日常編:聖女、日本に降り立つ。
私は元聖女のルシルです。
この度、異世界出張相談所のメンバーにしていただき、サクマさんたちと同じ世界に移動させていただくことになりました。
「さて、着いたよルシルさん。ここが俺たちの世界だ。」
ここがサクマさんたちが生まれた世界。
私の新しい人生が始まる場所。
「少し外を見てみても良いですか?」
「あー良いけど…。」
「多分あまりに世界観が違い過ぎて驚くと思います。」
そんなに違うの?
扉を開けてみる。
…何だここは。
周りに木造の建築らしいものは何一つ見つからず、この事務所よりも大きな建物がたくさん立っている。
あの一際高い建物は何だ?
パッと見た感じ全てが窓ガラスでできているようだ。
すると目の前を凄まじい速度で何かが駆け抜ける。
何あの…何?
車輪が付いていてるが馬が引いている様子はない。
原動力は一体?
あと凄く視線を感じる。
周りにはサクマさんがきているような服を着た人が沢山いる。
なんか私目立ってる?
周りの建物はお店だろうか。
看板のようなものはあるが字が読めないため全く内容がわからない。
処理しきれない見慣れない光景ばかり、そして…扉を閉じた。
「どうだった。」
サクマさんが問いかけてくる。
とりあえず1番気になってしまったのは…。
「何というか…空気が…変。」
なんだろう?空気が臭いというか。
「分かる。」
「本当に都会って空気不味いですよね!」
「都会ですからねぇ。」
よかった。
私の鼻がおかしいわけじゃなかった。
「とりあえずこの世界について少しずつでも理解していくため色々と勉強してもらう必要があるね。その辺りは上から指示あった?」
「私が主体でルシルさんに教えるよう指示がありました。」
ウエハラさんが色々と教えてくれるようだ。
サクマさんに教えて欲しかった…というのは流石に我儘だろう。
「よかったよかった!俺と早瀬さんそういうの苦手だからね。」
「否定できません!座学は無理です!」
「これから異世界にいる間も基本は私と一緒に行動して、その中で仕事やこの世界について学んでいただくことになります。よろしいでしょうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
…最初はサクマさんの近くいる女性として警戒していたが、悪い人ではきっとないのだろう。
それにこれから一緒に働いていくことになるのだ。
仲良くやっていかなければ。
「ところでルシルさんは記憶力は良い方でしょうか?」
「はい?悪くはないかと…。」
ウエハラさんがにっこりと微笑む。
「良かったです。それではこの世界の常識などについて徹底的に叩き込ませていただきます。今すぐ。」
今すぐ!?
ついさっき移動してきたばかりなんですが!?
「…上原さん結構スパルタだから。頑張ってね。」
「ファイトです!」
…前言撤回。
もっと警戒して挑もう。
「結構時間が経ちましたね。そろそろ休憩にしましょうか。」
窓の外を見る。
暖かい日差しが入り込んでいる。
ウエハラさんの授業を受けている間に夜が明けてしまったようだ。
まさかあれからノンストップでこの世界のことを教えてくるとは思わなかった。
「でもルシルさんは本当に覚えがよくて助かります。」
「えへへ、ありがとうございます。」
聖女として様々な知識を叩き込まれていた私にとってこれらの勉学は得意分野である。
とはいえ休憩はちゃんと取らせて欲しいが。
「もうすっかり朝ですし、朝食にしましょうか。すぐに用意しますね。」
ウエハラさんがパタパタと掛けていく。
こんなに長い間授業をしてくれる辺り、本気で私の力になろうとしてくれているんだろう。
サクマさんとハヤセさんも本来休日のところを、少し休んでからまた事務所に来てくれるらしい。
…私は本当に素晴らしい方々に助けていただけたのだなと実感する。
今はまだサクマさんの言う通りに自分のことで手一杯だが、いつか彼らの力になれたら良いなと思った。
「ルシルさん、朝食の準備ができました。」
お、早い。
急いで階段を降りた。
…何だコレは。
朝食と聞いてパンのようなものをイメージしていたのだが、目の前に並ぶのは白い粒の塊。
そして茶色い暖かそうなスープ。
流石あたらしい世界。
見たことのない料理だ。
「あ、おにぎりと味噌汁初めてですよね。私たちが住んでいる国ではメジャーな食べものなんです。」
…とりあえずスープを口にする。
口内に心地よい暖かさと優しい香りが広がる。
中身を見てみると何やら具材が入っている。
こらは…海藻とポテトだろうか。
元の世界でもポテトを食べることはあったが、こんな調理方法もあるのか。
次はこの白い粒の塊だ。
…コレどうやって食べるんだろう。
「手で掴んで食べるんですよ。」
なるほど、パンとかと同じ感じなのか。
ウエハラさんがおにぎりと呼んだものを口に頬張る。
少し塩気の効いた味。
そして中身を見ると白い何かが和えられた具材が入っている。
…魚だろうか。
「中身はツナマヨという、魚とマヨネーズという調味料を合わせたものです。」
へーそんなものがあるんだ。
もう一口かぶりつく。
魚の旨味と調味料のコクがとてもあっている。
「この世界ではこんな料理が存在するのですね。」
「実際今まで回ってきた世界と比べると食文化はかなり発達していると思います。」
と言うことはもっと沢山の食事があるということか。
それは凄く楽しみだ。
「食べ終わって暫くしたら再開しましょうね。」
少しだけこの世界の勉強のやる気が上がった。
「お疲れ様です!」
朝食を食べ終わり少し休んでいるとハヤセさんが事務所にやってきた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です早瀬さん。例のモノを持ってきていただけましたか?」
「はい!バッチリです!」
ハヤセさんの手には大きな袋。
「何か持ってきたのですか?」
「この世界でやっていくために必要なモノです!」
そう言ってハヤセさんが袋から取り出したものは…服?
「これって服ですか?」
「はい。聖女の格好はこの世界ではどうしても目立ってしまうので。」
そういえば外に出た時周りの人から凄く注目を集めていた。
あれは私が珍しい格好をしていたからなのか。
そう考えると少し恥ずかしくなる。
「変装などをする都合上様々な服を持っているので!色々持ってきました。」
「それでは仕事中着る予定のリクルートスーツも持ってきますね。」
そう言ってウエハラさんは2階へ戻っていった。
「ちなみに…。」
ハヤセさんが近づいて耳元で囁いてくる。
「気になる殿方を射止めるのに服装はとても重要ですよ!」
…どうやらハヤセさんは凄く良い人のようだ!
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