聖女行方不明編:貴方のそばに

さぁ、彼に会いにいこう。

彼が言っていたように気になる方向へ進んでみる。

自分の本能のままに進んでいくと不思議な空間にでた。

すごい場所だ。

魔物がいるような気配が少しもなく、どこか精神的に落ち着く場所である。

それにしても魔物が少しもいないのはどの様な力が働いているのだろう。

もしかして私のように結界が張れるものがいるのだろうか。

そんなことを考えながら建物の扉を叩く。

『はーい!ちょっと待ってください!』

彼の声がした!

彼は扉を開けて私が立っていた時どんな顔をするだろう。

どんな反応をするのかすごく楽しみだ。

…でも私を探しているのにすぐ名乗り出れなかったため無駄足を踏ませてしまったし、そこについては謝らなきゃ。




扉が開き、彼が私を迎え入れる。

私はとりあえず素性を偽っていたこと謝罪した。

本当の名前を伝えた時、彼は口をポカンと開き固まっていた。

相当驚いたのだろう。

謝罪中だというのに少し笑ってしまった。

…名前や立場を偽っていた私に対し、彼は自分たちの元へ来てくれたことが嬉しいと言う。

本当に何で優しい方なのだろう。

どんどん私の中で彼の存在が大きくなる。

前に聞いた話の通りだと彼は私の願いを助けてくれる。

彼にどんな願いをしてみようか。




流石に予想外だった。

まさか彼はこの世界とは別の世界から来ており、この世界にはあと2日ほどしかいないというではないか。

そんな…少しずつ仲を深めてずっとそばにいてもらうようにするつもりだったのに。

それにさらっと『俺たち』と言っていた。

確かに改めて考えると異世界に1人で来ているとは限らない。

もしかしたら…他の女性などもいるのだろうか。

どうしようどうしようどうしよう。

このままじゃ彼と離れ離れになってしまう。

そして離れ離れになったら…彼が誰かに取られてしまう。

嫌だ嫌だそれだけは嫌だ。

これ以上誰かに搾取されたくない。

彼は私の大切な人だ。

私の愛した、私だけのものだ。

誰にも渡したりなんかしない。

彼が離れたいと言っても絶対に離れてなんかやらない。

でも一体どうすれば…。

…そうだ。

私の元に彼を留めなくても良いのだ。

私から…彼の元へ行けば良い。

俯いていた姿勢から一変、彼を真っ直ぐに見つめる。

しっかりと彼に伝えよう。

少しでも私のこの想いが彼に届くように。

「私を貴方と同じ世界へ連れ去って、貴方のおそばにいさせてください。」




「…成る程。」

俺たちの世界に移りたいってことか。

まぁ今までの話からしてこの世界に対する未練なんてこれっぽっちもなく、さっさと出ていきたいのだろう。

おれのそばにいたいっていうのは多分知らない世界で心細いから知っている人間がそばにいてサポートして欲しいってことかな?

一瞬告白でもされたのかと思ったわ。

「…ダメでしょうか?」

ルシルさんがうるうるとした瞳で俺のことを見上げてくる。

めっちゃ可愛い。

「いや不可能ではありません。」

…こちらの世界に異世界の住人を連れてきた前例がある。

とはいえ中々特殊な例ではあるが。

「まずこちらの世界に移れるがどうかの確認には少し時間が掛かります。」

こちらの世界に危険な力を持つ人間を連れてくるわけにはいかないため、上に問題のない人物か確認をとってもらう必要がある。

例えば性格が良い温和な人でも一撃で世界を破壊できるようなやつは連れていけないし、特別な力がなくとも思想がヤバい奴は連れていない。

これらを俺らの尺度ではなく上の奴らに決めてもらうのだ。

「ただ…こちらの世界に来てもらう場合、必ず俺らの監視下にいてもらう必要があります。つまるところ俺と同じように異世界に回って働いていただくことになるんですが…。」

正直これが心配なんだよな。

こんな異世界を回る仕事だ。

もちろん危険なところに行くこともあるし、世界によっては倫理観の違いや辛い内容の手伝いなどから精神的に追い詰められることも少なくない。

何より…ルシルさん確か人の手助けをしたくないんだよね?

「それってサクマさんと同じ仕事をするってことですよね?」

「そうですね。」

「サクマさんと一緒に働けるってことですよね?」

「ん?まぁそうなりますね。」

「やります!是非!聖女なので人助け得意です!」

あれぇ!?

何でそんなにノリノリなの?

(異世界の他人は興味ありませんがサクマさんのためなら人助けします!好きな人のために頑張ってみれば良いって言ってましたもんね!)

ニコニコしながらルシルさんが見つめてくる。

「でも結構しんどい仕事ですよ?正直おすすめできないんですけど…。」

「大丈夫です。それに足を引っ張るつもりもありません。そうですね…サクマさん怪我をしてませんか?」

「怪我?まぁ少しは…。」

「というか昨日の傷はメイクじゃないんですか!?だとしたら全身傷だらけじゃないですか。」

そういえばメイクってことにしてたんだった。

「まったく…少し失礼しますね。」

ルシルさんが俺の手を取る。

すると周りから淡い光が溢れ出し、傷口が塞がっていった。

「え!すご!」

「聖女ですから。」

聖女ってそういうものなの?

「それにご存知だと思いますが結界を張ることができます。規模が大きいものとなると時間が掛かりますが小規模なら一瞬でできます。あと魔物にのみ攻撃手段があります。」

…超優良物件では?

力の内容的にこっちの世界で大きな問題起こすものじゃなさそうだし。

怪我して帰ってきても上原さんに小言…心配をかけることも減るのでは?

「これ凄いですね!そして何より凄く優しい力だ。」

ルシルは少し恥ずかしそうに微笑む。

傷を治す為に握っていた手をさらに強く握る。

「私…サクマさんの力になりたいんです。どうか貴方のおそばに置いてください。」

少し不安そうに震えている。

やはり別の世界へ行くことに心配があるのだろう。

「…心配しなくても、もしもこちらの世界に移動することとなった皆んなで精一杯サポートさせて貰います!安心してください!」

(そういう意味ではないんですが…。)

「そうですね。ありがとうございます。」

(やはりお優しい方ですね。)




「それじゃあ上に掛け合っておきます。どうしますか?事務所は安全ですしここで結果が来るのを待ちますか?」

「お気遣いありがとうございます。ですか私、展望台で見たいものがまだ見れていないので。」

「あーそういえばそんなこと言ってましたね。」

「はい、ですのでまた明日こちらに伺わせていただきます。」

玄関まで行こうとするルシルさんが立ち止まる。

「そういえば…この事務所で働いている人の中には女性もいるんですか?」

「え?はい。3人で男1人女2人です。」

「…そうですか。」

あれぇ?変わらずニコニコしているのに凄い寒気する。

…大丈夫だよね?危ない思想とかないよね?

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