21~手伝い~
七月一日の昼。土曜日。
暇だなあ、と自室でごろごろしていると、突然電話がかかってきた。
一瞬肩を震わせ、うつ伏せになったスマホを手に取る。
花梨かな、と思ったのだが、予想外のことに真織だった。
深呼吸をして、応答ボタンを押した。
「……もしもし」
『もしもし。こんにちは』
真織の柔らかい声を聞いた途端、胸がどくんと高鳴る。
『今日、用事ある?』
「ないけど……」
『よかった。それならさ、今から食堂、来れる?』
「へっ」
もしかして、と勘づく。
『料理、教えてあげる』
やっぱり、と思った。
「っ、うん! 準備して、今から行くね」
『わかった。待ってるね』
うん、と返事をして通話を切る。
私が上機嫌になったのが真織にばれていなかったか心配になりながら、私は身支度を始めた。
「こんにちは……」
食堂リオマのドアを開けると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
昼なので店は満席だった。
「あ、愛彩」
お盆を持った真織が笑顔で駆け寄ってくる。
「こんにちは。ごめんね、今混んでるから……。あ、母さんが厨房にいるから、ちょっと声かけてみて」
「わかった」
私はこくりと頷き、厨房に向かう。
厨房には、フライパンでなにかを炒めているおばさんの姿があった。
「こんにちは」
声をかけるとおばさんはぱっと振り向き、そして笑顔を浮かべた。その笑顔は真織と似ていて、どきりと心臓が音を立てる。
「あら、愛彩ちゃん。こんにちは」
「えっと、真織に『母さんに声かけてみて』と言われたので……」
「ああ、今混んでるものね。そこの椅子に座って待っててくれる?」
おばさんがそばにある丸椅子をちらりと見た。
「あ、あの」
「ん?」
私は一つ深呼吸をしてから、勇気を振り絞って口を開いた。
「迷惑じゃなかったら……お、お店の手伝い、してもいいですか」
恐る恐る口にした言葉は、自分でも驚くほど小さかったけど、おばさんは聞き取ってくれた。
「じゃあ、料理を運んでくれる?」
おばさんが花が咲くような笑顔で言った。
私はこくこくと頷く。
「そこで手を洗って」
「はい」
手を洗う。
「じゃあ、そこの唐揚げ定食を七番のテーブルに運んでくれる?」
「わかりました」
お盆を持ち、厨房を出る。
そして七番のテーブルに向かう。
「お、お待たせいたしました。唐揚げ定食です」
ことりと机に定食を置くと、若い男性のお客さんは「ありがとうございます」と笑った。
なんだかそれがとても嬉しくて。心が温かくなった。
私はぺこりとお辞儀を一つし、厨房に戻る。
「ありがとう。じゃあ、こっちの料理を十一番のテーブルにお願い」
「はい」
料理を受け取り、私は十一番のテーブルへ向かったのだった。
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