無能王子編:気にしないでください。

「一応うちの事務所でも寝泊まりできるけど、本当にこの隠れ家で過ごすの?」

「はい、ここで過ごすのが試練の内容なので。」

小さい子供を1人で薄汚い部屋に泊まらせたくないんだが…本人が頑なに事務所まで来てくれないため諦めた。

ただ彼は料理も全然できないため、食料だけは上原さんから渡しておいてもらうことにした。




「ただいま~。」

「あ!佐久間さんおかえりなさい。」

事務所で留守番してくれていたルシルさんが迎え入れてくれた。

「ちょっと大変そうだな彼。こりゃ明日上原さんに色々用意してもらう必要がありそうだ。」

「あの…彼何か隠している気がします。」

お!気付いたんだ。

「やるねぇ。そう、何か隠してる。でもこちらの指示も聞いてくれるから、多分何か別の目的もあるとかだと思うんだよね。」

「いったいなんなのでしょう?」

「さぁ?こればっかりは本人が言い出してくれないとだからなぁ。」

「戻りました!」

「ただいま戻りました。」

2人も帰ってきた。

「それじゃあ今日の結果報告といこうか。」




「王宮に侵入して情報を集めましたが、彼から聞いていた話には特に違いはありませんでした!」

やっぱり王子が受ける試練があるってところに間違いはないんだな。

「他に何か情報はあった?」

「そうですね…最近女王様…ソウドさんのお母様は寝たきりの状態らしいです。」

「身内が寝たきり…。」

「何か近景があるのでしょうか?」

まだ判断しかねるな。

「ただこの女王様、周りと同じく彼を馬鹿にしていた人らしいんです。」

「…酷すぎですね。」

「…親なんて案外そんなものですよ。」

おっと…空気重くなってきたな。

「じゃあ俺から。とりあえず体力が全くと言って良いほどなかったからこの5日間で彼を強くするのはまぁ無理。だから俺たちがトレーニング方法を伝えて頑張ってもらうしかないな。」

「ではそれらを資料としてまとめておきますね。」

「ありがとう。後他にも何個か頼みたいものがあって…。」

 戦闘面についてはあらかた話終わり、次は生活能力の話になる。

「とても1人で生活できるレベルじゃないな。まぁ今まで家事全般やったことない子供なわけだし当たり前だけど。」

「では家事全般を教えることになるんですかね。」

それもあるが…。

「俺たちの世界での一人暮らしとは違って1人で生きていく力を備えるのが大切なわけだし、どちらかと言ったらサバイバル能力が必要かも?」

「了解しました。資料まとめておきます。」

「ありがとうね。それにしてもあんな子供にサバイバル生活させるってすごい世界だな。」

「王族としての責任をいずれ背負う為に必要だからと嫌でもやらされるんですよね。」

「流石ルシルさん!経験者は語る、ですね!」

そういえばルシルさんも物心ついた頃には聖女としての教育を受け続けてたんだっけ。

「ただ私の場合はここまで命懸けなことはやらされませんでした。むしろ聖女として危険な目には絶対合わせてはいけないからと、昔は1人で外に出るのも許されなかったです。」

「そうだったのですね…。」 

…出来損ないと馬鹿にされながらも王子として危険な目に会わなければいけない。

中々気分が悪くなる話だなぁ。




2日目、ソウド王子の隠れ家に向かった。

「ん?」

人がいる気配がない、外に出ている?

「周辺探してみるか。」

しばらく家の周りを探していると、

「あれ?サクマさん。」

あ、いた。

「おはよう。どこいってたの?」

「えっと、少し散歩したくなって…。」

とりあえず嘘が下手なのはこの2日間でよくわかった。

「まぁいいや。もうしばらく散歩する?」

「いえ、帰り足なので。」

そそくさと隠れ家に戻っていく。

俺は彼の後ろをついていった。




「王宮ではどんな生活してたの?」

家事などを教える中でそれとなく聞いてみた。

「そうですね…昔から体力がなくて部屋から殆どでられなかったです。兄2人にもいつも馬鹿にされてて…。」

「というか兄2人のどっちかが王になるなら君がこの試練する意味はないんじゃない?」

「でもまぁ伝統なので。」

そういうものなのか。

息子の身体よりも伝統をとるのはぶっちゃけドン引きするけれど。

「でも僕自身も隠れ家に来たかったんです。さっさと1人になりたくて。」

「親からもよく思われていないって聞いたんだけど本当?」

「そうですね。父…国王は忙しくて僕にかまうことなんて殆どないんですけど、母親には間違いなく嫌われていると思います。」

「…ぶっちゃけさ?身分を偽って逃げ出そうとか思わない?今とか絶好のチャンスだと思うんだけど…。」

「それだけは絶対にないです。」

お?きっぱりと言い切ったな。

「僕は逃げるわけにはいかないんです。絶対に。」

なんというか…覚悟が決まってるって感じだ。

まるで自分が逃げたら大変なことが起こると知っているみたいな感じ。

…もしかしてこの子…。

「だからお…僕はもっと戦う力が必要なんです。何にも負けないようにならないと。」

…今一瞬"俺"って言いかけたな。

とりあえず間違いなく訳ありの奴なんだろうな。




「さて、今日のところはこの辺で帰るよ。今日渡した資料に目を通しておいてほしいな…少しでも強くなりたいならね。」

今日のうちに用意できたトレーニングについての資料は渡しておいた。

あとは本人がこれを継続してやってもらうしかない。

「…そんなものはないとわかってますけど…一気に力をつける方法なんてないですよね。」

「…んー。」

早瀬さんが調べた限りこの世界には魔法といった類のものはない。

そのためトレーニング以外で強くなる方法があるとすれば…。

(武器を持つ…俺らの世界の銃とか。)

でも弾丸などに限りがあることを考えると得策ではないだろう。

それに…。

「ただ相手を淘汰する力が欲しいってだけなら手段はないことはないよ。君の欲しい力がそういうものなら用意するけど。」

「…なら結構です。」

…誰かを倒したいとかそういう願望があるわけではないっぽいな。

となるとよくあるのは『何かを守りたい』とかなのかな。

「今日はありがとうございました。あと…明日も散歩に出てると思うので探さなくても結構です。早いうちに帰ってくるつもりなので。」

「…了解。じゃあ明日は隠れ家で待たせてもらうね。」

これはつまり詮索をしないで欲しいってことだろうな。

…向こうがそういうなら従うしかないんだけど。

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