日常編:聖女、日本について知る。
「これがリクルートスーツという、仕事中に着る服装です。」
なるほど…。
何というか不思議な服装だ。
かなり頑丈でいて動きやすくもある。
あと若干神聖な力を感じ取れる。
「これもこの世界で生まれたものなんですか?」
「リクルートスーツ事態はこの世界で作られたものですが、素材や性能は異世界によって与えられたものですね。」
なるほど、本来はこんなに凄い服ではないのか。
「ちなみにハヤセさんはこの服を着ないんですか?」
「私は偵察などが多いので動きやすさ重視でジャージを着てます!」
「本当は異世界でも丈夫なこの服を着て欲しいのですが…。」
「私攻撃は全部避けるので!」
「まぁそれに情報収集などで外に出るときは大体変装をするので、この服は基本的に事務所内で着る物と考えて良いかと。」
なるほど…?
「ちなみに佐久間さんはこの服結構好みなはずです。OLモノ好きなはずなので。」
なるほど!
「早瀬さん!?」
「次は私服ですね!好みの服とかありますか?」
「実は服装の好みとか考えたこともないんです。聖女としての正装か貴族との催しに参加する際のドレスぐらいしか着たことがなくて…。」
「なら色々着てみましょうか!」
早瀬さんが服を袋から大量に出してルシルさんに手渡していく。
ブラウス、パーカー、ワンピースなどなど。
ありとあらゆる服がどんどんでてくる。
…その袋によく入り切ったな。
「とりあえず色々着てみて、好みのものを探してみれば良いかと。」
「分かりました。試してみます。」
「一通り着てみましたがどうでしたか?」
…とりあえず言いたいことが一つ。
「どれも似合いすぎです!」
本当に何を着ても様になる。
ルシルさんはファッションモデルとか向いているのではないだろうか。
「全部着れるようですし、こだわりがないのならその日の気分で選べばいいと思います!」
「で、でもこんなにもらってしまうのは…。」
「大丈夫です!むしろ家に服が多すぎて困ってるのでもらって欲しいです!」
「もらってあげてください…早瀬さんの家はなんというか…物が多いので。」
早瀬さんの家には何度か行ったことがあるが、一言で言うとかなり散らかっており人の歩けるような場所がない。
ゴミが散乱しているわけではないのだが、早瀬さんは気になる物があるとすぐに衝動買いしてしまうのだ。
「最近は空気清浄機が付いたヘッドホンを買いました!」
このようによく分からない物を勢いのみで買っている。
本人曰く『昔から家では修行ばかりで自分の買い物など全くしたことがないから好きなものを買えるのが楽しいんです!』とのことだ。
「そうなんですね…わかりました。ありがたく頂戴いたします。」
「さて!もう休憩も済みましたね!勉強の続きをしましょうか!」
「り、了解しました。」
「じゃあ私はお昼の買い出ししてきます!」
今私はウエハラさんから"日本語"というものを習っているのだが…。
「ウエハラさん、質問があります。」
「はい。何でしょうか。」
「なんで私たちは会話ができるのですか?」
本来もっと早く疑問を持つべきだった。
この世界の言語と私たちの世界では言語が違う。
なのに私たちは違和感なく会話をすることができている。
「これもこの世界の技術なのでしょうか?」
「いえ、これはこの世界の技術でも異世界の技術でもありません。」
どちらのものでもない?
なら一体どんな仕組みが…。
「これについて説明するには一度私たちの雇用主について説明が必要ですね。」
雇用主?
「私たちにはこの仕事をする様にと指示を出している人がいます。私たちはその人たちの話をするときにその存在を"上"と呼んだりしていますね。そんな"上"の方々が提供してくれている力の一つがこの相互理解のスキルです。」
「…スキルですか。」
なんでもそれらの力は異世界か事務所内にいる時しか使えないようになっているらしい。
ウエハラさんが持っている世界を繋げる能力も"上"から授かったものらしい。
「一体何者なんですか?」
「…ルシルさんもよく知っている存在です。なんたって聖女だったのですから。」
「それって…。」
「呼び名の通り、遥か高みである"上"の存在。所謂神様ですね。」
…なんだか一気に壮大な話になった。
いや別世界に飛ぶ時点で壮大ではあるんだけれど。
「ではここで問題です。神と呼ばず"上"と呼んでいるのは何故だと思いますか?」
「え?」
態々神と呼ばない理由。
「…反骨精神?」
「ではないですね。」
「じ、冗談ですよ。」
…元聖女が言うことではないが、神や信仰の話は非常に厄介なものである。
それが様々な思想の行き違いや争いを起こすこともある。
つまり…。
「神と言うと面倒ごとに巻き込まれるからとかですかね?」
「あ、正解です。流石ですね。」
やった!
「経験上、どの世界にも神として崇められるものや伝承があります。それが本当に神と関係があるかはさておき、易々とその名前をだすと信仰深い人と争いが起こったりもするんですよね。」
確かに異世界に行って、その世界の常識とかけ離れた行為をしてしまうと明らかに浮いてしまう。
情報収集なども盛んに行うようだし、浮いてしまうのは困るのだろう。
「ですので常日頃から神と言う単語は避けるようにしているんです。」
「なるほど。」
「さて、先ほどもいった様にこのスキルは事務所内が異世界でしか使えません。これからこの世界で生きるならルシルさんも事務所の外にでることもあるでしょう。そのためにもまずはこの国の言語をしっかりマスターしましょうね。」
「は、はい!」
「…あら、もうお昼ですか。そろそろ昼食にしましょう。」
「はい。お腹すいちゃいました。」
部屋を出ると香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。
階段を降りるとエプロン姿のハヤセさんが調理に励んでいた。
「もう少しでできますよ!」
暫くして目の前に料理が並べられる。
これは…?
「炒飯と中華スープですね。」
「はい。ルシルさんはまだ箸を使えないと思うのでスプーンで食べれる物がいいかなって!」
ちゃーはん?今朝食べた白い粒が具材と混ざってパラパラになっている。
「いただきます。」
一口頬張ると溢れる旨味、小さく刻まれた肉とネギがとてもマッチしている。
「流石早瀬さんですね。料理がお上手です。」
「炒めるだけなのでたいしたことないです!」
そんなこと言いながらも嬉しそうである。
…ふと疑問が湧いた。
「私も料理ができた方が…その、喜んでもらえますかね。」
主にサクマさんとかサクマさんとか。
私がいた世界の国民たちも料理ができる女性は評判が良かった。
「「あー。」」
え?何そのリアクション。
「まぁ佐久間さんなら何食べても喜ぶと思います!」
え!名前出してないのにバレてる!?
ハヤセさん鋭すぎ!
「ただこの事務所で1番料理が上手いのって佐久間さんなんですよね。」
えぇ!そうなの!?
「聞いた限り、小さい頃から料理の技術を仕込まれてたみたいですね。」
「間違いなく喜んでくれはしますが、味で唸らせるのは大変そうですね。」
…別の分野で頑張ってみようかな。
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