聖女行方不明編:予想外の報告
「…はぁ。」
小さくため息をつく。
佐久間さんに休んでもらって代わりに情報収集に行ったものの、聖女の行方は分からないままだった。
もう日も沈んですっかり夜になる。
残り1日でこちらからできる手助けなどたかが知れている。
稀に大きな願望が少しもなく一瞬で解決することがなくもないが。
「やっぱり5日って短すぎますよ。」
基本的に私たちは月曜日から金曜日まで異世界転生をし、土日に現世に戻る生活をしている。
基本的には主人公は自ら事務所に来るようになっているため、多くて5日間全部を手助けに使えるのだが…前回の悪役令嬢のキアラさんや今回の聖女様のように自ら来てくれないとどんどんできることに限りが出てくるようになる。
「お疲れ様です!」
あ、早瀬さんだ。
「お疲れ様です早瀬さん。そちらの方は…。」
「全然です!聖女のせの字もありませんでした!」
やっぱり駄目か…。
「今回は何もできずに終わりそうですね。」
「そうですね!給料下がっちゃいますかね?」
「報告書で手は抜いてない旨を精一杯書くしかないですかね。」
「正直人手不足じゃないですか?誰か1人は事務所に残らないといけないしもう少し人を増やして欲しいです!」
確かに…実働隊が2人しかいないのはシンプルに不便だ。
「人材追加について、上に少し掛け合ってみても良いかもしれませんね。」
そんなことを話していたら事務所に着いた。
…佐久間さんはしっかり療養してくれただろうか。
「お帰り2人とも。突然だけど聖女見つかったよ。」
「「はい?」」
上原さんと早瀬さんの声が重なる。
「え?事務所に来たのですか?それにしても何で今頃になって…?」
「あー…とりあえず一から説明するね?」
俺は展望台での出来事などを2人に説明した。
「じゃあ1日目から聖女様に会ってたって事ですか!」
「まぁ結果的にはね。」
「とりあえずこの事務所に来れたのならその聖女様が主人公で間違いわなさそうですね。しかし…。」
「残り1日で私たちに出来ることってほとんどなさそうです!」
「それに着いて何だけど…彼女の願いはこの世界から俺たちの世界への移動らしいんだ。」
「私たちの世界への移動ですか…。」
「一応前例はある。だからそれについて上に掛け合って欲しい。あとこれ報告書。」
上原さんに手書きの報告書を渡す。
「了解しました。」
「前例があるんですね!」
うちのメンツで1番最近入ったのは早瀬さんだし知らないのも無理はないか。
「そうだね。異世界から俺たちの世界に来た場合は監視下に置く意味も込めてこの事務所で働いてもらうことになる。」
「ということは同僚が増えるって事ですね!」
「こちらとしても人手不足だと思っていたのでとても助かりますね。」
「まぁ上が移動を許可すればね。」
実際問題行動を起こしそうな人には見えないし多分問題ないとは思うけど。
「聖女様の移動の申請、完了しました。明日の昼までには結果が出るかと思われます。」
「ありがとう上原さん。」
「ということはもうこの世界での仕事はほぼ終わりってことですね!」
「まぁもしも申請が通らなかった場合は残った時間で可能な限り手助けが必要だし、申請が通ったとしても残った時間でやりたいことがあるなら手助けすることになるだろうね。」
「何かしたいなど他に仰っていたことはありますか?」
「うーん…特にいってなかったとは思うけど…。」
「心当たりはありそうですね!」
「…本人が人に都合よく使われるような人生を嫌がってる感じがするから、聖女としての身分を隠して生活する…とかなら希望してきそうだな。」
聖女として多くの人の為に努めてきたのに、その結果が自分勝手な婚約破棄と国民に売られるという…何とも気分が悪くなる話だ。
「俺としてはさ、こっちの世界に来たら出来る限り自分のために自由に生きて欲しいんだ。この世界で彼女が背負っていたものはあまりにも重すぎたんだ。せめてこれからの彼女の人生がもっと気楽なものであって欲しいな。」
「そうですね。できる限りのサポートを致しましょう。」
「了解です。」
この世界に来て5日目。
「佐久間さん。結果が届きました。」
「結果って合格不合格だけなんですか?」
早瀬さんが上原さんの手元の資料を覗き込む。
「いや、確かその人の性格とか能力とか諸々から点数をつけてて合格点に達しているかどうかだったかな?」
俺も上原さんの手元を覗き込む。
「…点数は70点。合格点が70点なのでギリギリ丁度で合格ですね。」
「まじ?そんなにギリギリなんだ。」
「採点基準が厳しいんですかね?」
そんなことはなかったと思うけど…。
届いた資料に目を通すと、能力の面では特に危険性もなくかつ有能であると最高評価である。しかし精神面の評価がかなり低かった。
「なになに?『直前まで自暴自棄な精神状態であった点や現在も気に入った相手に対してのみ依存しているような状態であることが懸念点。しかし今後の対応によって回復する可能性もある。』と…。」
確かに精神面はかなり追い詰められてたし多少はしょうがないと思うけど。
「てか依存ってなんだ?そんな相手いたら別世界行こうとか思わないだろ。」
「いや…それは明らかに佐久間さんのことですよ。」
「はえ?」
「多くの人間に裏切られて自暴自棄になっているところに現れて新しく生きる理由や目標をくれた人に依存するのはしょうがないことなのでは?」
「えー?あんまりそんな感じしなかったけどな。」
それはそれとして上原さんがハムスターみたいに両頬を膨らませているのは何故?
「まぁ?私たちが必死に働いている間に?異世界の女性にうつつを抜かしてたんですし?」
なんかもの凄く不機嫌になってしまった。
助けて早瀬さん。
「どうしよう早瀬さん。上原さん怒っちゃったんだけど。」
「乙女心です!頑張ってください!」
何を頑張ればよくて?
「というか毎日2人は会っていたんですか?私が聞いた限りでは初日に知り合った程度だったのですが!?」
「だ、だって情報収集上手くいかないしやることあんまりなかったから…。」
「言い訳ですか?」
「ヒェッ…。」
こっわ!
聞いたことないくらい低い声だすじゃん。
とりあえず上原さんには誠心誠意の土下座をして何とか拳をおろしてもらった。
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