勇者パーティー追放編:アイツに勝ってください

サクマさんとイージスが互いに距離を取り睨み合う。

しばらくの無言の中、先に口を開いたのはイージスだった。

「…アンタ女を攻撃できないんだって?理由は知らないが馬鹿馬鹿しいね。自分が紳士にでもなったつもりかい。」

サクマさんを挑発するイージス。先程まで散々な言われようだったのを返してやるつもりなのか。

「アンタのその行動は紳士さではなくただの弱さ、相手を選んでしか戦えない弱者の戦いなのさ。ウルスといいアンタといい、アタシの嫌いな軟弱な男が多くて本当に困るねぇ!」

「弱い奴が嫌いなんだ?」

「あぁそうさ!まともな力も才能もない、ウジウジ女々しくしている奴とか。見ていて吐き気がするね!」

….随分な言われ様だが俺に関しては否定できない。何となくそう感じてしまった。

「ハハハッ!」

「…何笑ってるんだい?」

「いやいや失礼。イージスさんだっけ?君意外と可愛らしいところがあるんだね?」

「はぁ?」

はぁ?今の会話のどこにそう感じるところが?

サクマさんの言ってる意味がわからない。

「自分の好きなものしか許容できず、嫌いなものには癇癪を起こす。自己中心的で我儘なところとかすごく可愛らしいじゃないか?赤ん坊みたいで。」

…イージスが今まで見たことない様な顔をしている。

そりゃそうだ。先程イージスが言っていた様に彼女は弱々しい人間が嫌いなのだ。

そんな彼女に対して"赤ん坊"の様だと言ったのだ。

頭にこない訳がない。

「アンタ…アタシのこと馬鹿にしてんのかい!!!」

「馬鹿にしてるんだよ!!!いちいち全部説明してもらわないとわからねぇのか?」

イージスの大声に対してサクマさんはさらに大きな声で返す。

怒りで震えるイージス。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

遂にイージスがブチ切れた。

サクマさんへ一直線に駆け出し剣をサクマさんに振り下ろす。

「サクマさん!!」

ゴーレムとは比べ物にならない、イージスの剛腕から放たれる凄まじい一振りによりサクマさんは一撃で…。

「…あれ?」

当たっていない、というか…先程までイージスの手に握られていた剣が何故かサクマさんの手に握られている。

「見事な無刀取りですね!」

「無刀取り?」

「敵の刀を奪うことで相手を無力化する技術…でよろしかったでしょうか?」

「そんな感じです!」

そんな技術があるのか…まさに達人の技術だ。

「剣を返せ!!!」

「よいしょっと。」

サクマしんがイージスから距離を取り奪った剣をへし折った!?

「貴様…。」

イージスがサクマさんと距離を取り盾を構える。

「まずい!?サクマさん!?」

思わずサクマさんに声を掛ける。

「サクマさん!そいつの盾に注意してください!そいつの盾は"メデューサの盾"という魔道具です!その盾で攻撃を行う時、盾に装飾されているメデューサの目に埋め込まれた宝石の効果で一時的に体が硬直して避けられなくなります!」

「マジ!?魔道具ってそんなこともできるんだ。」

「攻撃のタイミングで一瞬でもその盾についた宝石を見てしまうと効果が発動します!身体が動かない中でイージスのシールドタックルをノーガードで喰らうと…。」

…多分サクマさんと言えど耐えられないだろう。

「とりあえず盾を見ない様にして逃げるしかないです!気をつけてください!」

「でもそれは自分を執拗に狙ってくる突撃を直視することなく避け続けなければならないのでは?」

「で、でもそれしか影響を受けないではなくて…。」

一緒に旅をしていたがそれ以外の攻略法は思いつかない。

「好きなだけ逃げ回ればいいさ!疲れて何もできなくなったところを全力で踏みつけてやるよ!!!」

イージスが駆け出した!

そしてサクマさんは…目を瞑りながらイージスに向かって走り出した。




「何で!?」

目を瞑りながらイージスに向かっているサクマさん。

イージスのシールドタックルと正面からぶつかり…。

「…え?」

イージスの盾をがっしりと掴み、受け止めていた。

「なんで!?何であの威力の攻撃を受け止められるんだ!?」

「助走を潰しましたね!」

ハヤセさんが答える。

「相手に駆け出してタックルする技ですから、相手が最高速度に達する前にこちらから向かっていくことで威力を弱めたんでしょう!」

そんなことが…!?

「クソ!?邪魔だよ!!」

サクマさんの奇策に驚くのも束の間、イージスが盾を掴んだサクマさんを振り払いシールドバッシュを喰らわせる。

サクマさんが後ろまで殴り飛ばされる。

「うわっ!」

驚いてはいるものの何なく着地するサクマさん。

しかしこれで鬼門だったシールドタックルを対策できる。

するとイージスが喋り始めた。

「…訂正しよう。アンタは相当屈強な戦士だ…。」

「そりゃどうも。」

「アタシはねぇ、強い奴は大好きなんだ!アンタほどの男はそうそういない。どうだい?アタシの下につかないかい?」

「え?嫌だ。最初に行ったけど俺アンタのこと嫌いだし。」

「そうですよ!そんな話にホイホイ釣られる訳ないでは入りませんか!ねぇ佐久間さん!!」

びっくりした。急にウエハラさんが大声でイージスに文句を言っている。

「外野は黙ってな!でもしょうがないね。本人がついてくる気がないなら…。」

イージスが急に鎧を脱ぎ始める。

「手足をへし折って無理矢理持ち帰ろうかね。」

「な!?何ですかあの女は!?急にお色気戦術ですか!?佐久間さんあんな物あまり見ないでください!?デカければいいというわけではないんですよ!?ちょうど良い大きさが一番です!」

