27~初恋~

 高校を退学し、私はぼーっと毎日を過ごした。

 勉強もせず、ただ、真織のこと、余命のことを考えて。


 七月二十一日。


 昼頃、花梨から【今から夏休み! わーーーい‼】というLINEがきた。【よかったね】と返事をすると、【よかったら、ファミレスにご飯食べに行かない?】と花梨がご飯に誘ってきた。

 特に予定もなかったので、私は二つ返事で承諾した。




「無難な服装だねえ」


 花梨が私を見て、最初に発したのはそんな言葉だった。


「え、そうかな?」


「うん。だって、白いTシャツと、黒のワイドパンツ。それと、スニーカー……。白黒だね」


 自分の服装を少し確認する。確かに白黒だった。

 花梨は制服だ。


「まあ……適当に選んだから」


「女子力どこ行った?」


「いいじゃん。お腹空いたし、暑いからお店入ろう」


「うん」


 二人でお店に入る。


 席に案内され、メニュー表を開いた。それぞれご飯を頼み、二人でドリンクを取りに行く。そして席に戻った。


「愛彩と会うの、久しぶりだね」


 花梨がそう笑った。私はカルピスソーダを飲み、「だね」と頷く。


 料理が運ばれた。私の目の前には、ジュージューと音の鳴る鉄板焼きハンバーグ。花梨の前には湯気がもくもくと上がるドリア。


 そして私達は、雑談に花を咲かせた。


 小さい頃のこと。お互いのこと。小学、中学、高校のこと。


「……花梨は、将来なにになりたい?」


 私はあと数口分のハンバーグを見つめながら、ぽつりと呟いた。


 彼女は一瞬悲しそうな表情になってから、いつもの表情で「うーん?」と首を傾げる。

 きっと、私の将来を考えてしまったのだろうな、と思った。


「気遣わなくていいから。花梨の、本当の将来なりたいものを知りたい」


 私が花梨を真っ直ぐに見つめて言うと、彼女は意を決したようにこくりと頷き口を開いた。


「子供っぽいけど、笑わないでね。私将来、……お花屋さんに、なりたい」


 花梨は微笑みながら言った。

 私は「素敵だと思う」と頷く。


「自分の名前に花が入ってるから、小さい頃から花が好きで、お花屋さんに憧れるようになったの。それからずっと、お花屋さんを目指してる」


「すごいね、花梨は」


 そんなことない、と花梨が首を振る。


「……愛彩は?」


 花梨が寂しそうに笑って訊ねてきた。


「……私が一番と結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築けたらいいと思う」


 ありきたりな夢だけど。私にとっては、見えないほど遠くにある夢だった。


「そっか」


「うん」


 頷いてから、冷めてしまった残りのハンバーグを食べ始める。


「愛彩の言ってる、大切に思ってる人って、誰?」


 私は「えっ?」と目を見開く。


 すると花梨がにやりと笑った。


「えー? もしかしてー……」


「い、言わないで!」


 慌てて声を上げると、花梨が噴き出した。


「まさか、愛彩の初恋が……」


 崩壊したダムみたいに笑い続ける花梨を、私はむっとしながら見る。


 初恋。


 いつだろう。自分の気持ちを自覚したのは。

 彼は――真織は、私の初恋の人だった。


 そして。

 初恋は実らないとは、本当だった。


 いくら手を伸ばしても、届かない私の恋。もうすぐ私の恋は、終わりを告げる。

 私が死ぬ直前見るのは、きっと真織との思い出だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る