勇者パーティー追放編:何があったか教えてください

 ハヤセさんから街の状況を聞いた。

 どうやら俺が勇者パーティーにいた時からお世話になっていた装備屋や道具屋などが俺が魔王軍の手下なんかではないと訴え掛けているらしい。

「勇者パーティーのなかでも熱心に冒険に向かっていた印象が強かったみたいですね!そんなウルスさんが急に魔王軍だとか言われて憤慨してる様子でした!」

 …そういえば勇者パーティーの頃はパーティーメンバーのアイテム補充などは全て俺に押し付けられていたな。そのおかげで町の中では顔が広い方だった。

「日頃の行いが良かったおかげで味方になってくれる人がいたのですね。」

 ウエハラさんが優しく微笑みかけてくれる。

 …先日の一件で俺にこの世界の味方はもういないものだと思っていたが、まだ信じてくれている人がいたのだ。

「サクマさん。俺、目標ができました。」

「お?」

「俺のことを信じてくれている人のためにも、必ずこの誤解を解いてみせます。そして俺のことを信じてくれていた人たちにお礼を伝えたいです。」

「…あぁ、すごくいいと思うよ!」




「街はまだ捕まらないのか、そもそも本当に魔王軍の手下だったのかと大荒れですね!それに近隣の街にも情報は回っているみたいです!」

 多分今回の騒動で住民たちの城への印象はかなり下がっているだろう。

 勇者パーティーに魔王軍の手下を紛れ込ませている挙句そいつを易々と逃してしまった。しかもそもそも魔王軍の手下ですら無いと噂もたっている。正直面目丸潰れだ。

「そういえば、今回の密告がどのルートからの情報だったのかは調べがついた?」

「それがそれらしい話の情報源は見当たらなかったんですよね!城の騎士たちも上からそう伝えられたってだけらしくて!」

 凄いな。つまり城の騎士たちともコンタクトを取れたと言うことか?

「それとウルスさんが追われることになった大きな原因でもある爆発メイドについても気になることがありまして!」

 ハヤセさんは書類の束を取り出す。

「これは場内で雇用されているメイドたちの書類です!ウルスさんにはこの中から今回爆発したメイドは誰だったのか確認してほしいです!」

 凄い量の書類だな…。え、この量城から盗ってきたの?

「早瀬さんは何というか…こういうのが得意なんだよ…。手癖が悪いのがたまにキズだけど…。」

 サクマさんに苦笑いで褒められ?たハヤセさんは得意げに胸を張る。

 …街な城に侵入して情報を掻っ攫う、実は大泥棒だったりするのだろうか。

「まぁ、書類の確認は後にして今度はこちらの情報を共有しようか。」

俺とサクマさんは今日あった出来事を説明した。

「聖水の確保とボス部屋に拠点作りですか…。なかなか大変そうですね。」

ウエハラさんが呟く。

「ボス部屋に拠点を作るのはどうにかなるんだよ。問題は聖水だ。1週間に一度使用する必要がある以上定期的に使える安定した補給方法を考えなきゃね。」

「街でウルスさんを信じてくれている方々の力を借りるのはどうですか!」

「街の方々を巻き込むのは少し不安ですね。ウルスさんとの繋がりがバレてしまうと迷惑をかけてしまいます。」

「せめて街の外の人間ならいいかもだけど、近隣の街にも情報は回っているんだよな。」

やはり聖水の入手が現状困難な問題だ。人に迷惑をかけるのは俺も本意では無いし…。

「近隣の街に情報が流れていても変装などで身分を隠していれば貰えたりしないですかね?」

「まぁリスクがどうしても伴うから最終手段な気もするけどね。とりあえず明日はもう一回ダンジョンに行こう。ウエハラさん、明日用意しておいて欲しいものがあるんだけどいいかな。」

「はい、お任せください。」

まだ密告についてや聖水の確保についてなど大きな問題はあるけれど、昨日よりも明確なやらなければいけないことややりたいことが見つかった。昨日は泣き疲れて寝ていたけれど、今日は心安らかに眠れそうだ。

「寝る前にハヤセさんの持ってきた書類見といてね?」

…いや、もしかしたら今日は眠れないかもしれない。




「佐久間さん、おはようございます。例のもの用意しておきました。」

「おはよう上原さん。準備ありがとうね。」

「…おはようございます。」

「あら、ウルス君おはよう。その様子じゃ全然眠れなかったかな。」

「はい…書類を読むだけならすぐ終わったんですけど…。」

「なにか問題があったのですか?」

「…何度読み返しても見当たらないんです。あの日目の前で亡くなったメイドが。」

「え?それは一体どういう…?」

「あー成る程ね。」

理解できていないウエハラさんと何か察した様なサクマさん。

「多分その娘は元々メイドじゃなかったんだよ。ウルス君を嵌めるために用意された偽メイドだったわけだ。」

「じゃあ彼女は元々何だったんでしょう?」

「考えられるのは…奴隷とか?既に戸籍もない様な娘たちなら身元が割れなくて都合がいいとかなのかな?実際のメイドを利用するとその娘の身内とかに説明とかする必要があるけれどこれなら裏で処理するだけでいいからね。」

…彼女の様子を思い出す。ガタガタと身体を震わせ、俺に壊れた様に謝罪を繰り返していた…。

成る程…挙動不審になる訳だ。彼女は自分があの後どうなるのか理解していて、恐怖や罪悪感でおかしくなっていたのだろう。

「早瀬さんは何となく察してたんだろうね。今日は奴隷商のところに情報集めに行くと言っていたし。」

「…とても気分の悪くなる話ですね。」

ウエハラさんは心底不快そうな顔をしていた。

「…とりあえずそこの確認は早瀬さんに任せて、俺たちは拠点作りを始めよう。」

「…はい。」




「よし!じゃあダンジョンに突撃しようか!」

「あの…その手に持ってるのって…。」

「ん?ツルハシとスコップ、こっちには無い?」

「いえ、ありますけれど…何でそんなものを?」

「掘るんだよボス部屋を。」

「…え?」

「ボス部屋から穴を掘って空間を作る。拠点までの穴は埋めてしまって、拠点の出入りは転移魔法を使用するって魂胆だ。どう、何か問題はあるかな?」

たしかにボス部屋付近は探知魔法の影響を受けない、その為そんなところに空間があり、ましてや人が住んでるとは気付けないということか。しかし…。

「サクマさん。俺昨日の夜書類読んでて眠れなかったんですよね。」

「そっか、大変だね。じゃあ頑張ろうか。」

サクマさんが満面の笑みでスコップを渡してくる。

…俺ただえさえ体力ないのに…。

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