「房中術ですか!久々に見ました!」

女性陣のテンションが凄いことになっている。別に鎧を脱いだところでインナーを着ていて下着姿になるわけでもないのだから落ち着いて欲しい。

「…成る程、重りを外したってことかな?」

「よくわかってるじゃないか。アンタはアタシに攻撃してくる気がないみたいだし、こんな装備いらないからね。」

そうか。鎧を脱ぐことで先程より身軽になり、より速く強力なタックルが可能となるのか。

「アンタを戦闘不能にでき次第、残りの3人の息の根を止める。アンタは持ち帰った後、存分に可愛がってやるから安心しなよ。」

「おいおいなんだよドキドキしちゃうな。」

サクマさんはあくまで余裕綽々と言った感じだ。

「そうだな…せっかくそんな愛の告白をしてくれたんだ。俺もお前から"目を背けない"でやるよ。」

「はぁ!?」

あの人さっきの話忘れてるのか!?メデューサの盾を一瞬でも見てしまっては動けなくなるというのに。

「何を言っているのですか佐久間さん!?やっぱり大きい方がいいんですか!?大きくて目を背けられないんですか!?このムッツリ!?」

「房中術ですか!やっぱり房中術だったんですか!」

ウエハラさんが激昂しハヤセさんは目を光らせている。

というかウエハラさんが凄い怒ってる。どうしたの本当に?

「ちょっと!流石にみんな落ち着いてくれない!?」

サクマさんに怒られてしまった。

「任せてよ。上手い様にやるさ。」

サクマさんがイージスと向き合う。

イージスは盾を構え…駆け出した。

サクマさんは先ほどと違い前を向き一切動かない。

「サ、サクマさん!?」

そんな無防備なサクマさんにイージスの強烈な攻撃が…当たらなかった。

「よ、避けた?」

そう避けたのだ。視線を一切外さず身体を横に逸らして。

イージスは避けられた後バランスを崩し転んでしまった。

「な、何で?」

イージスも何が起こったのかわかっていない様子だ。

「いや目を背けないと言っただけで避けないと入ってないし…。」

たしかに視線は未だイージスに向いている。

「そうじゃない!!何でアンタ動けるんだ!!」

そうだ?本来目を背けないと盾に埋め込まれた宝石の力で身体が…あれ?

「自分の盾よく見てみな?」

イージスの持つメデューサの盾に埋め込まれていた宝石が…無くなっている!?

「探し物はこれかな?」

本来メデューサの盾に埋め込まれていた宝石をサクマさんが持っていた。

「最初のタックルを受け止めた時点で回収させて貰ったよ。」

成る程、あの時避けずに向かって行ったのにはそんな意味があったのか。

「さて、シンプルに殺傷能力のある武器は壊され、得意技も隠し球も効かなかった。あとは何かまだあるかな?」

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

再び駆け出すイージス。如何やらもう他に打つ手はないようだ。

先程までの余裕ありげな表情はもう消え失せていた。

「おっと、もうないみたいだね。」

サクマさんは軽々とそれを躱す。

凄まじい速さと勢いのタックルだが、あくまで直線的な動きであるため避けやすい。

再び体制を崩すイージス。如何やらあの勢いは自分でもコントロールしきれない様だ。

「じゃあ…終わらせようか。」

体制を崩したイージスの後ろに回り込み、後ろからイージスに絞め技をかける。

イージスは抵抗しようと暴れるも上手く引き剥がせない。

そのままイージスはゆっくりと意識を失っていった。




「いやー疲れた。」

「お疲れ様でした。」

「流石です佐久間さん!」

2人がサクマさんに駆け寄る。

「サクマさん、ありがとうございます。」

俺も少し後ろから駆け寄る。

チラリとイージスを見るともう完全に気絶してしまっている様だ。

「コイツどうしましょうか。」

「ん?この空間の外に適当に置いといていいんじゃない?俺らもそろそろお別れだしね。」

「え?」

言われてみればもう日が落ち始めている。

「ウルス君はこの後バレない様に例の拠点に移動してね。」

そうか…。もうお別れなのか…。

「その…何から何まで前ありがとうございました。」

「いいんだよ仕事なんだから。それに永遠の別れって決まったわけじゃない。また君がピンチになったら俺らが呼ばれることもある。」

サクマさんが手を差し出す。

「だから俺らがこれからも、この世界のために頑張ってほしい。いざという時にはまたきっと俺らが力になるから。」

「…はい!」

俺はサクマさんの手を強く握り返した。




俺は拠点に戻った。

ここから俺の隠居生活が始まる。

でも必ず俺は街に戻る。俺の帰りを待ってくれている人や心配な幼馴染の為に。

これから先にどんな苦難があるかはわからないけれど…とりあえずハヤセさんから教えてもらった修行を毎日することから始めてみようと思う。

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