勇者パーティー追放編:俺を強くしてください

「ざっとこんなもんかな。」

サクマさんとウエハラさんはあっという間に持ってきた道具を設置して通路を埋めて行った。

「手慣れてるんですね。」

「仕事の都合上色々なことを求められますからね。」

「そうそう、手先が器用じゃないとやってられないんだよね。」

2人は自慢げに笑う。

「ただ素人の建築であることに変わりはないし、もしも息苦しさや大きな違和感がある場合はすぐにここから出たほうがいいよ。後この空間で人が使うのもやめた方がいいと思う。」

「わかりました。」

「よし。じゃあ帰って早瀬さんと情報共有と行こうか。」




「ただいまー。」

「あ!お疲れ様です!」

家に戻るとハヤセさんが元気よく迎えてくれた。

「拠点の方は完成しましたか!」

「あぁ完成したよ。早瀬さんの方はなんか新しい情報は手に入った?」

「いやーちょっとしくじっちゃって!」

ハヤセさん曰く、本日も2日目同様城内での情報収集を行っていたらしいのだが、『城内で話を聞き回る怪しい奴がいる』と噂になっており上手く聞き込みができなかったらしい。

「ちょっと強引に聞き込みしすぎましたね!」

「まぁ俺たちは5日間しかこの世界に入れないししょうがないよ。」

「ただ結構な重要人物に会ってきました!」

「重要人物?」

「勇者パーティーメンバー、イージスです!」

追放される時のイージスの俺を見る目を思い出して一瞬身体が強張る。

「大丈夫でしたか!?」

「はい!絞め落としてきました!」

…えっ?

「…あの、イージスってかなり凄腕の騎士のはずなんですけれど。」

「はい!すごく頑丈でした!こちらの攻撃がほとんど効かなかったです!」

でも絞め落とせたの!?

