30~夏祭り~

 夏祭りの会場に着いた。


「うわあ……人多いね」


 花梨が苦笑する。

 私もそうだね、と苦笑いを浮かべた。


「なに食べる?」


 花梨が首を傾げた。


「んー……花梨は?」


「私? やっぱり、定番のラムネとか?」


「あ、いいね」


「じゃ、ラムネ買いに行こ」


「うん」


 二人で人混みの中に入り、ラムネが売っている屋台を探す。


 人混みに押されながら歩くこと五分。あっ、と花梨が声を上げた。


「あそこ、ラムネ売ってるよ!」


「本当だ」


 屋台に近づき、ラムネを二本買う。


「あ、ヨーヨーだ! 私買うけど、愛彩は?」


「買おうかな」


 二人でヨーヨーすくいの屋台に近づく。

 色とりどりのヨーヨーがたくさんあった。


 お金を渡し、こよりを受け取る。


 赤、青、緑、黒、白……。


「釣れたっ!」


 花梨が声を上げる。こよりにはピンク色のヨーヨー。


 私は「やったね」と彼女に笑いかけ、ヨーヨーに視線を戻す。


 慎重にこよりを近づける。ゆっくりと輪ゴムに針を通し、持ち上げた。


「釣れた……」


 私が釣ったのは、半透明のヨーヨーだった。水色や白の柄もついている。


「わあ、綺麗だね」


 花梨がにこにこと笑って言った。私も笑って頷き、こよりを渡してから屋台を離れる。


「次はどこ行く?」


「お腹空いたから、食べ物買う?」


「いいね」


 きょろきょろと屋台を見回すと、フルーツあめと書かれた固いがあった。


「フルーツあめは?」


「あ、美味しそう。食べる?」


「うん」


 そして屋台に近づくと、あめの甘い香りがした。


 りんごあめ、いちごあめ、みかんあめ、ぶどうあめ。どれも美味しそう。


 散々悩んだ挙句、花梨はりんごあめ、私はいちごあめを買った。

 そして、少し空いている場所であめを食べる。


「んー、美味しい!」


 花梨が顔をほころばせる。


「あ、本当だ。美味しい」


 私も花梨と一緒に頬をほころばせる。

 いちごあめは小さい頃に食べたことがあるが、久しぶりだった。


 懐かしい味のするいちごあめを食べ終え、私達は歩き始めた。


「金魚すくいしたい」


 歩いているとき、そんな私の言葉に花梨が振り返った。


「いいね! 行こう」


 金魚すくいの屋台に行き、花梨はすくわないと言うので、私だけお金を払いポイを貰う。


 集中し、金魚を見つめる。


 そして、ゆったりと泳ぐ一匹の和金を救った。


「わ、すごい! 上手だね!」


 花梨が声を上げる。

 私は金魚は一匹だけでいいと思ったのでポイを返し、金魚を袋に入れてもらってから屋台を離れた。



 金魚が泳ぐ袋を見ながら歩くと、嬉しそうに笑う花梨と目が合った。


「愛彩、すごく嬉しそう」


 花梨がくすくすと笑う。

 私は「そうかな」と首を傾げた。


 他にも焼きそば、フリフリポテト、かき氷、チョコバナナなどを買い食べ物を満喫して、屋台巡りをしていたときだった。


「あっ」


 花梨が声を上げた。


「どうしたの?」


「あそこ、真織くん」


「え」


 私は思わず辺りを見回す。


 少し離れたところで一人で屋台を巡る真織の姿を見つけ、私の心臓がどくどくと跳ねた。


 真織に見つからないように、反射的に俯く。


 心なしか寂しそうに見える、彼の姿を思い出す。


 真織は紺色の甚平を着ていた。


「話しかけてきたら?」


 花梨に言われ、私はふるふると首を横に振る。


「……後悔、しない?」


 その言葉で、私ははっとした。


「絶対? 絶対に後悔しない? 後悔って、したときにはもう遅いんだよ。後悔しないようにして」


 花梨の言葉が胸に突き刺さる。


「行ってくる」


 そう言うと、さっきまで真顔だった花梨が、笑みを浮かべた。


「頑張って」


 花梨の応援に背中を押され、私はゆっくりと歩き出した。

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