32~ありがとう~

「――好き」


 二人の声が重なる。


「私達に、余命があっても」


「僕達に、命の終わりがもうすぐ来るとしても」


「それでも私は、あなたと明日を生きたい」


「それでも僕は、君と明日を生きたい」


 絶対に、諦めない――。


 真織が優しい笑みを浮かべた。私も精一杯笑う。


 二人きりの、世界にいるみたいだった。幸せだ、と思う。

 けれど。


――その時間は、唐突に終わりを告げた。


 これまでと比べ物にならないくらい、息が苦しくなった。


「愛彩!?」


 真織が私の背中をさする。


 必死に息を吸っても、苦しくなるだけだった。


 それでも私は、息を吸おうとする。


 何度でも、何度でも。

 大好きな君と生きていきたいから、諦めない。


「愛彩! しっかりして……!」


 真織の声が薄っすらと聞こえる。

 くらりとめまいがして、耐え切れずに彼の胸に倒れこんでしまう。頭痛がして、私はぎゅっと目を瞑った。


 朦朧とする意識の中で、真織が誰かに電話をする声が聞こえる。


「愛彩、救急車がくるから……!」


 真織の慌てた声。

 ありがとう、と心の中で彼にお礼を言った。


「だからお願い、死なないで……」


 真織が涙をこぼした。


 そして次々に、色々な思い出が走馬灯のように流れ込んでくる。


 自殺しようとした私に「待って‼」と声をかけながら、必死な形相で私の手を掴む真織。

 転校してきたときの、柔らかい笑顔。

 初めて一緒にお弁当を食べたときの、『愛彩と、友達になれたかなあ、って』と心の底から嬉しそうに笑う、真織の笑顔。

 真織が私に病気のことを打ち明けてくれたときの、苦しそうな笑み。

 一緒に食べ物巡りをしているときの、楽しそうな真織。

 『ここは、僕たちが経営するお店』と得意げに笑う真織。

 真織と一緒に作った、初めてのオムライス。

 真織が作った、ピーマンの昆布和え。

 声をかけても振り向いてくれなかった、真織の後ろ姿。



 ああ……真織ばかりだ。

 それだけ、私にとって彼の存在は大きかったんだ、と知った。


 真織、これまでありがとう。こんな私と仲良くしてくれて、ありがとう。真織の笑顔が、大好きだった。

 真織に出会えて、本当によかった。


 涙が溢れる。


「ありが、と……だい、すき」


 掠れた声で言う。

 ぼやけた視界で、真織が私の大好きな笑顔で笑っていた。

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