悪役令嬢編:悪魔と戦います!

 上原さんから私の死亡原因を教えられて1日が経った。

 ドアをノックする音が聞こえる。

「どうぞ?」

「どもども。」

 佐久間さんが部屋に入ってくる。

「あ。早く手助け内容決める様にいったくせに昨日来なかった佐久間さんだ。」

「えぇ…めっちゃ刺すじゃん。」

「私もいます!」

 佐久間さんの後ろからひょっこりと早瀬さんがでてくる。

「一応カース家の過去については俺が街で聞いた話から分かったことなんだよ!感謝して欲しいね!」

「ドヤ顔ダブルピースしてるとこ悪いですけどネットにあった情報ならいずれは上原さんが気付い出たと思います!」

「そーだそーだ。」

「頑なに認めないね君ら。」

 早瀬さんが援護射撃してくれたのでとりあえず乗っておいた。

「…まぁ君らが仲良しでお兄さんは嬉しいよ。で、悪魔の居場所については調べがついたかい?」

「あ、はい。案外すんなりと分かりました。」

 父に過去の話を改めて聞いてみて悪魔の名前を知り、家の書斎で居場所を調べた。

 直接場所を聞こうかとも思ったけど、流石に悪魔の居場所を聞くなんて娘が何しようとしてるのか心配になるかもだしね。

 実際心配になる様なことをしようとしている訳だが…。

「…本当に勝てるんですか?」

「んー?任せて余裕よ余裕。」

「楽勝ですね!」

 どこからその自信が湧いてくるんだ…。

 まぁ早瀬さんや上原さんが人間離れしているのは何度か見ているし、きっと佐久間さんも凄いんだろう。

「…悪魔の名前はサタンで国外の火山付近の洞窟内で眠っているそうです。」

「サタンかー。国に裏切られて怒り狂った結果、憤怒の悪魔と繋がるってのは結構あるあるなストーリーだね。」

「安直ですよね。」

「サタンって凄く強いイメージです!」

「作品によっては魔王とかのポジションだよね。いやー骨が折れそうだ。」

 この人そんなこと言いながらも余裕そうである。

「あと多分ですけど…これ私も行かなきゃなんですよね。」

「え?何で?」

「実は昨日上原さんたちと話してたんです!この世界における"戦闘システム"について。」




 このゲームでは貴族たちが決闘を行う際の決まりがある。

 貴族は互いに従者を3名選択し3対3で争う。

 戦闘に直接介入は出来ないが貴族は外から従者のサポートをすると言ったものだ。

「悪魔との戦闘は貴族の決闘とは違いますけれど、ゲーム内では悪魔対3人の従者という構図で戦ってました。」

「貴族ポジションとしてキアラさんがいないとそもそも戦いが発生しない可能性があるってことですね!」

「成る程、そうなるとキアラさんを守りながら戦う必要があるのかな?」

「一応ゲーム設定のままなら貴族ポジションに直接的なダメージが入ることはないはずです。」

「…まぁいざというときは早瀬さんがキアラさんの安全を死守してもらって、俺がサタンとタイマンかな?」

「あれ?上原さんは来ないんですか?」

「うちらの仕事にもルールがあってね。必ず1人は事務所に残らないといけないんだ。」

「このゲームって必ず従者が3人いないとバトルできないんですけど…。」

「…マジ?」

「従者の誰かについてきてもらいますか!」

「いや、できればそれは…。」

できれば危ない事に巻き込みたくない。

ただそんなことも言っていられないか。

「…キアラさんが巻き込みたくないというのなら俺たちはそれを尊重するよ。もう1人は一旦上原さんに相談してみるかな。」

「はい、ありがとうございます。」




「それじゃ、上原さんに一旦相談してくるわ。予定では明日朝に出発だけど大丈夫そう?」

「はい。うまくやります。」

私が素直に外に出かけたいと言うと恐らく護衛の従者を付けなければならない。

だから朝早く早瀬さんに手伝ってもらってこっそり家を出る事にした。

少しでも心配させないように置き手紙くらいは置いておこう。

「OK。じゃあ一旦俺は事務所戻るね。」

佐久間さんは去っていった。

「…大丈夫かなぁ。」

なんというか…展開が早い。

ごく最近まで引きこもりニートライフを満喫していたのに、気付いたら悪魔を討伐する前日になっている。

「本当に大丈夫かな…。」

「大丈夫です!私たちがいますので!」

早瀬さんが元気に答えてくれる。

まぁ実際心強くはある。

「それに…私たちがこの世界に飛ばされたということは主人公であるキアラさんにピンチが訪れている、もしくは近々訪れる状況ということです!ここらで大きなアクションをとるのは英断だと思います!」

ピンチか…それらしいものは特に感じてはいなかったし、もしかしたらこれからピンチに晒される可能性があったのかな。

それこそ運悪く転んであたりどころが悪くて…となる日が近いのかも。

「生きるためには戦うしかないもんね。」

「ふと思ったんですけれど、昨日のお父様の対応間違えてたら実際に昔の事件が再発してた可能性とかありそうですね!」

いやいや、流石にそんな事…あるかな?

確かに王子のことボロクソ言ってたし…私のこと大事にしてくれてるし…。

「もしかして昨日の私ファインプレーしてた?」

「かもですね!さすが主人公です!」




早瀬さんとは少しだけお話をして解散した。

今私は部屋に一人だ。

それにしてもまだ出会って3日だというのに随分と話しやすい人たちだなと思う。

やはり5日間しかその世界に存在できない分、迅速に人間関係を構築できるよう努めているのだろうか。

…前世では人と楽しく会話したことなんてほとんどなかったな。

家族との会話なんてほぼないに等しかったし、学校では相手との会話に合わせるのに必死で楽しく会話した記憶がない。

この世界に来た時から思っていたが、転生後の私は本当に恵まれている。

死亡フラグはまぁ…心底嫌だけれど。

前世では得られなかったものを、出来なかった経験を山ほど与えられた。

この世界に、この人生に感謝している。

だからこそ不幸体質とか言う訳分からん死亡フラグには本当に納得がいかない。

「私の幸せの、私の家族の幸せの邪魔はさせない。」

…私も随分と欲深くなったなぁ。




「てな訳でもう一人分従者になる人が必要だとさ。」

「成る程…分かりました。なんとかなるか調べてみます。」

佐久間さんが事務所に帰ってきてキアラさんとの話し合いについて報告してくれている。

「それにしても、ゲームシステム上では安全とはいえキアラさんは大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ。」

佐久間さんはキッパリと言い切る。

「自分が危険な場所にいることもわかっている。そんな中でも堂々と戦地に向かう度胸があり、かつ自分の大切なものは巻き込まない様に冷静に頭を巡らせている。」

佐久間さんはスーツを脱ぎ、ハンガーにかけながら彼女について語っている。

「例えゲームではただの悪役令嬢でも、この世界では間違いなく悪役令嬢の主人公だ。そう感じさせる何かがあった。」

「…そうですね。間違いありません。」

「俺たちは精々主人公の足を引っ張らない様頑張ろうや。」

「はい!」

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