「自分としても穏便に済ませたかったのですが見つかってしまったので!」

「早瀬さんはこちらの世界では"忍者"という一族の末裔でして、戦闘や潜伏などが得意なのです。」

皆さんの世界にはそんな凄まじい一族がいるのか…。

…ゴーレムをタックルで倒す、異世界と通じる穴を開ける、強靭な相手を絞め落とす。

もしかしてこの人たち想像以上にすごい人たちなのでは。

「…どうしたらそんなに強くなれるんですか?」

3人がキョトンとしている。

するとサクマさんが口を開いた。

「ウエハラさんのは鍛えて手に入れたものではないからなんとも言えないけれど、早瀬さんの場合は幼少期から一族の元で修行してたのが大きいだろうね。」

成る程、昔から過酷な修行に身を投じていたのか。

「興味がある様なら教えましょうか?」

「え!?」

「あら早瀬さん?一族に伝わる授業内容をそんなかんたんにお教えしてもよろしいのですか?」

「いいと思います!異世界の人に伝えたところで一族にとって困ることもないはずですし。それに自分、一族嫌いなので継承とか知ったこっちゃないです!」

…なんか今いつも元気なハヤセさんの闇を見た気がする。

「そ、それじゃあお願いします。」

「了解しました!紙に書いてまとめておきますね!」

ハヤセさんはパタパタと二階へ走って行った。

「…ちなみにサクマさんの強さの理由はなんですか?」

「え、わからん。色々な世界いったらこうなった。」

サクマさんは参考にならなそうだ。




5日目、相談所の皆さんがこの世界にいれる最終日だ。

俺は今ハヤセさんに手伝ってもらい修行内容を確認していた。

「ぜぇ…ぜぇ…。」

「大丈夫ですかウルスさん!」

疲れた。まだ昼に差し掛かるぐらいの時間だがもうこれ以上動ける気がしない。

「本当に体力ないんですね!」

そんな元気に言われても困る。森を走って木を登って他の木に飛び移って滝を登って飛び込んで山を登って飛び降りて…。

これで疲れない方がおかしいだろ。なんでハヤセさんはそんなに元気なんだ…。

「とりあえずこれを毎日続けて体力をつけることが必須ですね!頑張ってください!」

「はい…頑張ります。」

「よし!それじゃあ続きを…!」

「早瀬さんすみません。一度修行の方を中止していただします。」

振り返るとウエハラさんが立っている。

「あ!ウエハラさん!何かありましたか?」

「はい、私たちの事務所付近に悪性反応です。直ちに戻っていただいてもよろしいですか。」

「大変です!了解しました!」

「ウエハラさん、悪性反応とは?」

「…初めてあった日に私たちの居住空間に入ることができる人間について説明したのを覚えていますか?」

そういえばそんな話をしていた。確か世界に与える影響が大きい人のみ入れるとかなんとか。

「その対象は物語の主人公やその仲間の様な世界にとって善性の者、そして敵となる様な世界にとって悪性の者。どちらもこの空間に入ることができます。善性の者は引き寄せられ、悪性の者はその空間を認知でき次第無理矢理入り込んでくる様な形なのですが…。」

「つまり世界にとってよくない人間がの家の近くにいるんですね。」

「はい、簡単に入り込まれないようにあの事務所は悪性の者が近づき次第反応するようできているのです。」

成る程。初めて俺が入ってきた時、敵かも知れないのに変に警戒していなかったのはその反応がしなかったからか。

「急ぎましょう。少なからず世界に影響を与える敵です。何を仕出かすかわかりませんから。」




「サクマさん!」

息も絶え絶え戻ってくるとそこには…。

「お!ウルス君お帰りー!帰ってきて直ぐなのに悪いけど少し下がって…。」

「ウルスじゃないか!こんなところに身を隠していたんだねぇ!」

…豪快に話に割り込む、背も高くガタイが良い女騎士、勇者の最強の盾であるイージスが憎たらしい笑顔で迎えてきた。




「イージス…。」

「会いたかったよウルス!街では皆んなアンタの首を早く持ってこいってさっきだっていてねぇ!こっちにおいで?今ならあまり苦しまない様にやってあげるよ?」

…ハヤセさん曰く俺を信じてくれている人がいる。多分俺に揺さぶりをかけて動揺をさせる魂胆だろう。

「ウルスさん、こちらへ。」

ウエハラさんに誘導されイージスと距離を取る。

「どこ行くんだいウル…。」

先程会話に割り込まれたサクマさんがイージスの前に物理的に割り込む。

「…邪魔だよ。」

「いやいやこっちのセリフだよ。人の敷地内に急に入ってきてさ。邪魔な部外者はどっちだと思う?」

イージスの眉毛がピクピクと動く。これはだいぶ頭にきているな。

「上原さん、早瀬さんはウルス君の護衛を頼む。」

「ですが佐久間さん!貴方は…。」

ウエハラさんが動揺している?一体なぜ?

「…佐久間さんは女性に攻撃できないんです!どれだけ相手が凶悪だったり屈強だったりしても!」

「そんな…サクマさん!そんな奴容赦なく倒しちゃっていいですよ!?」

「違うんです。これは佐久間さんのポリシーなどで決まったものではなく、精神的にそうなってしまっているもので…。」

そんな…。流石にこちらから攻撃できない様じゃあのイージスに勝てる訳が…。

「大丈夫、コイツ程度ならなんとかなるよー!」

サクマさんが大声で答える。

そしてこの言葉を聞いてイージスの額に血管が浮き出た。

相当頭にきている様だ。

「それにね…。」

サクマさんがこちらに目を向ける。

「…短い期間ではあるけれど、俺らはウルス君を気に入ってるんだ。そんなウルス君に随分なことしてくれたみたいじゃない?俺も多少ながら頭にきてるんだわ。」

「は?なんだい?つまりは薄っぺらい友情ごっこかい?くだらないねぇ!反吐がでるよ。」

「やかましいな。小物のくせに声量だけ一丁前だ。」

「…アンタいい加減にしないと…!」

「安心しろよ、俺はアンタのこと大嫌いだからさ。たとえ彼と親しくならなくてもこうしていた。」

サクマさんがイージスと向き合う。

「かかっておいで盾に隠れた臆病娘。軽く遊んでやるよ。」

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