勇者パーティー追放編:拠点作りを手伝ってください
「さて、ボス部屋に着いた訳だが…。」
ボス部屋に戻ると案の定ボスは復活していた。
「じゃあ俺はまた壁ハメ無限タックルしてくるから、ウルス君は端っこで掘り始めといてくれ。」
サクマさんは意気揚々とボスのゴーレムの元へ駆けて行った。
「…やるかぁ。」
とりあえず掘り進めるとしよう。
一旦ツルハシとスコップ、自分の身体に攻撃強化魔法をかけるか。道具が壊れる恐れや怪我をする可能性もあるので防御も同じぐらいかけておこう。
後は…壁の掘り進める部分に弱体魔法をかけてみるか。やったことないけど良い機会だ。試してみよう。
「お疲れ様ウルス君、結構進んでるね。」
「あ、お疲れ様ですサクマさん。上手く魔法がかかってくれて大分楽に進めてます。」
ダンジョンの壁の一部にも弱体魔法ってかかるんだな。初めて知った。
「何というか…ウルス君の補助魔法ってかなり優秀だよね?かなり色々なことができるし。」
「そうですか?」
「というか転移魔法ってめちゃくちゃ便利じゃん。あれって誰にでもできるものなの?」
「いや、人によって魔法の適正があって…俺は攻撃魔法の適正がほとんどなかったんですよね。威力も弱いし。」
魔術師はほぼ才能の世界である。そいつが何の魔法をどれぐらいのレベルでだせるかは最初から決まっている。
「ほう、つまり補助魔法の才能があるウルス君は手助けの天才ってわけだな。」
「でも勇者パーティーではあまり求められる才能ではなかったんです。」
俺が強化魔法を付与する間にアリスたちはそこら辺のモンスター程度なら一掃できる。
稀にあまりにも頑丈な敵が出てきた時に強化魔法をかけたぐらいだ。
「それにパーティーにはエレナがいましたから。」
俺がもしも天才だとするなら彼女は超天才。俺が後方でチマチマと支援している間に彼女は一瞬で敵陣を焦土に変えられる。そんな彼女は補助魔法は全然使えなかった。
でも問題はない。元から彼女にそんなものは必要なかったから。
「…多分世間での俺の評価はそこまで高くなかったはずですよ。」
「そんなことないだろ。」
サクマさんがすかさず言葉を挟んでくる。
「今朝のこともう忘れたのか?今街では君のことを紛れもなく評価していて、城に抗議までするような人たちもいるんだよ?そこまでの事してくれる人はそうそういない。」
…そうなんだろうか。
「ウルス君って多分自己評価低いよね?」
「…そうかもしれないです。」
「それにいくら超天才でも問題ない。才能ってのは人生で必ずぶつかる理不尽な壁だが、それに争うのはいつだって工夫と努力だ。」
「…魔術師の世界ではほぼ才能が…。」
「でも使い方、戦い方の工夫は人それぞれだ。例えば街にモンスターが攻めてきた時、君以外の勇者パーティーは敵と態々戦わなければいけない。でも君は敵と一緒に転移魔法を使えば街から遠ざけ真っ先に"街を救う"ことができるだろ?聞いた限り、これは他の3人にはできない君の唯一の手段だ。」
サクマさんは俺に優しく微笑む。
「この手段は勇者パーティーとしてダンジョンへと向かう君には使うことのないものかもしれない。でも紛れもなく君の強みだよ。」
…魔術師は才能の世界。この世界の常識だったが、もしかしたらそんな単純な世界ではなかったのかもしれない。
俺も彼女らと並べる様な、アリスと共にいることができる様な力を得ることができるのかも…。
「それに勇者パーティーは辞めさせられたんだから、勇者パーティー基準で強さを考える必要もないよ。魔王軍を倒すとかはその超天才共に任せて、君はその力で自分が助けられる奴を助ければ良い。」
「それもそうですね。」
なんだか気が楽になった。やはりサクマさんは凄いな。
「それに戦いも工夫すれば結構良い感じになりそうだし。強化魔法って自分の身体や武器にも使えるんだよね?」
「はい。」
「じゃあ君が武器を持って、強化した武器と身体でたたかえばいいじゃん。」
「…俺体力あんまなくて…。」
「そこは努力だな。少なくとも運動能力や戦いの技術っていうのは才能が全てではないでしょ。」
「…確かに。」
魔術師という才能の世界に入ったからか、努力をすることで伸び代がある選択肢をいつのまにか外してしまっていたのかもしれない。
「これからも騎士に追われたりするかもしれない。攻撃魔法を当てるわけにいかないなら素の攻撃力を上げて裁き切る必要がある。」
「…俺、これから身体鍛えていきます。」
「それがいいよ。俺らの世界でもよく言うんだ。『筋肉は裏切らない』ってね。」
「今日のところは一旦引き上げようか。」
サクマさんと一緒に掘ることで1日で大分穴を広げることができた。
「…ウルス君ストップ。ダンジョン前に誰かいる。」
本当だ。どうしよう。一度引き返すべきか?
「…あっ!」
しまった!こちらの存在に気がついたか!
サクマさんと共に警戒態勢に入る。
しかしそれは杞憂だった。
「あれ、昨日の。」
「はい、オアシスです。先日は助けていただきありがとうございます。」
オアシスはどうしてもお礼をしたいが為に、俺たちと出会ったダンジョンの前でもう一度会える機会を待っていたらしい。
「お礼とか気にしなくていいのに。」
「いえ!命の恩人なんです!そうしないと私の気が済みません。」
どうしたものか。追われる身である俺と長くいるというのはあまりよろしくない。
「…オアシスさんって聖水知ってる?」
「はい、村で父が農業をしていてよく使ってます。村の教会から私がよくもらいに行っていますね。」
「…そらじゃあお礼として1週間に1回、彼に聖水を届けてやってくれないか?彼は諸事情で教会に行けなくてね。」
「はい!そんなことでよろしければ!」
「で、でも俺と深く関わるのは…。」
「うん、だから直接渡すんじゃなくてダンジョンの入り口辺りにこっそりと置いておいてもらおう。」
確かにそれなら直接的な接触は少なく済むし安全か?
「それは…。」
「ん?」
オアシスさんが何故か頬を赤らめモジモジしている?どうしたんだ?
「私としては…ウルスさんにお会いしたいというか…。」
「え?なんで?」
「なるほど!そういうことね!」
隣でサクマさんがニヤニヤしながら納得している。いったいどう言うことなんだ。
「そっかー。いやーいいね!よく読む様な話だけどいい。やっぱ王道が一番なんだよな!うん!」
「すみませんサクマさん、どう言うことかよくわからないんですが。」
「カーッ!ウルス君鈍感系主人公かよ。でもそれも良いね!ド定番だからこそ良い!」
「えぇ…。」
結局サクマさんはダンジョンから家に戻るまで終始テンションが高かった。
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