25~雨~

 七月五日の朝。


 真織から【おはよう。ごめん。今日は高校行けないと思う】とLINEがきた。

 私は少し怪訝に思いながらも、【おはよう。わかった】と返信をした。




「おはよー! あれ、真織くんは?」


 教室に入ってきた花梨が笑顔で声をかけてくる。


「おはよう。……だから、私達いつも約束してるわけじゃないってば。真織が後からくることもあるし……」


「えー。でもそんなこと言いながら、いつも一緒にいるじゃん」


「そ、そうだけど、……」


 私は黙り込んでしまった。


 ちょうどチャイムが鳴ったので、花梨は「じゃあ、またあとで!」と去って行く。


 ほっと息を吐いた。


「また魁の席見てんのか」


「へっ」


 私は目を見開いて清水くんを見る。

 無意識に真織の席を見てしまっていたらしい。


「……早く告白すればいいのにさあ」


「え、なんか言った?」


 彼の言葉を聞き取れなかったので、私は首を傾げた。


「いや? なーんも?」


「そう……」


 また真織の席に視線を戻す。


 彼との思い出がぼんやりと蘇ってきて、胸がぎゅーっと締め付けられるようだった。




【明日は高校これそう?】


 寝る前、真織にLINEを送った。

 でもなかなか既読がつかなくて、気が付いたら私は眠りについていた。




 七月十日。

 やっと真織が高校にきた。


 教室に入ると、もう真織が席に座っていた。


「真織……おはよう」


 私が微笑みながら声をかける。が、真織は振り向いてくれなかった。


 私は「え」と声を漏らす。


 聞こえなかっただろうか。そう思い、また「おはよう」と声をかける。それでも真織は、振り向いてくれなかった。


 なんで、なんで、なんで……。


 目の前が真っ暗になったようだった。


 視界が滲む。

 私は溢れそうな涙を堪え、教室を飛び出した。




 私はぼーっと空を見上げる。涙のせいで滲んだ空は、厚い雲に覆われていた。


 ぽつぽつと雨が降り出す。


 ここは学校の裏。屋上やミサンガ部にいると、きっと誰かに見つかってしまうだろうからここにいる。


 雨が降っているおかげで、私の涙は隠れた。


 チャイムが鳴る。


 雨が降っているので、校庭には誰もこない。


 授業をさぼってしまったな、と思うが、そんなことはどうでもよかった。


 さっきからずっと、真織の姿が頭を埋め尽くしている。


――真織。真織。私、なにか悪いことをしてしまったの?


 雨が強くなり、頬を濡らした。

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