中々許可だしてくれなかった感じ?」
「そうです!でもなんとか都合のいいものを見繕って貰いました。」
俺が今回早瀬さんに伝言を頼んだのは俺たちの事務所に設置されている"悪性反応に反応するシステム"だった。
悪性反応が見られた際に上原さんのパソコンに接近しているというデータを上が送ってくるようになっている。
つまるところ悪性反応を探知する方法は上の奴らしか知らないわけだ。
「上曰く探知魔法とかいうのを物体に変えて使っているらしいです!そして今回寄越してきたのは失敗作で探知範囲があまり広くない物らしいですね!」
なるほど…現物は渡せないけど失敗作ならいいよって感じか。
早瀬さんから渡されたのは砕けた黒い石のような物だった。
「これどうやったら使えるんだろ?」
「強く握ってみろとのことです!」
「どれどれ…。」
強く握って向かってくる群衆を見てみる。
「…何も変わらない。」
「となると相当近くじゃないと使えないみたいですね!」
「マジ?パチモン掴まされてない?」
「大丈夫です…多分!」
えぇ…。
まぁ渡された以上これを使うしかないか…。
「とりあえず頑張ってみるよ。早瀬さんも彼の新しい隠れ家探し頼んだ。」
「了解です!実は案外なんとかなりそうなので安心してください!」
隠れ家の玄関前で待っていると鎧を着た奴らがやって来た。
「…誰だ貴様は。」
先頭に立っていた男が近づいてくる。
そりゃまだまだ子供の王子攫いに来たら知らない爽やかお兄さんがいたら疑問に持つよね。
とりあえず全員ここに釘付けにしたいから…。
「最近王子に雇われてな。お前らみたいな不審者をボコボコにするよう命じられてるんだよ。」
石を強く握る。
目の前の男の心臓辺りから紫色の炎の様なものが出ているように見える。
「あーなるほどね。」
「何がなるほどなんだ。」
「いやお前が碌でもないやつってことがわかっただけだよ。」
思いきり顔面を殴り付ける。
久々に全力で人を殴ったな。
面白いぐらい吹っ飛んでいる。
後方に待機していた奴らが一気に突撃して来た。
「よっしゃ!悪いやつだけボコしちゃうぞ!恨むなら今までの人生を恨みな!」
ハヤセさんの仕事がかなり早くもう新しい隠れ家になるような場所を見つけてくれた。
「めちゃくちゃ埃っぽいけど、しょうがないな。」
巷では"魔女の家"と呼ばれている場所で人はほとんど寄って来ない。
確かにここなら中々見つかることもないだろう。
…サクマさんは大丈夫だろうか。
コンコンと誰かが玄関のドアを叩く。
「おーい。開けてくれー。」
サクマさんだ!
「無事だったか!」
玄関を開けるとそこには…。
「部屋に入れるの手伝ってくんない?」
前の隠れ家に置いてあった筋トレグッズ?を大量に引きずっているサクマ人がいた。
「…これ全部持って来たのか?」
「まぁね。」
「…襲撃して来た奴らは?」
「一般市民は全員優しく投げて悪い奴らはいい感じに投げた。」
とりあえず全員投げたんだろうな。
「ありがとう。」
「いえいえ仕事なんで。」
「さて、もう時間もないな。」
「今日帰るんだよな?」
「うん、明日には俺たちがいない。何かあっても君が自分の力で乗り越えなければいけない。頑張ってね。」
「…あぁ。」
浮かない顔してるなぁ。
「まぁもしピンチに陥ったらまた俺たちがこの世界に来るかもしれないし、気楽に行けばいいんじゃないかな。」
「気楽にはいけないだろ…。」
そりゃそうか。
「ただ重く考えれば物事が好転するわけでもないよ。今君がやるべきなのは警戒しながらトレーニングだ。力がつけば脅威も減るし。」
「まぁそうだな。なんかあんたと話してると難しく考えるのが馬鹿らしくなる。」
あれ、失礼では?
「次あんたらがこの世界に来た時は家族の問題は俺が全部解決させてやる。」
「そりゃ楽しみだ。」
そんな話をして俺は事務所に戻った。
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