勇者パーティー追放編:一緒に考えてください

「自給自足とかしたことある?」

「どうしたんですか突然。」

 今俺はサクマさん、ウエハラさんとどのようにして生活基盤を成り立たせるかの話をしていた。

「君が魔王軍の刺客だって話は街に知れ渡ってるからね。今までいた街に戻れないのは当たり前、他の街に入ることすら危険まである。」

 確かに…人類の敵として公表されてしまった以上、人のいる場所は警戒しなければならない。

「一応早瀬さんが君の話が流れていない場所を探してくれているけれど、もしかしたらそこに話が流れてくるのも時間の問題かもしれないしね。恐らく人のいない場所で自給自足が最も安全だと思う。」

「成る程…。」

 自給自足か…。畑とか耕すのかな?俺あんまり体力ないんだけど大丈夫かな?

「すみませんウルスさん、一つ気になることがあるのですが…。」

「どうしました?」

 ウエハラさんが話しかけてきた。

「先程早瀬さんがこの世界について調べて来ていた内容で気になるものがありまして…獣人の村に助けを求めるのは可能でしょうか?」

 獣人の村…この世界に存在する半人半獣の存在だ。

 基本的に人と獣人は互いに不干渉であるよう決められているが…。

「…人間が獣人を奴隷として連れ去ることがあるんです。貴族達に高く売れるからと…。」

「うわぁ…。あるあるだなぁ…。」

「なので獣人は人間を嫌っていることがほとんどです。助けを乞うのはむずかしいかと。」

「成る程、人が近付かないカテゴリに属するのも手かと思ったのですが…いささか厳しそうですね。」

 人が近付かない場所…。それなら…。

「ダンジョンの中なら…ほとんど人は入ってこないかも…。」

「それは…流石に危険なのではないでしょうか。」

「いや、案外悪くないかもしれない。」

「はい。難易度の高いダンジョンではなく、勇者パーティーが既に攻略した"もう向かう必要のないダンジョン"なら…。」

 この世界にはダンジョンが複数存在する。

 ダンジョンとは所謂モンスターの住処なのだが、その奥には魔道具や宝石などが置いてあることがある。

「宝が未発見だったり鍛錬のために攻略済みのダンジョンに潜ることはあります。ですが、基本的に攻略済みで宝を回収済みとなると人が来ることはほとんどないんです。」

「宝を回収済みのダンジョンはほとんど人間にとって需要がないんですね。」

「それなら鍛錬にくる人間さえ上手く避けることができれば安全に生活できるかもね。」

「一応俺は転移魔法と探知魔法が使えるので、序盤のダンジョンで鍛錬するような奴ならこっちが先に気付けると思います。」

「そう言えば補助魔法が得意とおっしゃっていましたね。」

「はい、まぁ、一番得意なのは強化魔法なんですけどね。」

 勇者パーティーとして戦っていた時は大体3人の後ろから強化魔法をかけ続けていた。今思えばそんな様子がイージスは気に食わなかったのかもな…。

「よし、なら善は急げだ。序盤のダンジョンを軽く回ってみようか。場所がわからないからウルス君にもついてきてもらいたいな。まだ城の騎士達がウルス君を探し回っている可能性もあるし慎重にね。」

「はい、十分休ませてもらったのでもう城の騎士に遅れはとりません。」




 サクマさんと2人でダンジョン付近を回ってみる。

「こことか悪くないんじゃないかな。近くに川もあるし。」

「確かに、ここなら人気もほとんどなさそうですね。」

 懐かしいな。確かこのダンジョンに挑んだ時はまだアリスと俺以外パーティーがいなくて、2人でギャーギャー騒ぎながら挑んでたっけ。ボロ負けして近くの川で休憩したりしたな。

 …あの頃は本当に、本当に楽しかった。

確かダンジョンで初めて宝をゲットしたのもここだったかな。指輪型の魔道具だっけ?あまり強くも高価でもなかったけどアリスすごく喜んでたなぁ。

「よし、じゃあ中入ってみようか。」

「えっ、俺は大丈夫ですけどサクマさんがダンジョン内に入るのは危なくないですか。」

「いやいや舐めてもらっちゃ困るよウルス君。俺だって色々な異世界回ってるんだから序盤のダンジョンくらい余裕よ余裕。」

本当だろうか…。サクマさんとウエハラさんは彼らの世界ではスーツと呼ぶ服を着ているらしいのだが、とても鎧のような頑丈さはなさそうだ。因みにハヤセさんはスーツでは動きにくためジャージというものを着ているらしい。

「心配ならさ、危なくなった時に得意の強化魔法を俺にかけてくれよ。」

「…分かりました。」

最悪転移魔法で外に出れるし…無理しない程度に行ってみるか。




「マジか。」

ダンジョンのボス部屋前まで着いてしまった。

この人なんなんだ?俺が強化するまでもなく強いじゃないか。

ゴーレムを投げ飛ばしてる人間なんて初めて見たぞ。

「やっぱ身体動かすの気持ちいいわ。たまにはしっかり運動しないとね!」

腰に手を当て楽しげにに笑ってる。この人は今までどんな修羅場を経験してきたのだろう。

「今までどんな世界を回ってきたんですか。」

「ん?そうだな。お姫様がひどい目にあってる世界とか魔物に世界が滅ぼされる寸前の世界とか色々あったよ。勇者が魔王に寝返って大変な世界もあったね。」

「…本当に色々な世界があるんですね。」

「まぁね。世界が手をつけられないくらい崩壊していて、上手く手助けできない時もあったよ。」

やはり、相当な修羅場をくぐり抜けているようだ。

「でもね、いつだって俺らの元に来る主人公達は諦めなかった。どんなにボロボロでもね。そんなに頑張られたら俺らも全力で手助けするしかないわな。」

…そんな凄まじい人たちと俺は同じだと彼らは考えてくれている。やはり実感が湧かないな。

「…今は分からなくても君はしっかりと主人公できると思うよ。何人も主人公を送り出している俺が保証する。」

「…ありがとうございます。」

実感は未だ湧かないが、この人が言うのならそうなのかもと少しだけ思えた。




「さて、じゃあダンジョンのボス倒してゆっくりダンジョンの内見させて貰おうか。」 

目の前の大きな扉を開く。そこには…。

「!?」

「獣人の女の子が!?」

扉の先で巨大なゴーレムに今にもトドメを指されそうな獣耳の少女がいた。

「サクマさん!彼女を助けます!手を貸してください!」

「了解!!」



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