聖女行方不明編:新しい選択肢
次の日、彼が私の元に来てくれた。
彼は文化も何もかもが違う国から来たようだ。
私は生まれてすぐに聖女としての教育を受けされられていたから国の外の事は本で読んだことがある程度だ。
しかし彼から聞いた話は全くといっていいほど知らない事ばかりだった。
私の知らないような世界をたくさん教えてもらった。
きっと話を聞いているときの私は年甲斐もなくはしゃいでしまっていただろう。
初めて出会ったときより遥かに彼に興味を持った。
帰り際に名前を聞いたら、こちらも聞き返された。
正直に答えるのはまだ少し怖いから…適当にアスモと答えておいた。
明日も彼は来てくれるだろうか。
また彼は私の元に来てくれた。
その日の彼は何故か執事の格好で不思議なメイクもしていたため、最初は彼だと気付かなかった。
どうやら仕事でそのような格好をしていたらしい。
本当に面白い人だなと思った。
…どうやら彼は人助けをする仕事をしているらしい。
そして彼は…私を助けるために奔走していると言うのだ。
…私は彼のように人助けをすることは出来ない。
こんな碌でもない聖女なんて助ける価値もないのだとやんわりと彼に伝えてみた。
でも彼はこんな聖女を…私を一個人として大切に、優しく評価してくれた。
国や国民を愛せなくなった私は間違ってなんかいないのだと…今は何より自分を大切にしていいのだと…。
誰1人としてそんな言葉を私にかけてくれたりはしなかったのに。
我ながら単純だなと思う。
私が欲しかった答えを出してくれた都合の良い相手。
そんな彼のことで頭がいっぱいになった。
彼とともに展望台の階段を降りる。
我儘をいって手を繋いで降りてもらった。
夕方でよかった。
夕日が出ていなかったら今頃私の顔の赤さに気付かれていただろう。
…彼は明日は展望台に来れないらしい。
それなら明日は私から出向いてしまおうか。
場所は何となくだが分かっている。
彼が言っていた『主人公が何となく気になり引き寄せられる場所』に向かえば良いのだ。
明日もきっと彼に会える。
そう思えるだけで心が軽くなった。
アスモさんと別れて事務所に着いた。
そして今、俺は上原さんに正座させられている。
「情報収集が捗らなかったり出禁になるのは正直しょうがないと私も思います!ただ何でそんな全身傷だらけになってるんですか!」
「いや…早瀬さんの情報収集の邪魔になるかもしれんし…。」
「だからってもっとやり方はなかったのですか?惹きつけるだけ惹きつけて逃げるとか!」
まぁやろうと思えば出来るけどさぁ…。
「戦うなとは言いませんがもっとご自身の身体を労ってください。」
「はい…。」
「ただいま戻りました!あれ?佐久間さん傷だらけです!」
「お帰り早瀬さん。よし!情報収集の結果報告しようか!」
「…後でお説教の続きですから。」
…話を逸れせなかったか。
「というわけで分かったことは誘拐された後に聖女が逃げ出しているということだけだね。」
「かと言って前の国に戻っているような情報はありませんでした!」
「…さらに遠くの別の国に移動したのでしょうか。」
「それか…国に入らず潜伏してるとか?」
「お城で生活してた聖女さまにそんなサバイバル生活が出来るのでしょうか?」
「うーん…それこそ長生きするつもりがないとか?」
だとしたら…後味の悪い展開になりそうだな。
人生を諦めた聖女がそのまま衰弱して、2つの国は魔物に対抗できず崩壊。
「胸糞展開だなぁ…。」
「もうこの世界にいられる期間も半分を過ぎています。とりあえず明日は私と早瀬さんで別の国をできる限り調べてみましょう。」
「え?俺は?」
「佐久間さんは療養です!少なくとも明日1日は事務所で留守番しててください!」
「えぇ…別にかすり傷ばっかりだし…。」
「佐久間さん!明日はゆっくりしててください!正直今回あんまり良いとこないです!」
早瀬さん!?
笑顔でハート抉らないで?
「分かったよ…もう何があっても事務所からでないから…もう知らないから!」
「拗ねないでくださいよ…。」
「面倒な彼女みたいですね!」
暇である。
別に事務所で留守番することはちょくちょくあるけれど…今回の場合、報告書に書けることも殆どないからなぁ。
まぁ仕事だしパパッと報告書作っておくか。
まぁPCは上原さんしか使えないから手書きだし、上原さんが帰ってくるまで送れないんだけど…。
報告書を書きながらふと展望台での出来事を思い出す。
そういえば彼女はそもそもどこの国に住んでいる人なのだろうか。
1番近いのは聖女を監禁していた国だと思うが。
…にしてもアスモさん聖女の評価が驚くほど低かったな。
聞き込みした情報では国のために尽くしていた聖女って聞いてたんだけれど…。
もしかしたら聖女とそれなりに近い関係の人物だったりするのだろうか。
…城に仕える従者とかだったり?
そんなことを考えていると事務所のノックがなる。
周りから悪性反応は特になし。
上原さんと早瀬さんが帰ってくるには余りにも早すぎる。
もしかして主人公来た!?
何で今更!?
「はーい!ちょっと待ってください!」
とりあえず報告書とか諸々を片付けて…。
急いで玄関の扉を開ける。
するとそこには最近よく見かけた銀髪の女性…アスモさんが立っていた。
何でアスモさんがここにいるのか?
よく分からないがとりあえず事務所に入ってもらった。
アスモさんが口を開く。
「サクマさん。私、あなたに謝らなければならないことがあるんです。」
「謝らなければいけないこと?」
「私の名前…アスモではないんです。」
「はい?」
「私の本当の名前はルシル・マリアン。あなたの探していた…聖女本人です。」
「はい…はい!?」
話を伺ったところ、追われる立場であるため素直に名前を教えるのも素性を伝えることもできなかったとのこと。
「いや、それでも俺たちの事務所まで来てくれて嬉しいよ。」
「はい!私サクマさんのことなら信用できます!」
マジ!?
いつのまにそんなに好感度上がってたんだ?
「ま、まぁそこまで信用してくれて嬉しいよ。それじゃあ今君が成し遂げたいことは何かあるかな?といってももう2日ぐらいしかないんだけど…。」
「えっ…?2日しかないってどういうことですか?」
あ、そういえば俺が別世界から来ていることは話してなかったから。
「そうですね。一度俺の仕事について色々と説明させてもらいます。」
「…というわけで後少しで俺たちは元の世界に帰る必要があるんですよ。」
…アスモ…じゃなかったルシルさんは俯いてしまっている。
まぁもう殆ど時間がないし俺らがしてやれることも少なそうだからなぁ。
期待外れだとか思われていないだろうか。
「…どんな手伝いもしていただけるのですか?」
「え?まぁ俺たちに出来ることであれば可能な限り答えるよう努力しました。」
「わかりました。それではひとつだけ手伝って欲しいのですが…。」
ルシルさんは俺に微笑みながら答える。
「私を貴方と同じ世界へ連れ去って、貴方のおそばにいさせてください。」
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