悪役令嬢編:皆さんも頑張ってください!
「へっへっへ。お邪魔しやすぜお嬢さん。」
「何ですかそのテンション。」
佐久間さんが懐かしい紙袋を持って部屋に入ってきた。
今日は彼らがこの世界に来て5日目。
私のためにジャンクフードを買ってきてくれたらしい。
「ひあらはん!ほふかへさはへふ!」
「早瀬さんもう食べてますね。」
佐久間さんの後ろから口いっぱいにポテトを詰め込んだ早瀬さんがでてきた。
ずるい、私も食べたい。
「そんじゃまったりトークでもしようか。」
「ほい、これがこの世界におけるキアラについてのゲーム情報だ。」
「あ、ありがとうございま…て分厚!」
参考書と同じぐらい分厚い。
「なんでもシナリオライターが結構細かいところまで設定を決めているみたいでね、ゲーム内では開示されない様な話も山ほどあったから上原さんがそれらも全部まとめてくれたらしい。」
この量を約1日でまとめてくれたの?
私は一回しか会っていないけどあの人も中々すごい人だな。
「とりあえずこれの内容の暗記してキアラを演じきる、てことになるかな。」
「そうですね。試してみます。」
「あ、それと上原さんが少し気になることを言ってたんだけど。」
「何です?」
「このゲーム続編の開発が決定してるらしい。もしかしたらそれがまた新しい影響を与える可能性もある。」
「え!?続編作るんですかこれ?」
「何でも今まで攻略できなかったキャラのルートが制作されるらしいから、もしかしたらキアラルートも作られるかもね。」
「それって…百合ってこと!?」
「いやまぁ普通に友情ルートだと思うけど…。」
「何となくですけど、本来キアラルートでサタンと戦いにいく話にする予定だったのかもしれないですね!」
「キアラとヒロインの仲を深める予定が、俺らとジャンクフード食べる仲になってしまったと。」
「早瀬さんはいいとして佐久間さんもかぁ。」
「仲間外れ良くない。俺もポテト食べる。」
「でも実際私たちもう仲良しです!」
「そうですね早瀬さん!」
「まぁこっちで現世の話をすること自体珍しくあるし、話は弾むね。」
同じ世界からの転生者って珍しいんだ。
「皆さんってどんな世界を回ってきたんですか?」
何となく気になったので尋ねてみる。
「んー本当に色々あるから一言では表しづらいかな。」
「最近だと魔法の世界で勇者パーティーから追放された人の手助けをしたりしました!」
パーティー追放!
すごくそれっぽい!
「なんか小説の世界みたいですね。」
「実際そうだね。本やゲームの様な世界で奮闘する主人公に手を差し伸べるのが仕事だから。」
「そうやって様々な世界を救ってきたんですもんね。」
「世界は救ってないです!」
…え?
「…そうだね。世界は別に救っていない。俺たちが助けるのは主人公だけだ。」
「…それって何か違うんですか?」
2人は少し気まずそうな顔をしている。
「…例えば主人公が世界の滅亡を願うなら…俺らはその手伝いをするだろうね。」
そうか、主人公という呼び方から何となく正義の味方の様な、世界を守る様なヒーローをイメージしていたが…。
「確かにそんなバッドエンドな作品もありますからね。」
つまり場合によっては彼らは世界の破壊者の様な扱いになってもおかしくないのか。
「…幻滅したかな?」
「え?何がです?」
「…私たちは世界を滅ぼしたりもしてますから!」
多分話の感じからして、彼らは多くの人間の死と関わりがあるのかもしれない。
「でも皆さんは私の恩人です。その事実は一切変わりませんし。」
きっと多くの命を奪うこともあれば多くの命を救うこともあるだろう。
「というか、主人公が滅ぼそうと考えてしまうレベルの世界って多分相当酷い世界なんじゃないですか?まぁ主人公がド屑の可能性もあるかもですけど。」
「まぁ正直、壊してきた世界はろくなものではなかったです!」
「主人公が狂っててどうしようもない胸糞な世界の場合はこちらから手助けを見限ることもできるしね。でも結局、場合によっては大量虐殺犯にもなる仕事だ。」
仕事である以上しょうがないとは思うのだが…やっぱりそれで割り切れるわけではないよね。
「よし!考え方を変えましょう!」
「え?」
「考え方?」
「もっとプラスな方に目を向けましょう。皆さんはそうでもして救いたいと思った主人公を救っているんです!素晴らしいことですよ!」
「それはそうですが…。」
「そんなに楽観視できないなら…世界を救いたい主人公の時は全身全霊で助ければいいんです。それを贖罪として続けていけばいいんです!」
「贖罪…。」
「プラス思考も贖罪も…どちらもお二人が教えてくれたことです。」
悩む私に無理矢理道を作ってくれた。
「まさか私にあれだけ発破をかけておいて、お二人はメソメソ次の世界に行くおつもりで!?そりゃないです。次の私がピンチになった時の為にももっと頑張ってもらわなくちゃ!」
佐久間さんは堪らず吹き出す。
「俺たちそんなに無理矢理な理論で励ましてたっけ?」
「なかなかの暴論ですね!」
「そうですよ!でもそれで間違いなく救われました。」
2人は付き物が取れた様な顔をしている。
「そんなに期待されているなら…俺らももっと頑張るしかないな。」
「はい!私ももうめげません!ナゲット貰います!」
「ちょ俺も食うから待って!」
さっきまでとは打って変わって明るい表情、最初の顔に戻ってくれた。
全く…世話の焼ける友人たちだ。
「食べ過ぎた…。」
どうしよう…夕飯食べれないかも。
「まぁ明日からダイエット頑張ってな。」
「ファイトです!」
薄情すぎる。
「…さて、俺らもそろそろ帰りますか。」
「そうですね!」
席を立つ2人。
そうだ、今日彼らはこの世界からでていく。
もうしばらく開くことはないかもしれない。
「少し寂しいです。」
「まぁ今生の別れになるかどうかは分からないからね。もしかしたらもう2度と会えないかもと考えると…。」
「私も寂しいです!」
たった5日間の関係だが、そうは思えないほど濃密な関係だ。
急に飛ばされた異世界で、同じ世界の話をできる。
同じ様な感性で話をできるのが本当に嬉しかった。
「…私、主人公として頑張ります。」
「お互い頑張りましょう!」
「どうしようもないピンチに陥った時は…また俺らがきっと助けに来るから。それまで懸命に生きていて欲しい。」
「…はい!」
彼らは部屋から出ていった。
今日の夜にはもういなくなる。
明日から私だけの戦い…キアラの戦いが始まるだろう。
不安は多いがやりがいはある。
次彼らに会った時にみっともない姿は見せない様努めるとするか。
とりあえず参考書ほどもある分厚さの資料でも読んで今後のことを考えよう。
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