悪役令嬢編:出発しましょう!
「…こんなとこかな。」
早朝、私は置き手紙を書いていた。
まぁ内容はちょっと出掛けると言った旨を綴っただけの単純なものだが。
「キアラさん!お迎えに上がりました!」
「あ!早瀬さん!」
早瀬さんも来たことだし早く抜け出そう。
「みんな…いってくるね。」
誰もいない廊下に一言呟いた。
サタンのいる火山付近の洞窟に向かうと佐久間さんが先に入り口で立っていた。
「お、キアラさんこっちこっち。」
…何故か虫かごを持っている。
「佐久間さん、何ですかそれ。」
「紹介しよう。こいつの名前は"虎王 獅子丸"だ。」
佐久間さんがドヤ顔で虫かごを突き出す。
中にはハサミを持つ赤い色の…。
「これザリガニですよね。」
虎要素もライオン要素もないのにその名前は何?
一ザリガニに背を話せるには重すぎな名前じゃない?
「ちなみに名付け親は上原さんだから俺に文句言われても困る。」
嘘でしょあの人そんな感じなの?
「こいつが3人目の従者って事でいこう。」
「はぁ!?」
「昨晩上原さんに話してみたけれど朝までに都合よく味方してくれる人間を探すのが困難でね。そしたら上原さんが『ゲーム内でも動物を味方にするシーンがありました。』っていいだして。」
そういえば主人公が従者たちと逸れてしまって野生の動物と一緒に戦う場面があったな。
てっきり『主人公は野生動物にも愛される様な心優しい娘なんだよ❤︎』ってことを表すためのネタイベントだと思っていたが…。
「いやーラッキーだね。」
「ラッキーですかね。」
せめて人型のものに来て欲しかった。
「まぁ聖剣を持ち出してしまう以上この世界の住人を連れてくわけには行かないし、俺らの世界から人を追加するのも規約で出来ないからね。」
そうだったんだ…。
てっきり援軍が来てくれるものかと…。
「まぁ任せてくれよ。早く家族の元に戻りたいだろ?」
ザリガニを私に渡しながら微笑む。
「昼飯前に終わらせてやろうぜ。」
3人と1匹で洞窟を進んでいく。
実際に戦っている姿は初めて見たがやはり2人ともかなりの実力者みたいだ。
2人は魔物をかなりのハイペースで処理していった。
戦い方はどちらもステゴロ、物理で殴るのが基本といった感じ。
早瀬さんは何というかすごく身軽で様々な動きをしている。
佐久間さんは寄ってくる魔物をとりあえず壁に投げつけていた。
ちなみに獅子丸くんは虫かごの中でハサミを広げて威嚇している。
どうしよう、思ったより可愛いかもしれない。
「キアラさん!大丈夫ですか!疲れていません?」
「ぶっちゃけ疲れました。」
「まぁ一年引きこもってたわけだもんね。少し休もうか。」
…少しくらい散歩とかはしてたし。
私たちは周囲を警戒しつつ座り込んだ。
「そういやどんな感じで抜け出してきたの?」
「置き手紙に少し外を出るって書いてでてきちゃいました。」
「…それ大丈夫?一応君記憶喪失だろ。記憶ない奴がフラフラどっかいったら周りは多分めっちゃ怖いぞ。」
「認知症の人の徘徊みたいに思われそうです!」
…確かに言われてみればそうかもしれない。
もしかして今パニックになったりしてないだろうか。
「どう?ぶっちゃけ記憶喪失キャラ大変じゃない?」
「…正直最近は忘れてきてますね。元々ゲームやってた都合で微妙に知識がある分教えられる前から知ってたりして驚かれたり。」
まぁその場合は適当に記憶戻ってきたとかいって誤魔化してきたが、やはり周りから見たら変だろうか。
「どうする?上原さんにキアラ・カースのキャラ設定をできる限りまとめてもらって、暗記でき次第記憶喪失から戻った事にすれば?」
「あー確かに。ずっと優しくしてもらうのなんか心苦しいんですよね。」
私を見たのがヤブ医者だったため、正直今まで体調を欺き放題だったのだ。
でも屋敷内の誰1人として疑ってこないわけで…。
「きっとキアラは、それぐらい信用のおける愛された娘だったのかなって。」
…私が転生してからずっと気になっていることがあった。
「本物のキアラの中身ってどうなったんだろうってどうなったんでしょう?」
中身…所謂魂という奴だろうか。
私がキアラの中に入ったということは元のキアラは既に死んでしまっているという事なのか。
「どうだろうね?すでに亡くなってしまった身体に入ったのか、はたまた実は君の中に残っているのか。これに関しては判断しかねるからなぁ。」
「…時々頭によぎるんです。もしかしたら私は本来キアラが得るべき幸せを奪ってしまってるのかなって。」
「まぁ自ら奪いにいってる訳じゃないんだし気に病む必要はないとは思うけど…そう思えるなら苦労しないか。」
「考え方を変えてみましょう!」
早瀬さんが話に割り込んでくる。
「キアラさんの人生を奪っているのではなく、キアラさんがいつその身体に戻ってもいいよう健康的に生きている!そう考えていいと思います!」
それは…何というか…。
「…物は言いようというか…都合が良いように感じて。」
私はただ自分が幸せになるために…。
「…人間ってそういうものだと思います!皆んな抱え込んでいる難しい気持ちを誤魔化して生きています!そうしないと…大変ですもん。」
いつも元気な早瀬さんの声のトーンが下がっている。
早瀬さんにも思い当たる節があるのか…いや、彼女のいう通り誰にでもあるものなのか。
「この世界での人生があくまで自分の身勝手だったと思うのなら、これからの人生をキアラのためにしてみたら?」
これからの人生を?
「例えば…1年間引きこもってたせいでかなり運動不足だろ?もしキアラの魂が戻ってきた時そんなんじゃまずくない?」
…それは…少しは運動して…なかったかもだけど…。
「それに不登校決め込んで学園での学習に支障は出てるし、キアラの交友関係にも影響は大きいだろうね。」
うっ…た、確かに。
「何より君は王子のこと嫌ってるっぽいけど元のキアラは気に入ってたんだよね?元に戻れたと思ったら婚約破棄されてるのは結構しんどいと思うよ。」
あれ…私もしかして考えてた以上にやらかしてた?
「佐久間さん!言い過ぎですよ!確かにお腹はぽっこりし始めてますが!」
早瀬さん!?
そんな…服の上からでも分かるくらい太ってるかな私…。
「まぁとりあえず、そんなに重く捉えるならいっそのこと贖罪の気持ちで動いても良いんじゃない?」
「確かに…このままじゃキアラが戻った時大変ですよね…。」
…私の目標が決まった。
「私もっと良い人生を歩みます。自分のために、何よりキアラのために。」
「はい!応援してます!」
「運動して健康になるし学園復帰して勉強も人間関係も頑張る。ただあの王子は本当に生理的に無理だからもっと良い婚約者を作ります!」
「ここまで拒絶される王子君もなかなかだな…。」
「さぁ!さっさと悪魔引っ叩いて帰りましょう!」
獅子丸の籠を抱えてキアラ達は進んでいった。
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