無能王子編:王子は繰り返す

「君多分…人生何回かループしてるよね?」

突然のことでソウド君はかなり驚いたようだ。

「…なんで…どうしてそう思うんですか。」

「経験則かな。」

実際ここまですんなり受け入れられているのも様々な世界を回ったからこそである。

「…この仕事をしていると君みたいにループしている人は別に珍しくないんだ。君みたいにこれから何が起こるかわかっているような人間は、ループから得た情報を元に動く。見ていて不思議なほどに無駄がない動きでね。」

人生をループしている人間は大概、なんらかの悲劇を回避しようと行動する。

その結果、不自然なほどに効率的な動きをすることが多い。

「あと時々口調が僕じゃなく俺になるのは、大人になってから口調が変わったからかな?」

「…そんなに口調変わってましたか?」

「さっきの盗賊と戦ってた時も、ですます調がなくなってたりしたな。」

どこか諦めた様子のソウド君。

「というかループしてるのってバレたらいけないことでもあるの?異世界から助けに来たみたいなよくわからないこと言ってる奴らだし、軽く話題にでも出してくれれば良いのに。」

「別に…今まで散々誰かに説明しても信じてくれるやつなんか1人もいなかったから諦めてただけだ。」

「…てことは、これまでの人生についてと今の目的について聞いても良いかな?」

「…あぁ。」




俺は出来の悪い無能王子だった。

兄貴たちと比べ勉強や剣術、運動能力で何一つ秀でたものがない。

誰もが俺を下に見た。

もっと小さくて幼い頃はそんなことはなかった。

女王をもっと俺を応援してくれたし、国王は俺を見てくれた。

兄貴たちも俺を部屋から連れ出して面倒を見てくれてた。

でもきっとあまりに成長の兆しがない俺に呆れてしまったんだろうな。

…一周目は確か俺以外の家族が全滅したんだよな。

俺はこの試練を言い渡され、まともな生活も出来ない状態だった。

そんな中盗賊に誘拐され奴隷として生きていくことになった。

しばらくして俺を買った成金から女王は病死、国王は暗殺され兄弟はどちらが空いた王の席に着くかで争い共倒れとなったことを聞いた。

そして俺も奴隷として使い捨てられこときれた。

目が覚めたらベッドの上、俺は試練へと駆り出される少し前に戻っていた。




「最初のループ後に兄弟や女王に伝えてみたものの、誰一人まともに話を聞いてくれなかった。そして同じようにまた死んでくんだ。そして俺がまた死んだ後、同じ日の同じ場所で生き返った。」

「ひとつ疑問なんだけれどいいかな?何で自分のことを馬鹿にしてきた家族を助けようとしてるの?正直君が彼らにそこまでする義理ないと思うんだけど。」

「…一度この国から逃げ出して遥か遠くで生活したこともあった。奴隷にもなっていない自由な生活さ。だがしばらくして俺は暗殺されることになった。」

「…兄弟が共倒れした後に国王になったやつが国王の血を引いた生き残りを危険分子と判断して来たと。」

「その通り、俺は家族を放って幸せになることはできないって悟ったんだ。その後は何度もループを繰り返して、家族を救うチャンスを探し続けていたってわけだ。」

なるほどね。

「そして母親の病気を何とかするための植物を探していると。」

「そこまで知ってたのか!?」

「まぁね。毎朝どっかにいってたのはその植物を探しに?」

「…そうだ。たが所詮逸話の存在だな。何度もループして未だに見つかっていない。」

しかもここは盗賊に捕まったらゲームオーバーだもんな…。

「盗賊や国王の暗殺に対抗するために力が欲しかったのかな?」

「そうだ。特に盗賊にはいつ襲われるか分からないからな。」

なるほどね?そりゃ手軽に強くなる方法が探したくなるわ。

「話聞いた感じ母親の病気はそろそろ急がないといけないよな。」

「あぁ、あと2日ほどしかないだろう。」

「うーん…一個気になることがあるんだけど今夜空いてる?」

「え?まぁ問題ないが。」

「じゃあ今日の夜の間に向かうから少し待ってて。今日はとりあえず家に戻って休んでな。色々あったし。」

「あぁ、ありがとう。」




「というわけで案の定ループしてたね。」

「考察通りだったんですね。流石です佐久間さん!」

「とはいえ女王様の病気に関してはどうしましょうか。伝説上の植物を探すのは我々でも厳しいのでは?」

「それで気になったんだけどさ、ルシルさん何とかできない?」

確かルシルさん回復系の力を持っている。

「こればかりは実際にやってみないとわからないですね。ただ聖女として病人たちの対応をしたことはあります。」

「よし、それじゃあ善は急げってことで。今日早瀬さんが帰ってきたらソウド君を連れて4人で王宮に潜入しよう。」

「それでは私は留守番と言うことでよろしいですか?」

「うん、上原さんにはここで待っていてもらう。留守番よろしくね。」




「というわけでソウド君。今から王宮にいる女王様を寝ている間にこっそり治療しに行こう。」

「どうしてそうなった?」

そういえば今夜空けといてって話しただけだったな。

「うちのルシルさんならワンチャンなんとかできるかもしれないんだよね。俺たちが5日間しかこの世界に入れないのもあってあんま悠長にはしてられないし。というか現在進行形で女王様は病気で苦しんでるしね。」

「その…出来るものなのか?」

ルシルさんにソウド君が問いかける。

「見てみないことには分かりませんが可能性はあります。」

ルシルさんは何食わぬ顔で答えた。

というかルシルさん来たばかりの時は緊張してたっぽいんだけど、今は随分と落ち着いている。

流石は元聖女もとい元主人公だ。

とても心強い。

「私としてはそもそも王宮に侵入出来るのか心配なのですが。」

「俺もそれは気になっている。警備はかなり厳重だぞ。」

「それは任せてください!なんなら今日もほぼ一日中侵入していました!」

「とのことです。安心していいよ。」

「…王宮に侵入するような奴がいて安心できるか?」

ごもっともだ。

「とにかく!一旦女王様の病気をルシルさんになんとかしてもらって、国王暗殺に関してもなんとかしよう。兄弟喧嘩は国王が死ななければしばらく怒らなそうだし。」

「国王暗殺に関してもなんとか出来るのか?」

「割と君次第だけど考えはないこともない。せっかく何周もループする事で繋がった縁だ。頼ってくれていいよ。」

「…あぁ、この人生ではお前たちに賭けさせてもらう。」

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