悪役令嬢編:私、頑張ります!

「つ、疲れた。」

 サタンとの戦いの後、私は佐久間さん早瀬さんに家のすぐ近くまで連れていってもらい帰ることができた。

 家から帰った後も大変だった。

 従者の皆んなには泣き付かれるし両親からはこっぴどく叱られた。

 そりゃ記憶喪失の娘が『1人で散歩してくる~。』なんて言って姿を眩ませたら私だって心配するわ。

 いやー久々に両親に叱られた。

 というかこの世界の両親の怒っている姿を初めて見た。

 前世で親に怒鳴られたりしたことは良くあったけど、怒鳴るのと叱るのって全然違うんだな。

 叱られたけど嫌な感じ全然しなかったもん。

 あの後早瀬さんは城にいって聖剣を戻しに行ったらしい。

 佐久間さんはサタンが消滅した後に見つけた紅い珠について少し調べたいって言ってたな。

 …怒涛の1日だった。

 正直死亡フラグがどうなったのかは分からない。

 不幸体質が治ったか確かめる方法とか知らないし。

 これからも生きていって確かめるしかない。

 でも何というか…。

「あんな体験した後だと多少の死亡フラグなら回避できそう。」

 そこら辺の貴族とかと比べ物にならない悪魔と戦ってきたのだ。

 まぁ概ね佐久間さんと早瀬さんのおかげなのだが。

 ただあのサタンと戦って勝ったことは圧倒的な自信に繋がる。

 多少の婚約破棄ぐらいなら『でもコイツサタン倒してないんだよな…。』で流せる様な気がする。

「…とりあえず少し寝よう。」

 今日の夜にも早瀬さんと佐久間さんが来るらしいから今のうちにゆっくり休憩しよう。

 この人私はこの世界に来て初めて心から安心して眠りについた。




「というわけでサタンを倒してきたんだけど…。」

「そこで不思議な紅い珠を拾って持って帰ってきてしまった…ということですか。」

「そゆこと。」

俺はとりあえず上原さんに今日あった出来事の報告と拾った珠について聞いていた。

「まぁ順当に考えるとゲームの世界ですし、アイテムドロップであると考えて良いのでは?」

「でもサタンって本来ゲームで攻略できる対象ではないんだよね?そんな設定だけのキャラからもアイテムってドロップするのかな?」

本来ゲーム内でヒロインがサタンと戦うことはできない。

「もしかしたらゲームの原案ではサタンと戦うことも考えられていたのかもしれません。それかアイテムドロップまで明確に設定を作っていたなどと言った理由も考えられますかね?」

「もしかしたら持ってこないほうが良かったかな。」

「まぁでも間違いなくゲームをする上でこの様なアイテムは使わないのでいいのでは?何ならこれで2種類目ですし。」

そう、実はこれで種類目なのだ。

最近勇者パーティーを追放されたウルスくんを助ける流れで宝石を手に入れている。

勇者パーティーメンバーのイージスが使用していた"メデューサの盾"についていたものだ。

「必要ないのならこちらで処分しておくことも可能ですが、折角ですし様々な世界でその様な小さなお宝を探してみてはいかがでしょうか?最近それらしい趣味とかないでしょう?」

「失礼な!?趣味ぐらいあるよ!」

「では具体的にどのようなご趣味が?」

「……音楽鑑賞と人間観察。」

「…趣味がない人がよく言ってる2つですね。」




「お疲れ様でーす。」

「お昼ぶりです!」

気の抜けた佐久間さんと元気な早瀬さんが部屋に入ってきた。

「どうよ不幸体質が治った感想は。」

「まだはっきりとはわからないんですけど…家に帰ってから一回も転んでないんです!帰ってきてもう半日立ったのに!」

「そんな頻度で転んでるんだ。」

「洞窟でも結構転んでましたね。」

これは不幸体質なくなったんじゃない!?

サタンの言う通りだったんだ!

「まぁこれで死亡フラグについては一旦解決と見て、あと1日あるけれど他に助けて欲しいことはあるかな?」

「それなんですけど、これといって思いつかないんですよね。」

次に私がするべきことは学園復帰。

もちろん1年間学園に行っていない、というか私自身学園に行ったことがない為不安がないといったら嘘になるのだが…。

「ここからは私が頑張らなくちゃいけないことだと思うんです。」

「なるほどね。じゃあ後は上原さんにゲーム情報まとめてもらって記憶喪失設定を辞める手助けをして終わりかな。」

「そうですね!」

「なんというか…本当にお世話になりました。」

彼らがいなければきっと学園復帰などしようとも思わなかったし、家にいても不幸体質で亡くなっていた可能性も高い。

結果彼らには命を救われた様なものなのだ。

「いやいや、こちらも仕事なんだから気にしなくていいんだよ。」

「そうです!やるべきことをしただけです!」

「それでもですよ。本当に…本当にありがとうございます。」

「…まぁまだ安心はしきれないと思うよ。多くの世界を回ってきたけど、ゲームや物語の世界は強制力が発生することがある。」

「強制力。」

「物語の台本から外れたら元に戻そうと発生する力のことだね。ただ1年間引きこもれた時点でこの世界にはそんなものはなさそうだけれど。」

ということは、もしかしたらまた不幸体質になったり死亡フラグがたったりするかもしれないのか。

「大丈夫です!もしまたキアラさんがピンチに陥ったのなら、その時は私たちがまた助けに来ます!」

「そうそう、念のため俺らの事務所の場所教えておくね。次どうしてもヤバい時にここに来れば俺らの事務所があるかもしれないよ。」

「あ、ありがとうございます。」




「それにしても上原さん以外することないとなると暇だな。簡単なお使いとかでもいいし何かない?」

「前世の時好きだった食べ物とか用意できますよ!何かありませんか!」

そんなこと言われてもなぁ…。

これといってそれらしいものは…。

「…そういえばこの世界に来てからはなんかこう、豪華なものばかり食べてて、ジャンクフードとか食べてないですね。」

「…ハンバーガーとか食べたくない?」

「そ、それは…でもキアラの為に健康になるって…。」

「少しくらいなら良いのでは!」

「…ポテトとナゲットもあるよ。」

おかしい。

今朝悪魔を倒しに行ったのに悪魔の囁きが聞こえる。

「そ、それじゃあお願いしてもいいですかね?」

「任せて!何食いたい?テリヤキとか?」

「私シェイク飲みたいです!」

「私も!あとナゲットのソースはバーベキューで。」

「え!?マスタードの方が良くね?」

そんなこんなで最終日は室内でグタグタ過ごすこととなった。

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