無能王子編:ここが僕の隠れ家ですか?

「…このように電気で動く車も近年では開発されてきています。」

「電気ってこの部屋の灯りとかもそうですよね。」

「はい。そして電気を利用することで環境への配慮が…。」

「2人とも~。そろそろ異世界行く時間だから準備してね~。」

「あ、もうそんな時間ですか。ルシルさん、準備しましょうか。」

「はい、今日もありがとうございました。」

今日私は初めて異世界へ行き仕事をする。

初日のため皆さんの後ろから仕事ぶりをよくみるようにと言われているためやれることは少ないかもしれないけれど、それはそれとして緊張はしていた。

「はい、移動するよ~。適当なとこに捕まって衝撃に耐えてね。」

佐久間さんの声が聞こえてから数秒後、事務所が大きく揺れた。

…私のいた世界から移動した時も同じような揺れがあったが…どうしてもこれには慣れない気がする。

「ルシルさん!大丈夫でしたか?」

「早瀬さん、大丈夫ですけどやっぱりびっくりしますね。」

「とりあえず一階に集合です!行きましょう!」

「はい。」




「はい、そんなこんなで異世界に着きました。とりあえずいつも通り留守番と情報収集に割り振ろうと思うんだけど…ルシルさんは一旦留守番かな。」

「わ、私だって偵察など頑張りますよ?」

「ありがとうございます。ただ、まだこの世界がどんな世界かわからない以上はまだ事務所にいたほうがいいかと。」

「そうですね!凄く治安が悪い世界である可能性もあるので!」

「治安が悪くなさそうなら明日とかに2人で情報収集してもらったりもするかもだから、今のところはゆっくり上原さんと待ってて欲しいな。」

「…わかりました。」

でもやっぱり情報収集のほうがやってみたかったな。

別に佐久間さんと異世界を回ってみたかったとかでは決してなく。

決して。

「よし。じゃあ早瀬さんと俺で情報収集に…。」

コンコン。

ドアを誰かがノックした。

「「「「早くない!?」」」」

「上原さん、悪性反応は?」

「特にないですね。」

「となると恐らく主人公か…にしてもこんなに早く来てくれるのは有難いな。」

「う…すみません。」

運命に反抗したいとかですぐに来なくてすみません…。

「別に気にしないでいいよ。」

佐久間さん…!

「はーい。ちょっと待っててください。」

佐久間さんの優しさに感動していたらいつの間にか主人公さんを呼び込んでいた。

初仕事、どうなるんだろう。




「さて、こちらに着いてはあらかた説明が終わったけど…どうかな、流石に納得するのには時間がかかりそうかな。」

「そう…ですね。」

今回の主人公は随分と幼い。

見た感じ、まだ小学校低学年くらいかな?

そんな彼がここに辿り着いたのは『自身の隠れ家』を探すためだったという。

「僕の名前はソウド・ラインハルト。ライト王国の第三王子です。」

彼は兄弟の中でも能力が低い、所謂出来損ないのレッテルが貼られているらしい。

王子であるにもかかわらず周りから馬鹿にされ続けていたある日、しばらく国を出て1人で生活し、己を磨くよう王から指示を置けたとのことだ。

本来は王が用意した別荘を隠れ家にする予定だったためそれを探していたら、何故かこの事務所が合った方角が気になりドアをノックしてしまったという。

「でも、お兄さんたちは悪い人ではない気がするんです。僕、信じます。」

ピュアで助かる。

…というより、これが主人公の器なんだろうな。

「ありがとう。じゃあ早速、俺たちに何か手伝えることはあるかな?」

「その…えっと…。」

…随分と悩んでいる。

ただこの反応は内容が決まってないというより、その願いを伝えるかで悩んでいる感じかな。

「…実はこの試練は他の兄弟も過去に挑んでいて無事にやり遂げているんですけれど、まだ僕は1人でそれをこなすのが不安で…その手伝いをお願いしても良いですか。」

「はい。私たちは頼まれるのであればそれを尊重し手助けさせていただきます。」

…なんだか誤魔化された感があるが…本人が話してくれない以上はしょうがない。

彼の口にしたものを素直に手伝おう。

「具体的に何かをこなすようにって指示はされてるのかな?」

「いいえ、王宮を出て従者がいない中でも生き延びる術を知るのが目的だったはずなので…。強いて言うなら無一文で外に出されたので食料などは狩りで賄わせるつもりなのかなと。」

狩り?釣りとかじゃダメなんかな?

まぁ本人が狩りをしたいなら止めないけれど。

「じゃあとりあえず1人で狩りができるぐらいの実力をつけるのと、1人でも生き延びるスキルを覚えてもらう感じかな。」

「はい、それでお願いします。」

にしても随分と縮こまってるな。

王子って聞いたからもっと堂々としてるのかと思ったが…そんな自信がなくなるほど周りから馬鹿にされてきていたのだろうか。

「じゃあ早瀬さんのみ情報収集に変更。残りのメンツでできる限り彼の目標達成のために動こう。」

「了解しました!」

「はい、ルシルさんも頑張りましょう。」

「は、はい!頑張ります!」




とりあえず今はソウド君の腕っぷしを確認中なんだけど…まぁ小学校低学年が木の剣を持って襲いかかってきてるレベル。

つまり普通に弱い。

「はぁ…はぁ…当たらない。」

こちらが避けていたら勝手にバテてしまう。

「これは剣術以前に基礎体力が必要な気がするね。あんまり運動とかしてこなかった?」

「昔から…はぁ…体力なくて…。」

…体力作りは5日以内ではできない。

トレーニングメニューを与える程度しかできそうにないな。

狩りに関しては…しばらくは技術を与えてなんとかする他ないか。

「佐久間さん。本来ソウドさんが住む予定だった隠れ家らしきものを発見しました。結構近かったです。」

「お、ありがとう。案内してもらって良い?」




「さて、君は従者がいない中で家事などを全てこなさなければいけない。というわけで一通り家事スキルを見せてほしいな。とりあえずこの隠れ家を掃除してみよう。」

「は、はい。」

~30分後~

すっごい下手。

来た時よりも部屋が埃っぽくなっている。

「す、すみません。」

めちゃくちゃへこんでいる。

「大丈夫、家事スキルは俺たちでも教えられるから。あまり時間はないけれど、少しずつ確実にこなしていこう。」

「…はい。」

…やっぱりなんか隠しているっぽいな。

彼がここにいるのは何か別の理由がありそうだが…詮索するのも違う気がする。

(ゆっくり様子を見ていくしかないかな。)

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