勇者パーティー追放編:拠点作りを手伝ってください 2

異性出張相談所の面々に出会って4日目、彼らがこの世界に入れる時間はもう長くない。

できる限り早く拠点を完成させる必要があるのだが…。

「さて、今日も元気に穴掘りしよう…って言いたいけど、どうもそんな気分じゃなさそうだね。」

俺の気分は最悪なものだった。




昨晩、家に戻ってハヤセさんと情報の共有を行った。

ハヤセさんが奴隷商の元へ潜入し手に入れた奴隷の一覧…その中に俺の前で爆発四散したメイドと同じ顔をした女が載っていた。

つまり、昨朝話していた城側の自作自演に信憑性がでてきた。

「でもなんで…。」

どうしてそこまで俺を追放したかったのだろうか…。

「君を追放しようとしたら理由については今日早瀬さんが確かめてくれると思うから、今は自分たちの作業に集中してほしいな…。」

「…すみません。」

サクマさんの言う通りで今考えても仕方ない事である。

それでも、どうしても気になってしまうのだ。

「…まぁ何となく予想がつくけどね。」

「え!?」

一体どんな理由なのだろう。

「例えばウルス君曰く勇者パーティーの半数は体力があまりなくダンジョン途中での撤退が多かったんだよね?城側がダンジョン攻略の効率を上げたくて君が邪魔だったとか。」

「…でもそれなら普通にパーティーをクビにすれば良いのでは?」

「ただクビにするだけだと君が街に居座るだろう?勇者パーティーの中でも慕われている君が街に残って周りを引き連れて抗議してきたら厄介だとでも考えたとかじゃない?」

「確かにそれならわからなくもないかも?」

「もしくは…魔王軍を倒した後のことを考えているのかもしれない。」

「魔王軍を倒した後?」

「魔王軍を倒した後、勇者パーティーはどうなると思う?」

「それは…報酬を貰って…。」

あれ?その後俺たちはどうなるのだろう。何となくアリスと村に帰ると思っていた。

「俺がよく読む話とかだとさ、大体王国のお偉いさんのところに行くね。その国のお姫様と結婚とか。」

「え?何でですか?」

「魔王を倒すほどの力だよ?そう易々と手放したくないのさ。それに他の国より大きな力を持つことになる。戦争とかの時有利だろう?」

…確かに強大な力はできる限り自分のものにしておきたいのは分かる。

ただこれではまるで…。

「…都合の良い戦闘兵器みたいじゃないですか。」

「…まぁそれを言うなら勇者パーティーて言うもの事態そうだと思うけどね。」

今はダンジョンでモンスターを倒しているが、それがいずれ戦争で人と争うためのものになる恐れがある。

俺やアリスはそんなことのために勇者パーティーにいたわけではなかったはすなのに。

「そう、その勇者ちゃんなんだけどさ。」

「アリスがどうかしましたか?」

「確かアリスちゃんが勇者になる条件は君もパーティーに加えても良いならだったよね?」

「はい。当時はよく一緒にいましたから。」

「城にいるお偉い方は勇者を城に置いておきたい。でも勇者にはパーティーに引き込んででも一緒にいたい人間がいる。お偉い方からしたら大分邪魔な存在だよね。」

…そう言われればそうなのかもしれない。

「でも最近のアリスは勇者としての責任が生まれたからか俺が話しかけても反応薄いですし、側から見たらそんな心配湧かないんじゃないですか?」

「どうだろうね?もしかしたら勇者ちゃんが既に魔王討伐後は君と村に帰りたいとお偉いさんに話していたかもしれないし、念のため君を引き剥がしたかったのかもしれないし。」

確かにアリスが今でも俺と村に戻りたいと思ってくれていたなら嬉しいが…。

「いや、でもアリスは俺をパーティーから追い出すことに同意しています。今の俺にそこまで思うことはないんじゃないですかね…。」

アリスは俺を追い出すことに同意して書類にサインをしていたはずだ。

「勇者以外の2人は直接的に君に攻撃をしてきたが別に勇者本人とは追放時会ってないんだろう?だったら彼女の真意はまだわからなくないか?」

「アリスの真意?」

「例えば彼女には君が裏切り者であったと言う話はしないでおいて、『ウルスの実力ではこれからの道のりが厳しいから勇者パーティーから追放し、村で帰りを待ってもらう様にすべきだ』と説得されサインした。その後君がいなくなってから君が裏切り者だったと説明するとか。」

