22~料理~

 店内が空いてきた頃、真織が「愛彩」と声をかけてきた。


「そろそろ休憩にしようか。料理、教えるよ」


「うん」


 思わず心の中でガッツポーズをしてしまうくらい嬉しかった。


 厨房で手を洗う。

 そして店を出た。


「リオマの横にあるこの階段を上った先にあるドアが、玄関だよ」


「へえ……」


 階段を上る真織の後を追い、私も階段を上る。

 彼がドアを開けた。


「お、お邪魔します……」


 真織の家に入る。


 真織の匂いだ、と思った。


「どうぞどうぞ」


 靴を脱ぎ、真織に渡されたスリッパを履く。


 そして連れてこられたのはリビング。


 白いソファーと、木製のローテーブル、テレビ。そしてダイニングテーブルと椅子。

 とてもシンプルなリビングだった。


「あ、荷物はソファーの隣に置いておいて。キッチン、おいで」


「うん」


 バッグをソファーの隣に置き、私はキッチンに向かう。

 手を洗い、真織に向き直った。


「簡単な料理にしようか」


「そうだね」


「うーん……じゃあ、オムライス作ってみる?」


「うん、作ってみたい」


 私が頷くと、真織が「じゃあ、作ろうか」と優しく笑った。


 真織が野菜室から玉ねぎを、冷蔵庫から鶏もも肉を取り出す。


「玉ねぎをみじん切りに、鶏もも肉は2cmくらいに切って」


「わかった」


 私は真織に切り方を教えてもらい、玉ねぎをみじん切りにする。

 鶏もも肉も彼にお手本を見せてもらい、私も鶏もも肉を2cm程の大きさに切った。


「上手だね」


 真織がそう微笑んでくれたので、私は「ううん、下手だよ」と否定する。


「でも、作り続ければ、きっと上手になるよ」


「……そっか」


 私は俯きながら答えた。


 私もいつか、料理が上手になる日がくるのだろうか。


――でも。


 無理か、と心の中で呟く。


「じゃあ、玉ねぎを炒めて」


「わかった」


 真織がサラダ油を入れて熱してくれたフライパンに、切った玉ねぎを入れて炒める。

 そして玉ねぎがしんなりしてきた頃、鶏もも肉を入れた。


「いい匂い……」


 そう呟くと、真織が「だね」と頷いた。


 次に、フライパンに白飯を入れ、具と炒め合わせる。

 ケチャップを入れ、混ぜ合わせたらケチャップご飯の完成だ。


「はい。このお皿に移して」


 差し出された白いお皿に、私はコツを教えてもらいながらケチャップご飯を乗せた。


「上手だね。コツ掴んできた?」


「うん。……楽しい」


「よかった。じゃあ次、卵」


「うん」


 ボウルに卵を割り、牛乳を入れ混ぜる。

 そしてバターが溶かされたフライパンに、卵を流し入れる。

 卵を焼き、ケチャップご飯の上に乗せた。ケチャップを乗せ、オムライスの完成。




「あの、教えてくれて、ありがとう」


 私がそう言うと、「どういたしまして」と真織が優しい笑みを浮かべた。


「じゃあ、食べようか」


「うん。真織も食べよう」


「え、いいの?」


「もちろん」


「じゃあ、少し貰おうかな」


「うん」


 オムライスの乗ったお皿、小皿、スプーンを二つ、麦茶を二つ持ってきて、二人でダイニングテーブルに座る。


 真織にオムライスを分け、「いただきます」と手を合わせた。


 オムライスを口に入れた瞬間、とろとろとした卵の甘さと、ケチャップご飯の美味しさが口の中に広がる。


「美味しい」


「うん。すごく美味しい。愛彩、料理向いてるよ」


「……うん」


 私は小さく頷いた。


 楽しい。嬉しい。照れくさい。幸せ。

 そんな感情が、私の中を埋め尽くした。




「今日はありがとうございました」


 帰り際、お客さんが帰った後の机を拭いていたおばさんに頭を下げた。


「いいえ。こちらこそ、お手伝い助かったわ。ありがとう」


「いえ、楽しかったです。……また、来てもいいですか?」


「もちろん。楽しみにしてるわね」


「はい」


 私はもう一度ぺこりと頭を下げ、店を出た。


「じゃあ、また月曜日」


 外にいる真織に声をかける。


「うん。また」


「ありがとね」


「こちらこそありがとう。家で料理作ったら、ぜひ写真送ってね」


「うん。またね」


 真織に手を振り、私は帰路についた。

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