日常編:聖女、改めて感謝する。
「では服選び第二弾です!」
「まだあったのですか。」
「買い物ついでに追加で持ってきました。」
早瀬さんが手にしているのはパジャマ。
「あの…寝るときの服をこだわる意味ってあるんですか?」
…まぁ確かに気持ちはわからなくもない。
正直私も寝るときの格好は簡単なTシャツを着るぐらいの方が楽でいいと思う。
「でも異世界にいる間は佐久間さんと同じ空間で寝泊まりするんです!夜廊下でバッタリ会う可能性もありますよ!」
いやあの人は多少だらしない格好でも気にしないと思うけど…。
「た、確かに!」
でもルシルさんは納得したようだ。
「一つぐらい凄いの持っときましょう!何があるか分かんないですし!」
「は、はい。でも私に着こなせますかね?」
「大丈夫です!佐久間さんもイチコロですよ!」
まぁ2人とも楽しそうだしいいか。
でも今早瀬さんがルシルさんに見せているスケスケのネグリジェだけは何があっても辞めさせよう。
一応ここ職場ですよ?
ルシルさんはうまくやれているだろうか。
この世界に帰ってきて後、俺はすぐに家で寝ていた。
そしてつい先さっき起きてルシルさんが気になり事務所に向かっている。
「ん?」
事務所の入り口にルシルさんと上原さんが立っている。
「どもどもお二人とも…と言ってもルシルさんはわからないか…。」
ここは事務所の外だし言葉は通じないだろう。
「ほらルシルさん。頑張って。」
上原さんがルシルさんに耳打ちしている。
「さ、佐久間さん。おかえりなさい。」
「ええ!?」
事務所の外でもルシルさんの言葉がよく分かる。
つまり…。
「もう日本語理解できたってこと?凄いじゃん!」
「本当ですよ。ルシルさん物凄く物覚え良くてびっくりしました。」
「まだ…少しだけ、分からないこともあります。」
褒められて少し照れている様だ。
「いやいや凄いよ?まだ1日経ってないのに。」
多分ルシルさんの覚えが良いのもあるが上原さんの教えも上手いんだろうな。
「とりあえず簡単な会話程度なら問題ないレベルかと思います。まぁそれでも心配はあるので外に出かける場合は暫く誰かと一緒にするつもりですが。」
「うん、それで問題ないんじゃないかな?」
でもそうか、もう外に出れるレベルに…。
「じゃあ頑張った記念で外食でも行こうか。」
「あら、いいですね。」
「佐久間さんの奢りですか!?」
玄関から早瀬さんが顔を出す。
「ルシルさんにはね。君らはしっかり自分で出しな?」
「でも私ルシルさんに服持ってきました!」
「私も付きっきりで教えましたねぇ…。」
この小娘どもめ。
まぁ実際俺だけ寝てて2人は色々ルシルさんにしてあげてたわけだが。
「分かったよ…あんま高い店は無理だからね。」
「よし、じゃあ行こうか。」
佐久間さんに連いていくと昨日の夜外で見た車輪がついたモノが置いてあった。
「これってなんなんですか?」
「ん?あぁこれは車っていう乗り物でね、移動に便利なんだ。」
くるま…やはり馬車などと同じ乗り物の様だが、原動力は一体なんなのか。
「よし、早瀬さんルシルさんにシートベルトしてあげて。」
「もうできてます!」
「流石。じゃあいくよー。」
動き出した…!