…ありえない話ではないのかもしれない。

「もしくはそもそも勇者ちゃんがサインした様に偽装していただけの何の効力もない書類だった可能性もあるんじゃない?あの書類の役割は君に"幼馴染の勇者にも見捨てられた"と思わせることだしね。」

…もしもサクマさんの言う通りだった場合…。

「アリスの奴、今かなり混乱しているかもしれない。」

「そうだね。君が魔王軍って噂はすでに彼女の耳にも届いていると思うし、それが真実かどうか彼女には確かめる術がないから。」

「…絶対に戻ってやる。俺を信じてくれる人やアリスのために。」

「…そうだね。今まで話したことは全て俺の予想で確証はない。それでも勇者ちゃんは君について誤解や心配をしている可能性が高い。俺らも全力で君のサポートに徹するよ。」

「はい!ありがとうございます!」

「まぁ今日含めて後2日しかないけどね。」

「…急いで拠点作りますか。」

「そだね。」




「完成だ!」

サクマさんと2人で穴を掘り続け、やっとの思いで拠点を完成させることができた。

「つ、疲れた…。」

こんなに身体を動かしたのは久しぶりだ。

それに途中で何度かボスのゴーレムがこちらの穴に入り込もうとしてきて大変だった。

「さて、それじゃあ拠点内に聖水を撒こうか。」

先程休憩のためにダンジョンを出てみると、早速オアシスさんが聖水を持ってきてくれた。

俺とオアシスさんが話していたらサクマさんが『後は若いお二人で!』と言い残しダンジョン内に走って行った時は驚いたが。

あれはいったい何だったのだろう。後でサクマさんに聞いてみたら『てぇてぇ』としか答えてくれなかった。

「聖水も撒けましたし通路は塞ぎますか。」

転移魔法で出入りする予定のため通路は必要ない。なんならボスのゴーレムが復活するたびに入ってこようとする為早く塞いでしまいたい。

「あーちょっと待ってて。多分そろそろ来るはず。」

そろそろ来る?いったい誰が?

「失礼いたします。」

「うわ!?」

振り返るとウエハラさんが拠点内にいた。

気配も何も感じなかったぞ?

「お疲れ様上原さん。早瀬さんはもう帰ってる?」

「はい。早瀬さんに予定通り早めに帰ってきていただけましたので。」

「よし、じゃあ例のもの出してもらえる?」

「はい。」

ウエハラさんが何もない空間に手をかざす。するとそこに大きな穴が空いた。

「はぁ?」

「すみません。先日注文していたものを持ってきてもらってよろしいですか。」

ウエハラさんは空間の穴に頭を突っ込んで何か話している。

「驚いたでしょ。上原さんは異世界と俺たちの世界を繋げることができるんだ。」

それって俺の転移魔法とかと比べ物にならないほど凄いじゃないか!?

「必要な備品とかが生まれた時、こうやってウエハラさんルートで持ってくる様にしてるんだよね。」

ウエハラさんの開けた穴から様々な道具

がでてくる。

「通路を埋める前にこれ通す必要がある。」

穴から随分と長い筒の様なものが出てくる。材質はこちらの世界では見たことのないものだ。

「塩化ビニール管だっけ?こんな感じの管を何本か通して通気口代わりにする。こんな風に穴を開けておかないと酸素不足で生活できなくなるから。」

えんか…ビニ…酸素…?

「塩ビ管は私たちの世界の道具で酸素は…。」

ウエハラさんが色々教えてくれたが、とりあえずわかったのはこれがないと俺は拠点で生きていけないと言うことだった。

「とりあえず俺の生命線なんですね。」

「そうそう、ボス部屋は中々広いし相当隅々まで探索されない限りは穴が空いていてもバレない…と思う。多分きっと恐らく。」

何それ不安。

「よしじゃあ作業続けようか。ウエハラさんも手伝ってくれる?」

「お任せください。」

こうして拠点作り最後の作業が始まった。



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