20~もやもや~

 六月二十六日の夕方。

 ピンポーン、と玄関チャイムが鳴った。


 家には私以外いなかったのでモニターを確認すると、きょろきょろと辺りを見回す花梨が映っていた。


 通話ボタンを押すと、ピッ、と電子音が短く鳴る。


「はい」


『あっ、愛彩ー? 私。花梨だよ』


「うん。今行く」


 また通話ボタンを押し、玄関にある全身鏡で自分の服装をチェックする。

 英語が書かれている白いTシャツと黒色のショートパンツ。まあ大丈夫だろう。


 サンダルを履き、玄関のドアを開ける。


 そこには制服姿の花梨――そして、同じく制服姿の真織。


「えっ、真織?」


 思わず声を上げると、真織が優しく微笑む。


「星宮さんが愛彩の家に行く、って言ってたから、一緒に行ってもいい?って」


「私全然オッケーなんだけど、愛彩はどう?」


「わ、私は……別に、いいけど……」


 私が小さく頷くと、花梨が「やった。お邪魔しまーす」と家に入る。真織も続けて入り、私も家に入った。


 二人をソファーに座らせ、麦茶を三つソファーの前に置かれたローテーブルに置く。


「花梨はなんできたの?」


 そう訊ねてみると、麦茶を飲む花梨が「あー……」と小さく首を傾げ、笑みを浮かべる。


「真織くんから、愛彩が入院したって聞いて……。でも私、家族で用事があってでかけてたから、入院してる愛彩に会えなくて。それで心配になっちゃって、家を訪ねたんだ。迷惑だったら、ごめんね」


 花梨が申し訳なさそうに眉を下げた。

 私はううん、と首を横に振る。


「全然迷惑じゃないよ。むしろ花梨に会えて嬉しい」


「それならよかった」


 花梨が空になったコップをコースターの上に置く。


「あれ。そういえば真織くんって、愛彩の病気と余命のこと知ってるの?」


「うん。知ってるよ」


「えーっ、知ってたんだ」


「三週間くらい前に、色々とあって教えてもらったんだ」


「へえ」


 仲睦まじく話す二人を、私は少し複雑な気分で見ていた。

 自分でも、なぜこんなにもやもやとした気持ちなのか、わからない。


 私は二人から目を逸らし、膝の上に置かれた自分の手を睨む。


「真織くんって、好きな番組とかある?」


「うーん……。テレビはあんまり見ないかなあ」


「そっかー。私はね、最近木曜日に放送してるドラマが……」


 花梨は可愛いから、真織とお似合いかもしれない。

 そんなことを思った。

 二人が手を繋ぎ歩く姿が脳裏に浮かぶ。


 私はそんな二人の姿を消したくて、ぎゅっと目を瞑った。


 なんで、こんなにもやもやするんだろう。




 二人が帰り、入れ替わるようにお母さんが帰ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


 短く言葉を交わし、お母さんがキッチンに向かう後ろ姿を見送ってから、私は自室に向かった。

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