聖女行方不明編:終わりと始まり
5日目昼。
事務所のドアをノックする音がする。
「はいはい。」
ドアを開けるとルシルさんが立っていた。
「ルシルさん!移動可能か結果出てるよ。とりあえず入って。」
「はい、失礼しますね。あら?」
あ、そういえば2人とは初対面だった。
「紹介するね。あっちのお淑やかそうなのは上原さん。隣の元気良さそうなのが早瀬さん。」
「上原です。よろしくお願い致します。」
「早瀬です。よろしくお願いします!」
さて…昨日帰り際に2人の話をした時は少し怖い感じだったし、上原さん曰く俺ルシルさんに依存されてるらしいけど…大丈夫そうかな?
「ご丁寧にありがとうございます。私は聖…元聖女のルシル・マリアンと申します。」
おや?
なんだか凄く普通な挨拶じゃないの!
やっぱり上原さんの考えすぎじゃないか?
「…。」
今日初めて聖女様に会いましたが…なるほど。
何というか神々しい感じがしますね。
そして…そこはかとなくプレッシャーを感じる。
これは相当佐久間さんのことを気に入っているのだろう。
早瀬さんがヒソヒソと話しかけてくる。
(凄いプレッシャー感じるんですけど佐久間さん気付いてないんですかね?)
(気付いていないでしょうね。なんかニコニコしてますし。)
この人本当に女性関連の理解が甘いな。
「さて、結論から言うと合格だね。こちらの世界に移動しても問題なしとのことだ。」
「本当ですか!」
まぁ点数がギリギリだったことに関しては伝える必要もないだろう。
俺たちでしっかりと心のケアをすれば良い。
「というわけでこれからは俺たちの同僚になるってわけだ。これからよろしくね。」
「はい!皆さん、これからよろしくお願いします!」
「…はい、よろしくお願い致します!」
「人が増えて嬉しいです!よろしくお願いします!」
「さて、それじゃあどうする?他にこの世界でやっておきたい事とかがあるなら手伝うけど。特にないなら事務所にいてくれても構わないよ。」
「そうですね。特に手伝っていただくことはないのですが残りの時間はこの世界を少し見て回りたいです。」
「了解。今日の夜には事務所ごと俺たちの世界に帰るからそれまでには帰ってきてね。」
「はい!何から何までありがとうございます。」
ルシルさんはお辞儀をして事務所から出ていった。
「見てまわりたいってことはやっぱり心残りなどが多少はあるということでしょうか?」
「あーそういえば元々展望台にいたのはそこから見たいものがあるからって言ってたな。」
「何か特別なものが見れるんですかね?」
「さぁ?詳しくは分からないな。」
「でも行き先に見当がつくなら迎えに行くこともできそうですね。」
「そうだね。あんまり帰りが遅い時は行ってみようか。」
いつもの展望台に着く。
私の聖女としてのあり方を生んだ地獄のような場所でもあり、彼と出会えた天国のような場所。
階段を登り街を見下ろす。
どうやらベストタイミングだったようだ。
結界には無数のヒビが入っており、今にも壊れそうな状態だ。
街の外では魔物が結界を壊そうと集まっており、そうはさせまいと兵士たちが戦っている。
そんな抵抗したところでもう意味はないのに。
街の中では蟻程度の大きさの国民たちが慌てふためき、悲鳴を上げながら駆け回っている。
焦ったところでもう手遅れだというのに。
城の中はわからないが…あの人たちは逃げていないと思う。
あの人たちは多分最後まで自分の地位にこだわって手放したくないと引き篭っているだろう。
それに例え逃げだしていたって、元から権力しかなかった彼らが外に出て魔物から逃げ切れるはずもない。
マモンは兵士たちがなんだかんだ自分を守ってくれるなどと楽観的に考えていそうだ。
そんなことを考えていると…。
「あ…割れる。」
結界が割れた。
一段と大きくなる悲鳴。
兵士も国民も逃げ惑う。
あるものは城の中に入れてくれと門を叩く。
あるものは街はもう駄目だと見切りをつけ街の外にでていく。
どちらを選んでも結果は変わらないのだけれど。
魔物がどんどん街の中へ入っていく。
建物は壊され、田畑は踏み荒らされる。
…城を囲む城壁も崩された。
本当にあっという間だった。
もうこの国は間違いなくお終いだろう。
私の人生のほとんどを過ごした国、私が人生のほとんどをかけて守っていた国。
それが瞬く間に崩壊していった。
それでなのに…私の人生そのものといっても良い国が壊されているのに少しも悲しい気持ちが湧いてこない。
それがどこか虚しくも感じるし、どこか可笑しくも感じてしまう。
よし、そろそろ帰ろうかな!
もう夕方になる。
佐久間さんたちに心配をかけるわけにはいかない。
展望台から降りるとサクマさんが立っていた。
「お疲れ様。見たかったものは見れた?」
まさか彼がここで待っているとは微塵も思っていなかったため少し動揺してしまう。
ここからも街から鳴り響く悲鳴は聞こえている。
…恐らく『私が見たかったもの』が何だったのか…彼にはそれがわかってしまっただろう。
「幻滅しましたか?」
もしこれで彼に嫌われてしまったら私は…。
「ん?何で?別に何も聞こえないけど。」
…今も現在進行形で悲鳴が鳴っているし、別に何か聞こえたかを聞いたわけでもないのに。
「ぷっ…嘘が下手なんですね。」
「ナンノコトカナー。」
私の復讐心まで認めてくれているんですね。
本当に、残酷なほどに優しい人だ。
「そろそろ時間です。早く帰りましょう。ルシルさんの新しい居場所に。」
「…はい!」
「佐久間さんとルシルさん。お帰りなさいませ。」
事務所に帰ると上原さんが迎えてくれた。
「あれ?早瀬さんは?」
「仮眠室の整理中です。ルシルさんが私たちの世界にいる間、事務所に住むことになるので。」
「整理終わりました!あ!お二人ともお帰りなさい!」
丁度整理が終わったようだ。
「じゃあ早瀬さんルシルさんを部屋に案内してもらっていい?」
「お願いしてもよろしいですか?」
「もちろんです!こちらです!」
2人は2階の仮眠室へ行った。
「…どうかしましたか?」
上原さんが話しかけてきた。
「別に…強いて言うなら自業自得ざまぁみろって感じかな。」
「はぁ…。」
上原さんは心配そうにこちらを見ている。
「まぁあれだよ。自分に優しくしてくれた人に酷いことはしてはいけないっていう、当たり前のことが改めてわかっただけ。」
「ルシルさんは…これからやっていけるのでしょうか?」
「分からない、これから彼女がどう生きるかだからね。俺たちはただできる限りのサポートをしてあげるだけだよ。」
「…そうですね。」
「さて!じゃあ2人が2階から帰ってき次第これからの予定についてみんなで話し合おうか。」
「はい!」
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