聖女行方不明編:質問してもいいですか?

「いやーすみません。変装中なの忘れてました。」

 とりあえず髪を外しメイクを取った。

「すごいですね!人って魔法とか使わなくてもこんなに変わるんですか!傷もリアルです!」

 すみません傷はガチです。

「ですが何故そのような格好を?」

「いやぁ仕事でして。ちょっとした人助けをしてるんです。」

 …一瞬アスモさんの顔が曇ったような気がする。

 まずいこと話したかな?

 他人の仕事の話嫌いだったりする?

「…人助けとはいったいどのような事を?」

 あ、そっちか。

「うーん。まぁ特定の人の願望の手伝いって感じですかね。」

「ということはその人の為に変装をしていると…。」

「いや、実は依頼者には未だ出会えていないんですよね。だからその人を探す為に色々と情報収集をしてまして…。」

「成る程?」

 あんまりよく分かってない感じだ。

 そりゃ普通は依頼者から俺らに頼みにくるのに自分から探してるとは意味不明である。

「ちょっと変な話なんですけど、間違いなくこの辺りにその人がいるはずなんです。本来その人も何となく俺たちの事務所に惹かれて行くようになってるんですけどね。」

「…特定の場所に惹かれる?」

「変ですよねぇ。ちょっと説明が難しくて。あと一応、依頼者と思われる人間はもう特定できたんですよ。ルシルとかいう聖女さんです?」

 アスモさんがビクッとした。

「…聖女の助けをするなんておかしな話ですね。」

「え?そうですかね?」

「そうですよ。聖女は国民をその身に変えても助ける仕事です。助けられる側ではなく助ける側なんですよ。」

 あー確かに、でも…。

「だからきっと聖女も助けを欲してなんか…。」

「でもそれなら誰が聖女さんを助けてあげられるんですか?」

「え?」

「聖女だって人間なんだから助けて欲しいことがあるのは普通でしょう。」

 俺は景色に目を向ける。

「…この仕事をしていて色々なやつを見てきました。世界を救う旅をする奴。国のために命をかける奴。裏切られながらも逞しく生きる奴。自分の命の危機に懸命に抗う奴。」

 アスモさんがこちらをじっと見つめている。

「どいつもコイツもすごい奴ばかりです。でもみんな助けを欲していた。だから俺たちと出会った。」

 再びアスモさんに目を向ける。

「案外そんなものなんですよ。国民を守る使命や義務があるからって誰からも助けられちゃいけない。苦しみから逃れてはいけないなんてことは絶対にない。断言できます。」

 アスモさんは俯きながら震えている。

「…でも聖女はその方々のように立派な者ではありません。」

 アスモさんがボソリと呟く。

「では質問なのですが、聖女が碌でもない人間だった場合はどうしますか?国民のことなんてもういい、誰かのために力を使いたくないと考える愚か者なら。」

「別に良くないですか。」

 俺の回答に心底驚いたのか、口がポカーンと空いているアスモさん。

「そもそも人間を助けることができる奴の大半は自分を大切にできているんです。お腹が空いている子にパンをあげられるのは自分の分のパンを持っている奴。心の余裕が人を助けられるんですよ。」

 まぁ稀に自分の命を賭して動く生まれながらの正義の人もいるが…。

「自分に余裕がないくせに人を助ける奴は個人的には邪魔ですね。傲慢だと思います。」

 勝手に人に手を差し伸べて自分を削る。

 言うなれば自己満足の為の手助けは、残された人間のことをまともに考えちゃいない。

「だから聖女さんが人を助けたくないというのならそれだけ余裕がないんです。是非とも自分のために生きてもらいましょう。そして十分に力を蓄えられてからどう生きるかって感じかと思います。」

「…心に余裕ができた上で人を一切助けたくない場合はどうですか。」

「まぁ個人的にはいいと思いますけど、生きてく上で人と助け合わないのって大変なんですよね。だからもっと利己的に人を助けたり…あと好きな人にだけ手を差し伸べたりしてもいいんじゃない?」

 そもそも例え聖女だからといって、人1人に助けらる人数なんて限られている。

 たった1人に国を背負わせる方が頭おかしいだろ。

「だから大人しく聖女さんには出てきて欲しいんですよね。そして存分に我儘をいってほしい。今は休んで次を見極めるタイミングなんだと思います。」

チラリとアスモさんを見る。

アスモさんは震えながら涙を流していた。

「え!?何で!?」

「す、すみません!つい涙が…。」

俺そんなに感動話したかな。

どうしよう、俺泣いてる女の子に弱いのよね。

「ち、ちなみにアスモさんは何故いつもここにいるんですか?」

秘技話題逸らし。

一旦会話をリセットじゃい!

「…私はここで見たいものがあって…それを待っていたんです。」

「見たいもの?」

特別な条件で見れる景色とかだろうか。

「正直それさえ見れれば後の人生はどうでもいいと思っていました。」

え!?マジ!!結構シリアスな感じ?

「でも…そうですよね。もっと我儘になっても良いですよね。」

なんかさっきの話で上手く納得してくれたらしい。

「さて。もう帰りましょうか。もう日が沈みます。」

え、そんなに話してた?

そっかここに来る前にリッチと戦ってたから…。

「…佐久間さん、一つお願いをしてもいいですか?」

「ん?何ですか?」

アスモさんは頬を染めながら手を差し出す。

「私の手を引いて…一緒に階段を降りてほしいです。貴方に降ろして欲しいです。」

理由はよく分からないがまぁ可愛いからいいか。

確かに足元暗くて怖いもんな。

「良いですよ。行きましょうか。」

アスモさんの手を取り階段をゆっくりと降りていった。




「…明日は展望台に来ますか?」

「いやー忙しいんで厳しいかもですね。」

実際今日はリッチを倒したから謎の達成感があるけど仕事は全然進んでないんだよな。

流石に本腰を入れなければ。

…正直今更主人公に出会えたところで助けてやれる事なんて限られているとは思うが。

「私も明日は展望台には行けなそうだったので。」

「あ、そうだったんですね。」

「それでは私はここで失礼します。また明日。」

「はい…え?」

明日は2人とも展望台に行く予定はないって事だし会えないと思うけど…間違えたのかな?

「…まぁいいか。」




「私のために、私の好きな人のために…。」

そんな生き方もあるのだと、当たり前のことなんだと気付かせてくれた。

もう少しだけ待っていてください佐久間さん。

私のやりたいこと、叶えて欲しい我儘、全部分かりましたから…。

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