勇者パーティー追放編:しばらく匿ってください
…目を開けると窓の外が明るくなっている。
泣き疲れて寝てしまったようだ。
階段を降りると昨夜出会ったウエハラさんとサクマさん、そして昨夜はいなかった女性がテーブルを囲んでいた。
「お!もう起きたんだ。もう少しゆっくりしていても良いんだよ?」
サクマさんが親しげに話しかけてくる。
「いえ、もう大丈夫です。昨夜はありがとうございました。」
「君への手助けが仕事なんだから気にしなくて良いよ。あ、早瀬さん自己紹介まだだよね。」
サクマさんが昨夜はいなかった女性に目を向ける。
「初めまして!自分は早瀬と申します!よろしくお願いします!」
何というか凄く元気な人だな。
「俺はウルスです。よろしくお願いします。」
「よし、これでうちのメンバーは全員だ。昨日の続き始めても大丈夫かい?」
…ここがどんなところで彼らが何者なのか気になることだらけだ。
こちらとしても早く話を伺いたい。
「はい。お願いします。」
「さて、まずは俺ら異世界出張相談所について。昨日も少し話したが、俺たちは異世界で君達みたいな苦労人の手助けをする仕事をしているんだ。」
確か昨日も同じようなことを言っていたな。
「ただ話を伺った限り、誰でも助けるわけではないんですよね?」
「そうだね、まぁ手助けする対象はここを見つけることができる選ばれし者だけ。たとえ近くで山賊が暴れていて村が滅びそうでも、魔王軍が攻めてきて世界滅亡のピンチでも、君みたいなお客様がそれらを止めて欲しいと言わない限りは一切動けない。」
「…ここを見つけられる人の条件とかはあるんですか?」
「うーん、説明してもわからないと思うけどその人がどれほど世界に大きな影響を与える奴かが関係しているんだよね。」
…世界に大きな影響を与える?
「そうだな…例えばこの世界が本の中の物語だったとして、その主人公やその仲間、敵に当たる存在は物語という世界に大きな影響を与えるだろう?」
「…この世界の勇者や魔王などが該当しそうですね。ただ…。」
俺は勇者パーティーから追放された身だ。そんな俺が何故ここに辿り着けたのか。
「なんで俺が…って顔してるね。多分君はさっきの説明にあった"主人公"に当たる存在なんだよ。」
「はぁ!?俺は別に勇者じゃないですよ!?」
「別に勇者じゃなくたって主人公になれるよ。それにこっちの世界じゃそんな物語よくあるぜ。」
「えぇ…パーティーから追放される話がですか?」
「そうだよ、パーティーから出来損ないと判断された後に実はめちゃくちゃ強かったとか物凄いモテ始めたとか。多分みんなそんな状態からの大逆転劇が好きなんだろうな。」
「なるほど…。」
「とりあえず君は世界的に重要人物、俺らはそんな君を手助けするってこと。」
話が大分ぶっ飛んだ内容で理解し難いものもある。しかし、これ以上話を聞いても結局は理解しきれない、なんとなくそんな感じがした。
「それじゃあ今度はウルス君の話を聞かせてもらえるかな?」
「…俺の話ですか?」
「そう、ここに来るまでに一体どのようなことが起こって、どのような目にあったのか。そして何より、"君が今何を望むのか"が聞きたいな。」
俺の今の望みか…。
俺は簡単にではあるが自身の生い立ちや追放されるまでに何があったのかを説明した。
3人はその一つ一つをしっかりと聞いていてくれた。
「成る程ね。パーティー追放というより街から追放されてるんだ…。」
「これは…あまりにも…。」
「酷すぎますよ!何ですかその密告って!」
本当にその通りである。こちとら一切魔王軍との関わりがないのに…。
というかハヤセさん感情豊かだな。何だか自分と同じくらい怒ってくれていて少し嬉しい。
「さてそれでは最後に聞きたいこと、今ウルス君は何を望む?」
「それなんですが、しばらくここに匿って欲しいという望みでも良いですか。」
正直今すぐ思いつく望みはこれぐらいだ。
「あ、すまないが俺たちがこの世界にいるのは5日間だけなんだよね。」
「えっ…。」
「もう1日経ってるからあと4日間。その間なら匿えるんだけど…。」
4日間だけ…。いや、それでも絶対安全な場所なら。
「それでも問題ありません。お願いします。」
「了解。じゃあ俺たちがいる間はここで過ごしていてくれ。」
「ありがとうございます。」
「ウルスさんは他に何かやりたいことはございませんか?」
ウエハラさんが訪ねてきた。
「…本音を言えばどうして俺がこんな目にあったのか、誰がこんな目にあわせてきたのかは気になりますね。」
「…ちなみにさ、ウルス君は今回の件に黒幕とかがいた場合復讐してやりたいとかは思ったりするの?」
サクマさんの発言に少しドキリとした。
確かに俺の地位や居場所を全て壊していった奴を恨んでいないとは言えない。
でも…。
「正直、もうあんまり関わりたくないんです。」
昔は魔王を倒した英雄とかにも憧れたりした。アリスが勇者となり自分がついてくことになった時もやれる限り頑張ろうと思えた。でも今では…。
「俺は…静かに暮らしたい。パーティーに戻るとか世界の為に戦うとか…正直もう嫌になっちゃいました。」
今の俺は本当に魔王とか勇者とかどうでもよく感じる。こんな思考の俺が本当に世界に大きな影響を与えるような奴なのだろうかと今でも疑問が残っている。
「おっけー。じゃあこれからの生活基盤を整えるって感じかな。」
「えっ?」
「それはそれとしてウルス君を陥れたクソ野郎も気になるみたいだし、早瀬さんそっちの方も調べといてもらえる?」
「了解しました!!」
「何というか…せっかく異世界まで来てもらっているのにこんな願いでいいんですか?」
「いやむしろそんなもんでしょ。むしろ『今すぐ魔王倒して陥れてきたやつ見つけ出してボコりたい』とか言われても5日では無理だしね。」
そんなものなのか。
「それに、君はもう勇者パーティーじゃないんだろう?ならわざわざお利口に世界のこととか考えなくていいでしょ。」
…確かに、何故か勝手に世界を救う責任を感じていたが俺はもうパーティーをクビになっているんだった。
しばらく勇者パーティーとして周りから期待されるのが当たり前だったからだろうか。
「…多分君はいずれ世界に大きな影響を与える。ここにたどり着いたのだから間違いないよ。でもそれはいつかになるのかなんて誰にも分からないんだ。だからこそ今は自分のやりたいことからやってこうよ。」
サクマさんが優しく語りかけてくれる。単純だと思われてしまうかもしれないがこの言葉で俺はかなり気が楽になった。
「それじゃあ短い間だけどここで君を匿って、俺たちがこの世界を出ていく前に生活基盤をなんとか整えよう。」
「…はい!よろしくお願いします!」
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