無能王子編:俺を強くしてくれ。

「というわけで一旦問題解決しました!」

「ご苦労様です。それにしてもルシルさん大活躍じゃないですか。」

「えへへ。」

 佐久間さんがソウドさんを隠れ家へ送っている間にルシルさんと早瀬さんから結果の報告をしてもらっていた。

「それにしても中々闇が深そうですね。」

「まぁ側近がこれまでの暗殺とかの原因なのかはまだ確信は取れてないんですよね。今頃女王様に注射しようとした不審者が尋問されて諸々吐いてくれていればいいんですけど。」

「それも含めて改めて私が偵察してきます!」

「ただいま~。」

「あ!おかえりなさい佐久間さん。」

「お疲れ様です!」

「お疲れ様です。ソウド君の様子はどうでしたか?」

「んー混乱はしていたけど、これから頑張ってくっぽい。なんかやる気出てたね。というわけで例のモノ用意しといて欲しいな。」

「了解致しました。」

「さて!もう夜も遅いし皆んな明日に備えてさっさと寝よう!おやすみ!」




「おっすソウド君。」

「あぁサクマさん、おはよう。」

 隠れ家で家事をこなしていると佐久間さんがやってきた。

「というか、家事出来るんだね。今までの全部演技だったの?」

「そりゃあ何周も人生ループしてりゃ家事の一つや二つ覚える。」

 なんなら一周目は奴隷だったわけだし。

「正直な話、あんたらを全くと言っていいほど信用していなかった。せめてすぐに強くなる方法を知らないかと探りを入れたが教えてくれなそうだし。さっさと5日たっていなくなればいいと思ってたよ。」

「…というか女王様助けたいんだったら俺らに構ってる時間ないじゃん。俺らの助けを受けようと思ったの?」

「…正直女王については諦めるつもりだった。」

 そもそもやり直してから女王が病死するまでの期間が短すぎる。

 その間に伝説とか言われている植物を見つけるのなんてほぼ不可能だ。

「だから今回はさっさと力をつけてせめて国王だけでも救おうと考えてたんだよ。」

「なるほどね。」

 まぁ少しでも救える可能性があるから毎朝探してはいたが。

 …そう簡単に母親を見捨てることなんて俺にはできなかった。

「だから今回のことはすごく感謝している。本当にありがとう。」

「いやいやあれはルシルさんのおかげだから。俺は何にもしてないよ。」

 …サクマさんが俺を助けてループしていることを見抜いてくれたのがきっかけだから感謝するのはあながち間違いじゃないと思うんだがな。




「というわけで今日はこれに沿って動いてもらう。」

「何だそれ。」

「うちの早瀬さんが作ったトレーニングメニューだ。前に君みたいに体鍛えたいと言っていた人にも渡したやつなんだけど結構効果あるよ。」

「ハヤセさん…昨日一緒にいた声がでかい人か。」

「そう。昨日一緒にいて彼女の運動神経が凄まじいことは大体分かるよね。本来は早瀬さん直々にトレーニングするべきだろうけど今は城の様子を見にいってて忙しいから俺が代理で教えるね。」

「お、おう!」




「…大丈夫?」

「だ…大丈夫…じゃない。」

 何だこのトレーニングメニューは?

 とてもじゃないが人がこなすものとは思えない。

「一応君ぐらいの年齢でもできるよう調整してもらったんだけどね。」

「嘘つけ!こんなのこなせる子供がいるか!」

 うちの兄貴たちでも無理だぞ多分。

「まぁ子供と言っても忍者になるつもりの子供の話だし、そりゃ一般人レベルにはかなりハードだよね。」

「忍者?って何だよ。」

「あー…説明するのが大変だからざっくりというけど…早瀬さんみたいな人だよ。」

 …なるほど。

 あの馬鹿げた運動能力はこれをこなすことで手に入れたモノなのか。

 忍者…ハヤセさんは偵察や侵入が得意って話だし、この世界でいうアサシンみたいなモノなのか?

「…どうした?諦めるかい?」

「は?そんなわけないだろ。早く次のトレーニングするぞ。」

「了解。じゃあ遠慮なくいくぞ。」




 俺は今、サクマさんに抱き上げられている。

「もう動けない…。」

「全く。勢いとやる気があるのはいいけど無理はしないようにね。このトレーニング俺らがいなくなった後にも続けなきゃなんだから。」

 確かにこれから1人でやっていく上で動けなくなっていたらそれこそまた盗賊の餌食になってしまう。

「よし、隠れ家についた。そして今日は最後にこれの説明をしなきゃな?」

「これ?」

 サクマさんが玄関の扉を開くと、家の中にはみたことのないものが沢山置いてあった。

「何だこれ?」

 鉄の棒の両端に錘がついているモノや鉄の棒でできた骨組み?みたいなモノなど様々だ。

「昨日話した俺たちの世界の技術って奴だよ。今から鍛えるにはどうしても君の兄弟と比べて量が足りない。量が足りないなら質を上げるしかないよね。」

 サクマさんが錘付きの棒を持ち上げる。

「これ持ってみて。」

 受け取ってみると…。

「おっも…!」

「でしょ。それらを利用して身体を鍛えていってもらう。使い方や一日辺りでこなすべきメニューについても説明するね。」

 …ハヤセさんのメニュー以外にもあったのか…。




「さて、あらかた説明は終わったし一通り試してもらったね。何か質問ある?」

「…ない。」

 地獄のような時間だった。

 俺はこれからこれを繰り返す人生なのか。

 ぶっちゃけめちゃくちゃ辛い。

「あらら、流石に大人しくなっちゃった?」

「うるせぇ…。」

「まぁ前も言った通り、これを繰り返して力に出来るかは君次第だ。俺たちがいなくなった後も続けられそうかな?大変そうならもう少しトレーニングメニューを見直すけど。」

「…いいや、絶対にやり切ってやる。」

俺の返事を聞き、心底嬉しそうにサクマさんは笑う。

「そっか。まぁ、大丈夫だろ。なんせ君は途方もない時間をループして生きてきたんだ。こんな筋トレ地獄ぐらいあっという間さ。」

…確かに今まで繰り返してきた人生のなかでもかなりの苦行。

しかし間違いなくやりがいも感じられた。

「上等だよ。絶対これで強くなってやる。」




「お疲れ様です!」

あ、鬼トレーニング忍者のハヤセさんだ。

「おつかれ早瀬さん。王宮はどんな感じだった。」

「はい!国王様は王宮内部の警戒を強め、注射器内の薬についても調べていくことにしたそうです!」

良かった、どうやらうまくことが進んだようだ。

「これでしばらくは迂闊な暗殺や女王に薬をもるような真似もできないですね!」

「そうだね。これでソウド君は安心して筋トレしまくりなわけだ。」

「まだ危機を完全に回避したわけではないですし頑張りましょう!」

「お、おう…。」

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