すごい!速さも申し分ないが何より…。
「凄く快適ですね!」
私たちの世界での移動手段は基本的に馬車だったが、あれはお世辞にも快適な乗り心地とは言えない。
凄く揺れるし、天候の影響を強く受ける。
また、山賊などから馬を攻撃されてしまうと一才先に進めなくなる。
「これ凄いです!早瀬さん!」
「そうですよ!車って凄いんです!」
ありとあらゆる面で馬車より高性能だ。
「これってどうやって動いてるんですか?」
「上原さん説明できる?」
「んー…現段階ではルシルさんに伝わる様話すのは難しいですかね。」
そんなに説明が難しいものなのだろうか。
「上原さんの教えを聞いていればいずれは分かりますよね!私頑張ります!」
「は、はいそうですよ?頑張りましょう。」
「…上原さん車が動くシステムわかる?」
「…帰ったら調べておきます。」
「おう…頑張ってね。」
「よし、着いたよ。」
佐久間さんたちに着いて行き、店員の案内を受け席についた。
テーブルの真ん中には網の様な物が設置されている。
「これってなんですか?」
早瀬さんに聞いてみる。
「焼肉です!」
やきにく…名前の通り肉を焼くのだろうが…。
店員が来てその網をいじるとあっという間に火がついた。
「おぉ。」
つい声が出てしまった。
凄い…魔法みたいだ。
「とりあえずカルビと牛タン、あと豚トロとか頼んどくか。」
「ご飯食べますか?」
「食べます!あと今日はアルコールなしでドリンクバーで良いですかね?」
「そうしとこう。そもそも俺は運転してきたから飲めないけど。」
佐久間さん達ががあっという間に注文を済ませる。
「何というか…手慣れてますね。」
「仕事終わりに結構くるんですよね。」
「人間は肉食っておけばとりあえず幸せになれるからね。」
そういうものなのだろうか。
暫く待つと注文していた肉がテーブルに並んだ。
佐久間さんが慣れた手つきで肉を網に乗せる。
香ばしい香りがあたりに充満する。
なるほど確かにこれは幸せな気持ちになるかも。
「ほら焼けたよ。ルシルさんどうぞ。」
小皿に肉が置かれる。
…ただ肉ぐらいなら私の世界でも食べたことがあるし、正直焼いただけでそこまで変わるわけがないのでは?
「いただきます…!?」
口に入れた瞬間まず驚かされたのは肉の柔らかさ。
私が食べたことのある肉というのはもっと硬く噛み切りにくい筋張った物だった。
正直そのイメージが強くて、無加工の肉を特別美味しいと思ったことがなかったのだが…。
「凄く美味しいです!なんですかこれ!?」
「カルビだね。牛のバラ肉だったっけ?」
「確か明確な部位の名前ではなく脂身がある部位の呼び名だった気がします。」
かるび…私の中の肉の概念が一気に好転した。
「美味しそうに食べるねぇ。ほら、牛タンも食べてみ?」
佐久間さんが新しく別の肉を皿に乗せる。
「は、はい。」
ぎゅうたん?を口に含む。
なるほど、これは…柔らかくも弾力のある食感。
こんな肉は食べたことがない。
「これはなんの肉なんですか?」
「これは牛の舌ですね!」
「舌!?」
舌って食べれるの?
「凄いです…新発見がいっぱいです。」
「いっぱい食べなね。よし、俺らも食べよう。」
「そうですね。」
「はい!」
「焼肉はどうだった?」
「凄かったです!同じ肉でも世界でこんなに差があるとは思いませんでした。」
焼肉を食べ終わり、佐久間さんが皆んなを家に送っている。
上原さんと早瀬さんは既に送り終わり、最後に私を事務所に送ってくれている。
「気に入ってくれたのならよかったよ。」
「…佐久間さん、私を連れ出してくれてありがとうございます。」
「んー?別に仕事だからね。気にしなくて良いんだよ?」
「それでもですよ。本当に…あの世界にいた時よりも圧倒的に幸せなんです。」
「そっか。ならこれからの仕事でいっぱい活躍してもらって恩を返してもらおうかな。」
気付いたらすでに事務所に着いた。
もう少し2人だけで話していたいと思ったが…今日はもう遅いし辞めておこう。
「私頑張りますね。」
「うん、俺らと一緒に頑張っていこう。」
事務所に入り部屋に着く。
早瀬さんと一緒に選んだパジャマを着てベッドに座った。
ここに来てからずっと人がいて騒がしかったのもあり、1人になったのが少し心細さもある。
ただ、これからも彼らと一緒に彼らといられるのだと考えると不思議と心が安らいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます