聖女行方不明編:行方不明の主人公 2

早瀬さんに変装を手伝ってもらえたおかげですんなりと誘拐した国の城に入り込めた。

現在は執事服で城内をブラブラ歩き回っている。

「まだ見つからないのか!!」

何処からか怒鳴り声が聞こえる。

怒鳴り声のした方へ向かい、耳を傾ける。

「ルシル様は一体何処に行ったというのだ。あんな城の牢屋で燻っているのをわざわざ助けてやったというのに。」

「現在国外にも探索を広げていますが、魔物の活動が活発になった影響からなかなか先に進めず…。」

「御託はいい!さっさと連れ帰れ!」

うわぁ、誘拐犯発見。

てか街中に兵士が多かったのは聖女を探してたからか。

そして国外の探索はうまく行ってないと…。

「聖女の名前はルシル…。」

とりあえず初めて聞いた名前だ。

知り合った人間が嘘をついていない限りはまだ主人公には出会えていなそうだな。

…昨日からかなりの兵士が探し回っていたし、この国の中には聖女はいなそうだよな。

もう少し歩き回って良さげな話を聞けない場合はサクッと撤退するか。




はい、撤退です。

新情報見つからない挙句サボるなと怒られてしまいましたとさ。

…やることも特にないしまた展望台にでも向かうか。

そんなことを考えながら歩いていると…。

「…本当に多いな。」

木の裏に隠れる。

魔物の群れ、しかも今回はかなり大規模だな。

方角的に…聖女を監禁してた国に向かっている。

向こうでは早瀬さんが聖女情報を探しているし、こいつらが来たら邪魔になるかも…。

「追い払っとくか。」

懐から銃を取り出し、群れの中にいる人型の魔物に向けて引き金を引いた。

「あら?」

その刹那、周りにいた魔物達は人型の盾になる様射線に入ってきた。

(随分と統率が取れている…というより)

人型を守るよう設定されている、操られている様にも見えるな。

弾丸を受けた魔物はサラサラと塵になって霧散した。

これは…魔物の様な見た目の別のものか。

「敵キャラを召喚するタイプの…リッチみたいな奴なのかな?」

すると人型は二本の剣を構え、こちらへ突撃してきた。

寸前で攻撃を避ける。

「武闘派リッチ?初めてだ。」

普通背後から魔法でサポートとかするタイプだと思うんだけど。

再び銃を構え引き金を引く。

再度人型の前に肉壁が出来上がり盾となった。

すぐさま剣を装備し、肉壁となった魔物の様なものを纏めて斬り伏せる。

盾となった奴らは全員消滅した。

しかし、すぐさまリッチの足元から魔物の様なものが湧いてくる。

どうやら大分面倒な奴に手を出してしまった様だ。




魔物モドキは先ほどの様に防御の為に一塊にして一気に斬り伏せれば良いが、リッチ本体が面倒である。

普通に二刀流でのインファイトが上手い。

こっちが魔物の壁を斬り伏せる間に向こうが責め立ててくるためどうしても後手に回ってしまう。

また距離を取っても双剣を振るたびに衝撃波のようなものが飛んできてこちらがじわじわと追い詰められる。

頬から血が出る。

衝撃波を避け切れず何発かもらってしまったようだ。

(どうしたものか…。)

そんな時、ふと自分の右太腿が熱いことに気がついた。

「何だ…ポケット?」

ポケットに手を突っ込むと前の世界で拾った2つの赤い珠がでてきた。

「そういえばこんなの拾ってたな。」

そう考えたのも束の間、再びリッチが双剣を構え飛びかかってきた。

判断が遅れて再び攻撃が掠ってしまう。

「やっべ!?」

急いで後ろに引いたが、このままじゃジリ貧だ。

「って熱!」

2つの珠が燃えるように熱い!?

急な出来事でパニックになり、勢いのままリッチに投げつけてしまった。

魔物モドキが2つの珠からリッチを守るよう立ち塞がる。

そして珠がぶつかり…爆発した。




爆散する魔物モドキ。

後ろまで吹き飛ばされるリッチ。

何が起こったか分からず立ちすくむ俺。

とりあえず2つの珠を拾う。

先程のような熱はもう感じられない。

…そういえばこの珠を落としたサタンも『怒りを力に』っぽいこといってたけれど、もしかして攻撃を受ければ受けるほど力を溜めれる珠ってことなのかな?

「これまた変なものを拾っちまったな。」

リッチが身体を起こす。

足元から魔物モドキを出そうとするもすぐに霧散していく。

どうやらもう限界が近いようだ。

双剣を構え走り出した。

双剣を振り回して衝撃波を何度も何度も飛ばしてくる。

避けるので手一杯だ。

(なんとか隙を作りたいが…。)

一瞬の隙を見て銃を撃つも躱しながら双剣を振りまわす。

(それなら…。)

俺は改めて紅い珠を取り出し投げつけた。

リッチはそれに気付くと大きく横へ飛び逃げた。

「さっき爆発したものは流石に警戒しちまうよな!」

避けた先へと走り込み銃を乱射する。

銃弾がリッチに当たり大きくのけぞった。

「おらぁ!!!」

その隙を逃さずリッチを剣で縦に切り裂く。

リッチはそのまま膝を突き倒れた。




「あ~疲れた。」

とりあえず倒れ込んだリッチは放置しよう。

あ、もしも起き上がったら怖いんで双剣だけでも回収するか。

にしても中々の強敵だった。

我ながら単純なパワータイプとの喧嘩はやりやすいけれど、今回みたいな特殊な相手はどうもキツい。

「てかあの衝撃波は何なんだよ。」

適当に双剣の片方を縦に振ってみる。

すると当たり前のように衝撃波が飛んで行き、目の前の木が縦に割れた。

「…嘘やん。」

成る程ね、あの衝撃波はリッチの能力じゃなく装備の力だったと…。

「というよりこの双剣にはめ込まれた奴の力っぽい?」

さっき剣を振った時に剣の持ち手についた宝石が光っているのが見えた。

「ちょっとこれ外してみよ。」

多少無理矢理だが宝石を外し、剣を振るう。

案の定何も出てこなかった。

「なんか最近変な宝石とか珠とかばっかり手に入るな。」

しかも必ず2個セットという。

今手元にあるのは…メデューサの盾の宝石、サタンがドロップした珠、衝撃波発生装置の宝石。

…コイツら何かに利用できないかな。

正直普通より強めの銃と携帯しやすい剣だけだとちょっと心許ないんだよね。

「何処かの世界で超優秀な武器鍛冶師に出会ったりすればワンチャンあるかな?」

とりあえず双剣から宝石を取り出し、剣は適当にへし折っておいた。




さて展望台に着いた。

「どうもアスモさん。昨日ぶりですね。」

「え…どちら様ですか?」

何故かものすごく警戒されている?

一体なぜ…そういえば変装したままだった。

そりゃあ切り傷だらけでボロボロの執事が気安く話しかけてきたら警戒するわ。

俺は急いで変装を解いた。

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