聖女行方不明編:お話が聞きたいです。

「すみません…この辺りであまり見ない姿が気になってしまって。髪色が黒い人、初めて見ました。」

その女性は少し恥ずかしそうに言った。

確かに街の中で黒髪の奴とかいなかったな。

多分これが原因でパチモン聖女に国外の人間とばれたのか。

油断したなぁ。

早瀬さんとかはうまく変装で一般市民に紛れるけど俺はあんまり得意じゃないんだよな。

「あのー…。」

「あ!すみません。」

話しかけられているのを忘れて考え事をしてしまった。

「はい。ご想像の通りこの国とは別のところから来たものです。」

「やっぱり!そうだったんですね!」

女性は心底嬉しそうに微笑んだ。

何がそんなに嬉しいんだろう。

あんまり外交とか行われてなくて珍しいとかなのだろうか?

「貴女はどうして展望台に?」

「…ここからの景色が大好きで…この場所自体来たのは久しぶりなのですが。」

彼女は展望台から下を見下ろす。

…壮大な夕日で前ばかり見ていて気が付かなかったが、どうやらこの展望台は街を見渡せるようだ。

確かに圧巻の風景だ。

「おー街を見渡せるんですね。」

「はい、ここから街を見るのが好きなんです。昔両親に連れてきてもらって見せてもらってからずっと。」

彼女は再び俺に目を向ける。

「もう少し貴女とお話ししたかったのですが、もう日が沈んでしまいそうですね。」

「そうですね。そろそろ失礼しようかな。」

俺は階段に向かって歩き出した。

「また明日もお暇ならいらしてください。私、貴方に興味が湧いてしまいました。」

あらやだドキドキしちゃう。

少し恥ずかしくなり俺は再び街に目を向けた。

ここから見える城はかなり小さく、住んでいる人々も米粒程度の大きさだ。

…何となく神様の視点みたいだと感じた。

「はい、また来ますね。」

彼女に会釈し階段を降りる。

…この階段の段数13段じゃん。

道理で登る時不思議と不気味に感じたわけだ。




「というわけで多分俺あの街入れなくなりました。」

「何してるんですか佐久間さん…。」

上原さんが頭を抱えている。

しょうがないじゃん!

なんか恨み買っちゃったんだもん。

「まぁ世界観については概ね分かったし許しておくれ。」

「それもそうですね。偽物の聖女様の誘惑に負けていなくてよかったです。」

頭抱えてた理由そこだったんだ。

「あと帰り足で展望台を見つけて、そこにも不思議な感じの女性がいたね。」

「佐久間さん、今日は女の子をたぶらかしに行ったのですか?」

ちゃうねん、たまたまやねん。

「ただいま戻りました!」

「お、お帰り。」

「新情報です!私の向かった国に聖女様が来ると噂になっています!」

あ、やっぱり別の国の皇子といい感じになるパターンかな?

