26~祈り~

「愛彩、大丈夫……?」


 ベッドで寝ていると、薬と水の入ったコップを持ったお母さんが、部屋に入ってきた。


 私は家に帰り、熱を出してしまった。きっと長時間雨に濡れたせいだろう。


 昼前に体が重く感じた私は、保健室に向かった。

 熱を測ると、38.3。見事に高熱を出してしまった。そしてお母さんが迎えにきてくれて、今に至る。


「うん……大丈夫」


 私が小さく答えると、お母さんは「そう」と頷いた。


「薬と水、ここに置いておくから。飲んでね」


「わかった」


「安静にしてるのよ」


「うん」


 お母さんが部屋から出ていき、私はぼーっと天井を見上げた。


 朝の真織の態度が、脳裏に焼き付いている。

 なんで?という疑問が、頭を埋め尽くした。


 ため息すら出ない。


 私はこれから、どうすればいいのだろう。


 余命のある私。

 真織と会う時間が限られている私。

 もしもこのまま、真織と話すことなく私が——。


 少しぞっとしてしまい、起き上がり薬を飲んでから、また横になる。


 咳が出て、息が苦しくなった。


 こんなことで怯えてしまう、自分が嫌い。


 私は布団に潜り、膝を抱えた。




 目を覚ますと、夜中の二時。

 熱を測ると、37.7と下がっていた。


 自室を出て、リビングへと向かう。


 コップを流しに置き、新しいコップで水を一杯飲んだ。


 そしてまた自室に戻る。


 寝れる気がしなかったので、カーテンを開けて夜空を眺めることにした。


 雨は降ったが、今は天気が良く空にはたくさんの星が輝いている。


 流れ星はさすがに流れていなかったが、私は星空に強く強く祈った。


――どうか真織が、二十歳よりも長く生きられますように。


 私のことなんて、どうでもいいから。

 ただただ、真織のことを祈る。




「お母さん」


 熱が平熱に下がった翌日の朝。

 今日から高校に行く。


 そんな私はお母さんに声をかけた。


「どうしたの? まだどこか具合が悪い?」


 まだ具合が悪ければ、どれだけよかっただろう。


「私、もう高校に行きたくない。……勉強はもう、どうでもいいから」


 私は将来勉強が役立たないから、という口調でそう告げた。

 本当の理由は、違うけど。でも、その本当の理由をお母さんに言うつもりはない。


「そう……そっか。じゃあ、高校辞めましょうか」


「……うん」


 私は小さく頷き、自室に戻った。


 もう高校に行くのは無理だと悟った。

 真織に空気として扱われる教室にいるのは、辛いから。


 どうして彼に無視されるようになったのか。いくら考えてもわからない。だが、彼がもう私を見てくれないことはわかった。


 高校を辞めたら、真織とはもう一生会えないかもしれないけれど。もう諦めたから。


――無理なことは、諦める。

 そうしてきた私の人生だから、私は〝高校を退学する〟という道を選ぶ。

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