悪役令嬢編:悪魔倒しちゃいましょう!2
「キアラさん!試して欲しいことがあります!」
私の手を取りそう言う早瀬さん。
さっきも言ったが私のデバフは今のところサタンに有効な様子はない。
そんな私にして欲しいこと?
「一体何をどうしたいんですか?」
「キアラさんにデバフをしてもらって…これを使います!」
早瀬さんが取り出したのは先ほどまで散々投げていたクナイである。
防御を少しでも下げて威力を上げたいのだろうか?
「…正直向こうからしたら蚊に刺された程度の攻撃なんじゃ…。」
「キアラさん知らないんですか?」
早瀬さんは怪しく微笑む。
「私たちがいた世界で一番人間を殺している生物は…誰にも気付かれないような蚊なんです。」
…疲れた。
流石に走りっぱなしはきついなぁ。
適度に弾丸をぶち込んでいるはずなんだが、未だに向こうは元気そうだ…。
というか他2人と1匹が固まって何か話し込んでいる様子。
獅子丸とキアラさんはしょうがないとして早瀬さん?
早く働いてくださいません?
お兄さん流石に体力の限界かも。
そんなことを考えていると、キアラさんが一歩前に出た。
両手をサタンに掲げている。
どうやらデバフをかける様だ。
でも見たところさっきからあんまり効いてる様子がないんだよなぁ。
「今です!」
キアラさんが叫ぶ。
すると早瀬さんがサタンよりも高く跳躍してクナイの雨を降らせた。
考えてみるとそのクナイの"効果"も全然見られな…。
『ぐっ…。』
おや?何やら急に効いてきたご様子。
何故?
「戻りました!」
早瀬さんが俺の元に戻ってきた。
「どしたのアレ?急に効果でてきたみたいだけど。」
「キアラさんに全力で状態異常耐性ダウンをかけてもらいました。」
「なるほど。」
俺の高火力な銃や小型キーホルダーになる剣のように、早瀬さんも異世界専用武器を持っている。
今回使っていたのはクナイ。
特徴は相手に様々な状態異常を付与すると言ったものだ。
先ほどから使用はしているものの効いている様子がない為てっきり状態異常にならないタイプなのかと思っていたが…。
「異様なまでに状態異常耐性が高かったのか。」
そうなるとかなり戦況が有利になる。
あのクナイには今まで行ってきた異世界で見つけた状態異常の数々がぬりこまれている。
毒、麻痺、眠り、火傷、混乱などなど…。
効きそうなものをこれでもかと詰め込んだ武器だ。
最早サタンの状態は絶不調だろう。
実際サタンは目の前で苦しそうにもがいている。
『な、何なのだこれはぁぁぁぁ!?』
この世界では体験しない様な状態異常もあるだろうし、頭の中もパニックだろうな。
おかげさまで…火柱も止まった。
一気にサタンとの距離を詰める。
苦しそうに身体を丸め、地面に近くなっていた頭を思い切り斬りつけた。
『ぐわぁぁぁぁぁ!?』
うんうん、効いてるねぇ!
「よっしゃあ!形勢逆転だ!」
俺たちは改めて攻撃に身を転じた。
佐久間さんの攻撃が格段と効きやすくなった。
早瀬さんは状態異常が解ける隙がない様クナイを投げ続けている。
この前続ければ案外すんなりと勝てるかも?
『ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!』
サタンが雄叫びを上げ、凄まじい熱風が噴き出した。
比較的遠くにいる私ですら仰け反ってしまう様な熱気だ。
サタンが両腕を高く持ち上げる。
その両腕は紅く光っている。
『我が力は憤怒の力…貴様らに人間風情が好き放題したこの怒り…全て貴様らに返してくれよう!!』
これはアレだ。
明らかに大技使うぞって感じだ。
「どうしよう…。」
とりあえず少しでも攻撃力ダウンをかけて見る。
効果は…変わらずほとんどなさそうだが。
「早瀬さん!」
「了解です!」
佐久間さんと早瀬さんは一気にサタンに詰め寄っていく。
この動きは多分…。
「大技を使われる前に決める気だ!」
確かに大技を使うほど追い詰められているのだ。
今が最大のチャンスとも言える。
そして何より…。
(何となくだがわかる、あの技を使わせたら全員生き残れない。)
紅く光る腕から感じるエネルギー。
とてもじゃないが捌き切れるものではない。
俺が抑えて早瀬さんにキアラさんを守ってもらってもこの洞窟がそもそも耐えられる保証がない。
それ程の一撃だ。
銃弾を頭に目掛けて撃ちまくる。
少しは仰け反っているがまだまだ耐えられそうだ。
懐に潜り込み剣で斬りつける。
間違いなく効いてはいるが…サタンは構えを解かない、いや…大技の為に解けない。
「反撃がこない!いくぞ早瀬さん!」
サタンの真後ろに早瀬さんが立つ。
手に持っているのは聖剣。
「大技披露してくれるのに悪いがサタンさんよ。その技撃つ前に終わらせてもらうぞ!」
「はい!終わらせます!」
佐久間さんと早瀬さんは互いに前と後ろからサタンを斬りつける。
まさに一心不乱。
怒涛の攻撃でサタンを切り刻んでいく。
『ぐ、ぐおぉぉぉ!!』
「…私も!」
必死で継続ダメージの呪いを付与する。
全然効かないかもしれないけれど、何もしないわけにはいかない。
「サタンを…悪魔を倒しちゃってください!」
「はい!決めちゃいます!」
私の声に答えた早瀬さんの聖剣がサタンの身体を貫いた。
サタンが構えを解き膝をついた。
サタンの身体がサラサラと砂の様に崩れている。
『…最後まで楽しませてもらったぞ。愚かな人間ども。』
「そりゃどーも。」
佐久間さんも早瀬さんももうバテバテである。
立っているのもやっとだろう。
『カース家の者よ。貴様ら一族の不幸体質は我が消滅すると共に消えるだろう。』
「…はい、ありがとうございます。」
『…何か不満そうだな。』
「…元はと言えば先祖があなたと契約をして、あなたはその契約に則っていただけですから。」
現代の私たちが不幸な目に会うことは何一つ納得できないが、別に彼の行いが間違っていたとも思えない。
サタンは結局カース家の我儘に付き合わされただけなのだ。
『…あぁあまりにも身勝手な一族だ。正直一番頭にくるのは貴様だよ小娘。』
ため息混じりに語るサタン。
『だが我は貴様の様に納得できないものを己が力で変えようとする者は嫌いじゃない。何より貴様のその生き様は誰よりも悪役令嬢らしいといえる。』
サタンはニヤリと笑う。
『久々に心躍る時間だった。精々失った幸せを必死にかき集めるがいい。我は地獄から空を見守っていてやる。』
そう言い残しサタンは消えていった。
「とりあえず少し休憩してから俺たちも帰ろうか。」
「…そうですね。」
「佐久間さん!昼過ぎてます!あんなかっこよく昼前に帰すとか言ってたのに!」
「しょうがないじゃん!めっちゃ耐久するんだもんあの悪魔!」
しばらく談笑してから私たちは帰路に着いた。
「さてそろそろ帰りますか!」
早瀬さんとキアラさんが歩いていく。
「ん?」
サタンが消滅した場所に紅い珠が二つ転がっている。
(なんか気になるな。拾っておくか。)
佐久間は二つの珠をポケットに入れた。
「佐久間さーん?もう行きますよー?」
キアラさんが呼んでいる。
佐久間は駆け足で彼女たちの元へ向かった。
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