「まだ噂レベルなのですか?」

「はい!あくまで噂で詳しくは城の従者の皆さんも知らない様子でした!国民には知らされてもいません!」

となると聖女を監禁していた国から持ってきて、まだ城で匿っていると言った状況かな。

まぁやってること国単位での誘拐事件だし、あんまり堂々と公には出せないか。

「というわけで明日はもっと城の中に探りを入れます!」

「ありがとうございます。佐久間さんはその国の街中を探索してみてください。」

「あれ?佐久間さんは聖女様を監禁してた国じゃないんですか?」

「出禁になっちゃった。」

「出禁ですか!下手こいちゃいましたね!」

「いや早瀬さん聞いてよ。俺悪くないんよ今回。」

「詳しい話は今度でお願いします。もう大分遅い時間ですから。」

それもそうか。

滅茶苦茶愚痴りたかったが我慢して眠りにつくことにした。




一夜明け、早瀬さんと一緒に聖女を連れ去ったと思われる国に向かった。

昨日の話は向かう途中に愚痴った。

早瀬さんはめっちゃ笑ってた。

何でや。

早瀬さんは城へ、俺は街中へと別れそれぞれ情報収集を始めた。

とりあえず街中を歩いて見渡したが…。

「かなり分厚い城壁だな。」

元々聖女がいなかった国だ。

城壁を厚く屈強にすることで魔物の襲撃などを迎え撃ってきたのだろう。

心なしか街の警備をしている兵士達も前の国より力強そうに感じる。

…というかさっきから兵士とかがそこら中にいるな。

まるでだろかを探している様だが…。

聖女がいない分常に気を張っているといった感じだろうか。

「…これ以上何を調べれば良いんだ?」

正直やる事がない。

そもそも国民が知り得る話は昨日のうちに早瀬さんが調べてくれたみたいだしなぁ。

…ふと昨日の展望台を思い出す。

暇だったらまた来て欲しいみたいなこと言ってたな。

今から向かったら昨日より早く着くため、そもそも彼女がいない可能性もあるが…。

「まぁいいか。」

俺はこの国を後にして展望台へ向かった。




昨日よりも太陽は高い位置にある。

彼女はいるだろうかと展望台に登ると…。

「あ!来てくださったのですね!」

いた。

こんな時間から展望台にいるのか。

相当ここの景色が好きなのか。

「丁度暇だったんで。」

彼女の隣に立ち共に景色に目を向ける。

綺麗な空に広大な国が目前に広がった。

「早速で申し訳ないのですが、貴方の育った国はどんなところだったのか教えてくれませんか。」

そういえば前回俺に興味が湧いたとか言ってたな。

まぁ教えて困ることもないし…。

「良いですよ。俺が過ごした国は…。」




気が付いたら夕日が沈みそうになっている。

知らない間に随分と時間が立っていた様だ。

…正直話した内容は覚えていない。

それぐらい適当に思うがままに雑談をした。

人と話すのがそれなりに好きなのが仇となったかな。

「すみまさん。長話しちゃって。」

「いえ!いえ!本当に興味深い話ばかりでした!」

なんだかとても嬉しそうである。

そんなに面白い話だっただろうか。

まぁ俺からすれば当たり前のことだがこの世界の住人からしたらかなりすごい話なのか。

「もっとお話を伺いたいですが、もう日も沈みそうなのでここまでですかね。」

彼女は夕日をボーっと眺めている。

すると急に何か思い出した様な顔をしてこちらに目を向けた。

「あ、すみまさん。その前に、お名前を伺ってもよろしいですか?本当は昨日か今日来た時のうちに聞くべきでしたが、お話がしたくてつい忘れていました。」

恥ずかしそうに頬を赤らめている。

そういえば自己紹介もまだだったな。

「はい、俺は佐久間っていいます。こちらも名前を伺っても?」

「…はい、勿論です。私の名前はアスモと申します。」

なんか心なしか間があった気がする。

こっちからは聞かないほうがよかったのかなー。

女心ってわからん。

「それじゃあアスモさん、また今度。」

とりあえずアスモさんに手を振り階段へと向かった。

「はい、また後日。お話の続き楽しみにしています。」

…本来情報収集しなければいけないところを寧ろ情報話しまくってるな俺。

まぁいいや。

帰ろう。




「というわけで俺が新しく手に入れられた情報はほぼ無いかな。」

「まぁこればっかりはしょうがないですかね。寧ろ早瀬さんの情報収集能力の高さが再認識されます。」

「照れますね!」

2日目夜、改めて主人公について話し合っていた。

「それで早瀬さんはどう?城内に本物の聖女さんいたりしなかった?」

「佐久間さんの言ってた通りで聖女様はいたみたいなんです。」

やっぱり監禁状態の聖女を連れ出したのはあの国の連中て事か。

「いたみたいとは?」

上原さんが早瀬さんの言い方に違和感を感じ確認する。

「その聖女様、その国からも姿を眩ませたみたいです!」

「はぁ!?」

普通助けてくれた国の皇子と結ばれたりするんじゃないの?

助けてくれた奴からも逃げ出したの?

おてんば聖女過ぎやしないかね?

「…聖女様からすればその国にいることが嫌だったということでしょうか。」

確かにその可能性はある。

例えばその国がシンプルに悪い国で力を貸したくないとか、もしくは愛国心から元の国へ戻りたいとか。

(自分のことを陥れようとした奴らがいる国にそんな愛国心持つのかってのはあるが。)

「そうなると早瀬さんには一度監禁してた国の方に侵入してもらおうかな。上原さんは今忙しいもんね。」

上原さんは基本的に事務所でPCを利用した報告書の作成を行なっている。

現世と繋げる能力が必要な都合上彼女自身が行うのが基本となっている。

「そうですね。報告書を作らないわけにもいきませんから。」

「となると俺が今度は誘拐した国がヤバいところかどうか探りを入れてみるか。」

朗報、やっと仕事が見つかった。

「佐久間さんの変装手伝ってあげます!」

「マジで助かる。」

さて、明日の予定も決まったし今日はさっさと寝るかな。

そんなことを考えていると上原さんが呟いた。

「このまま見つからなかった場合は…何も出来ずに帰宅する可能性もありますね…。」

「そうだね。」

別に珍しい話ではない。

主人公に会えず5日過ぎることはたまにある。

そんな時に別にサボってはいない事を証明するためにも報告書が必要なわけだ。

…今日の俺はサボりじゃない。

しょうがない。

「まぁ俺たちは現状できる事に取り組むしかないよ。」

「そうですね…。」

だが実際早く主人公さんをお目にかかりたい頃だ。

明日少しでも進展があれば良いんだが。

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