聖女行方不明編:行方不明の主人公

「高級な寿司屋のことを"回らない寿司"って言うじゃん?」

「言いますね。」

「でも最近の回転寿司も諸々の事情で回らなくなったじゃん。」

「流行り病の影響などが主な原因ですね。」

「そう考えると近年の回転寿司って実質高級な寿司ってことで良いのでは…。」

「別にそこはイコールにはならないと思いますが…。」

俺たちはまた新しい世界にたどり着いた。

いつも通り早瀬さんに近辺の探索をして貰っているんだが…。

「ただいま戻りました!」

「お?随分と早いね。この世界のこともう概ねわかった感じ。」

早瀬さんの情報収集能力は凄まじいものだが昼前に帰ってくるのはまぁまぁ珍しい事だ。

「いえ!ちょっとそれどころじゃなさそうでして!」




早瀬さんの話を聞いたところ、この国は現在とんでもないピンチに陥っているらしい。

「何でも城でいざこざがあり、今まで働いていた聖女様が地下に監禁されているらしいんです!そして最近になって魔物の活動が活発になり、それの影響で国を守っている結界が壊れ始めていると!」

確かにこの世界に入ってから魔物が原因と思われる悪性反応が常時でている。

まぁ入ってこれるほどの力はない様なので放置しているが。

それにしても国に尽くしていた聖女を監禁ねぇ。

「馬鹿が有能な奴の足を引っ張る定番の展開っぽいな。」

「でもそれなら元の聖女様を監禁から開放すれば良いだけではないですか?意地になっているのでしょうか?」

「それが…監禁していた聖女様が現在行方不明になったらしくて!」

「え!?監禁してたんじゃないの?」

「いつの間にかいなくなっていたとのことです!」

「えぇ…なんでよ。全然監禁出来ないじゃん。」

「それで結界を直すことも出来ず国は崩壊寸前と言った状態ということですか。」

「はい!」

国のために尽くしていた聖女が欲深い人間に嵌められ追放…。

「世界観的にその聖女様が今回の主人公っぽいね。」

よくある展開としては追放後に別国の皇子と結ばれて、前の国から戻ってきてくれと懇願されたり…といった感じだと思うのだが。

「まさか行方不明になってしまうとは…聖女様は大丈夫でしょうか?」

「ピンチだから私たちが呼ばれたのでは!」

「そう言えばそうでしたね…。」

「…よし!じゃあ俺も探索に加わろうか。早瀬さんは一度近辺の別の国へ向かってくれない?それが多分良くある展開だと思うから。」

「了解です!」

「俺は件の国を回ってみるかな…。上原さんはまた留守番になるけどいいかな?」

「はい。お二人のお帰りをお待ちしております。」




「こりゃ酷いわ。」

街までの道中、明らかにヤバそうな魔物がわんさかいた。

これだけいたら結界壊れて攻め込まれたら本当に街が終わるだろう。

「…可哀想だとは思うけど、この国を救うのは俺らの仕事じゃないしな。」

そんなことを考えながら街中をブラブラしていると…。

(…視線を感じる。)

視線の主は…すぐ近くにいるローブを深く被った奴。

多分さっきすれ違った時に目をつけられたのかな。

でもこれといって敵意を感じるわけではないな。

試しに路地裏に逃げ込んでみる。

すると奴も路地裏に入ってきた。

「…俺に何か用でもありますか?」

問いかけてみるとそいつはローブを外した。

長い金髪、整った顔、少し妖しく微笑む表情。

あらやだ美人さんじゃない。

「お兄さん、私今すっごく暇でさ?一緒に遊ばない?」

「はぁ?」

まさかの逆ナンですか。

元の世界で逆ナンされたことなんて一回もなかったんだが…。

「はぁ…何で俺を?」

「えーお兄さんすっごくカッコいいよ?私お兄さんみたいな人が好みで…。」

とりあえず嘘なのは何となくわかる。

でも何か罠にでもはめてやろうみたいな魂胆も感じない。

…この国の情報も欲しいし一旦話に乗ってみるか。

「いいよ。どっかの店にでも入って話でもするかい?」

「…この路地裏の先にいいところがあるんだ。ついてきて?」

…いややっぱり怪しいかコイツ。




はい、怪しい人でした。

今俺は逆ナン女に壁ドンされてます。

しかも逆ナンさん俺の服を脱がそうとして来るんだけど多分そう言うことだよな。

「あのーちょっとそう言うの困るんですけど。」

「いいじゃんお兄さんだってそのつもりだったでしょ。」

いや全然。

「なんだったらお金払うから!パパッと終わらせるから!」

そこまで執着する!?

そんなこんなで互いに睨み合っていると…。

「見つけたぞ!偽物聖女!」

なかなかガタイの良い男たちに囲まれている。

て言うかこの人偽物の聖女とか言われてるけど…もしかして早瀬さんが言ってたいざこざ絡みの話かな。

その様なことを考えていると、偽物聖女さんはいつの間にか俺の後ろに隠れていた。

「ちょっと助けてくれない?助けてくれたらいいことしてあげるから。」

「いや結構です。巻き込まないで。」

「なんだテメェ!?そいつを庇うのか!」

「めんどくせぇ!男諸共やってやる!行くぞ野郎共!!」

「なんで!?」




いや焦ったわ。

急に変なことに巻き込むのはやめて欲しい。

襲ってきた連中はとりあえず気絶させた。

…ガタイは良いけど戦い慣れしてる感じではない。

となると農民とか土木とかの一般市民とかかな。

「おいアンタ。偽物の聖女って呼ばれてたけど。」

「…。」

さっきまでは饒舌だった癖に今はダンマリである。

まぁでも何となくわかった。

俺を逆ナンした理由はこの国の国民でないことが分かったからだろう。

そりゃ国民には顔バレしてて手を出せないだろうし。

…そこまで男遊びしたかったのか。

皇子さんも本物の聖女追い出した挙句新しい偽物聖女は男漁りに夢中となったらブチギレそうだな。

「じゃ。俺帰りますんで。」

「は?襲われたばかりの私を1人にする気!?」

「俺忙しいんで。男遊びを程々にね~。」

というわけで情報収集に戻ろう。

なんか後ろで俺のことめちゃくちゃ睨んでるけどもう面倒いんで放置します。




まぁ一通り話を聞いて回ってみたけれど、相変わらず主人公の足取りは掴めずって感じだな。

まぁ世界観についてはあらかた分かったしそろそろ事務所に戻るか。

「おいそこのお前。」

「はい?」

鎧を着込んだ男に声をかけられた。

「聖女様から直々に不審者が街中に居たと報告があった。お前は聖女様の言っていた特徴と一致している。共に来てもらおうか。」

…あの逆ナン聖女もどき絶対に許さん。




一心不乱に走って何とか街から脱出できたけど、こりゃ俺はもう街には入れそうにないな。

そんなことを考えながらトボトボ歩いていると、いつの間にか小さな展望台のような場所に辿り着いていた。

だいぶ高所まで登っていたらしい。

…せっかくだし行ってみるか。

どこか不思議な…いや不気味な感覚のする展望台の階段を登る。

登り切ると目の前に広がるのは今にも沈みそうな夕日、そして風で靡く銀色の髪。

どうやら先客がいた様だ。

何となく気まずいので少し距離を空けて景色を見る。

「あの…。」

…今日は妙に女性に話しかけられる日だ。

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