無能王子編:制圧してくれ。

「というわけで詮索するなって釘刺されちゃった。」

「何やってるんですか…。」

俺は事務所から戻り情報共有をしていた。

「だって小学校低学年ぐらいの子が家にいなかったら探しにいくでしょ。割と普通では?」

「それはそうですけど…変に詮索をするのは良くないですよ。」

「前回の出禁といい最近良いとこなしですね。」

「いやその通りだけどあんまりストレートに言うと泣いちゃうよ?それに結果的にルシルさん見つけたの俺だからね?」

「佐久間さん何かから出禁になってたんですか?」

「ルシルさんの妹に迫られて断ったら出禁になった。」

「は?ちょっと詳しく伺いたいのですが…。」

「ルシルさん、今は仕事中なので後で説明してもらってください。」

賑やかだなぁ。

「あ、そうだ。ソウド君について思ったことがあるんだけどさ…。」




「なるほど。確かに可能性はありますね。」

俺の仮説を他の3人に説明した。

「…そんなことってあるんですか?」

「割とありますね!異世界は本当になんでもありなので!」

まぁ、あくまで可能性の話だ。

本人に直接聞いても良いけれど、特に聞いたからと言って対応が変わるわけでもないだろう。

「でもそうなると気になる話があります!」

「ん?」

「ソウドさんのお母様の病気についてなんですけれど、かなり難病らしいんです!」

「ほう、それで?」

「その病気を治す方法がこの付近に生えていると言われてる植物が必要って伝説があるみたいです。」

「伝説ですか?」

「はい!あくまで伝説です!聞いた限りだと見たことがある人はいないみたいです!」

「…偶然ではなさそうですね。」

「でしょうね。しかも佐久間さんが言っていた仮説の信憑性がグッと上がります。」

確かに…話を聞く限り向こうが隠してる目的はそれなんだろうな。

「まぁいいや。彼が話してくれない以上は全部妄想の域を出ないしね。とりあえず明日も変わらずやっていこうか。」




「…今日もいないな。」

3日目、再度隠れ家に向かうも案の定留守だった。

「…流石に大人しく待ってるかぁ。」

詮索するなって釘刺されてるし。

とりあえず玄関あたりで寝ていよう。




「…ん?」

なんか向こうが騒がしいな。

ここら辺は人も近づかないと思うけど。

となると考えられるのは…。

「彼が面倒ごとに巻き込まれてるのかな?」

しょうがない。

向かうとするかな。

騒がしい場所へ走っていく。

着いてみるとそこには。

(絵に描いたような盗賊だな。)

口元を隠した明らかに治安の悪そうな見た目のやつがソウド君を簀巻きにしていた。

「あらら。」

人数は6人かな?

馬が大きな荷台を引いている。

盗賊の1人が荷台の中に向けて『うるせぇぞ!』とキレている。

(盗んでるのは物じゃなくて人かな。)

人を攫って奴隷として売り払うって魂胆かな。

となると彼が王子だから襲っているってわけではなさそうか。

権力絡みになるとかなり面倒そうだから安心だ。

(…とりあえず。)

俺はすぐさま走り出した。

馬の方に。

馬と荷台を繋いでいる部分を剣を使い一瞬で切り離す。

そして…。

「ごめんね!」

馬の尻を叩く。

馬はヒヒンと声をあげて走り去っていった。

よし!これなら人を攫いながら逃げるのは困難だろう。

「なにしてくれてんだテメェ!」

すぐさま俺を囲んでナイフを構えている。

連携が取れていて大変よろしい。

「後はいちいち『なんだテメェ』とか言ってないで襲いかかってきたらもっと良かったね。」

「何1人で喋ってんだよ!」

1人がナイフを構え突っ込んでくる。

とりあえず避けながら足を引っ掛け転ばせておくか。

「ぐえっ!」

「よっと。」

邪魔なので思いきり腹を蹴って吹っ飛ばす。

「よーし、そんじゃ全員この剣の錆にして…。」

「だ、駄目だ!」

ソウド君が叫ぶ。

「え?」

「誰も殺さないでくれ。頼む。」

お、ソウド君は不殺をお望みか。

まぁ俺も可能な限りはやりたくない。

ただ向こうが殺そうとしている以上少し工夫が必要になるから面倒だけど。

「了解。程よく錆にしよう。」

となると戦闘不能にさせなきゃな。

「オラァ!」

ナイフを持ったメンバー4人が突進してくる。

視界に入っているのは2人、後2人は後方からかな。

「よっと。」

とりあえず視野に入った2人の鳩尾を思いっきり殴る。

「「カハッ…。」」

そしてすぐ振り向きながら残り2人の攻撃は回避。

「とりあえず…これ借りるね。」

腹を蹴られた盗賊のナイフを手に取る。

「で、返すわ。」

そしてそのまま太腿に突き立てた。

やっぱり戦闘不能にするならとりあえず機動力を削がなきゃね。

すぐに後ろから襲ってきた2人へ突っ込む。

「どっこいしょ!」

全力のけたぐりで1人を転ばせそのまま足を踏み潰した。

「ヒッ!」

もう1人が怖気付いている。

「ヒ、ヒィィィ!!」

あ!逃げた!

「コラ!逃げんな!」

すぐに足折れ盗賊のナイフを拾い、逃げる盗賊の太腿に向け投げる。

「ギャァ!」

よし当たった。

それじゃあ鳩尾組を…あ!立ち上がってる!

「テメェ調子に乗ってんじゃ…。」

「立つなぁ!」

全力ダッシュでダブルラリアットをかました。

「全く油断も隙もないな…よいしょ。」

しっかりと両方とも足をへし折って…これでよし!

「テメェ!動くんじゃねぇ!」

振り返ると盗賊がソウド君にナイフを突きつけていた。

あ、そういや6人いたんだった。

全然他の奴らと一緒に挑んでこないから忘れてた。

「…どうする?今君はかなりのピンチだけど…まだ不殺を貫く?」

「…当たり前です。」

「…流石だね。」

覚悟ガンギマリだなこの王子。

ポケットの中に手を突っ込む。

確かこの辺に…。

「おい勝手に動いてんじゃ…。」

「お、あった。オラ!」

ポケットに入っていたものを盗賊の顔面に投げつける。

投げたのは少し前に貰ってきたメデューサの盾についていた宝石。

あの宝石には攻撃対象を硬直させる効果がある。

「え!?」

盗賊からしたら仰天ものだろう。何かを投げられたと思ったらすぐ目の前に俺が目の前まで迫ってるんだから。

そのまま顔面を思いきり殴りつけた。




「さてと、こんなもんかな。」

とりあえず全員機動力も潰したし、簀巻きにもした。捕まってた人たちも解放して街の自警団を呼んでもらうようお願いもしたし、一旦一件落着かな。

「しばらくナイフ握れないように手も壊しとこうか。」

「…いや、大丈夫です。」

ソウド君はずっと俯いている。

…不用意に詮索するなと言われたけどせっかくだしこの流れで聞いてみるか。

「ソウド君に一つだけ聞いてもいいかな?」

「は、はい?」

「君多分…人生何回かループしてるよね?」

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