18~お見舞い~

 そして私は、少しの間入院することになった。


 今日は六月二十四日。


――今日は、食堂リオマに行くはずだったのに……。


 私はずっとため息をついていた。


 お医者さんから睡眠薬を処方されたので飲んだが、昨日も寝られなかった。

 そしてご飯も食べられなかった。


 自分に呆れて、ため息だけが出た。


 そして、嬉しそうな顔をした碧ちゃんにミサンガを教える。碧ちゃんと話していると、とても楽しい。


 そんな中、一通のLINEがきた。


 碧ちゃんに「ちょっとごめんね」と言って、スマホを確認する。


【愛彩、入院したんだってね。大丈夫? お見舞いに行ってもいい?】


 真織からだった。


 胸が高鳴る。


【大丈夫。お見舞い、きてくれたら嬉しい】


 すぐに既読がつき、返信がきた。


【ありがとう。今から行くね】


【うん】


 スマホを裏返しで置き、私はまた碧ちゃんに向き直った。




 こんこん、と病室のドアがノックされたのは、あのLINEがきて三十分が経った頃だった。

 そしてドアが開く。


「こんにちは」


「こんにちはー」


 二人の声が響いた。……二人?


 ドアのほうを見ると、真織と清水くんの姿。


「えっ、清水くん……? なんで、」


「あー。魁と一緒にいて。『愛彩のところ行くけど、清水もくる?』って訊かれたから、『行く!』って」


「へー……」


 いつも通り太陽みたいに笑う清水くんを見て、私は小さく頷く。


「……愛彩、大丈夫?」


 真織が心配そうに首を傾げた。


「うん……心配、かけた?」


 ぽつりと訊ねると、真織がもちろん、と答える。


「ごめん……」


「謝らないで」


「うん……お見舞い、きてくれてありがと」


「ううん。ちょうど暇だったし」


 私は彼の言葉に小さく笑った。


「あ、愛彩。リオマにこれなかったけど、気にしないで」


「……うん」


「退院したら、絶対にきてね」


 私は胸が締め付けられるのを感じながら、うん、と頷いた。


「俺、きた意味ある?」


 清水くんが呟く。


「清水くんが行きたいって言ったんでしょ」


 私がそう言うと、「そうだけどさあー」と清水くんがパイプ椅子に腰を下ろした。


「そーだ。俺、妹のお見舞いにきたんだった」


「え、そうなの?」


 立ち上がった彼に声をかける。


 まさか妹がいるとは、と思った。


「そーそー」


 清水くんが頷く。


「ここに」


「へ?」


 私はわけがわからず首を傾げた。そして、清水くんが「碧」と、名前を呼んだ。


「なに?」


 隣のベッドで寝ている碧ちゃんが、仕切りのカーテンから顔を出した。


「え、碧ちゃんと清水くんって、兄弟だったの……?」


「うん。愛彩ちゃんは、お兄ちゃんと友達なの?」


「うーん……隣の席ってだけ」


「おい! 友達だろ」


「そうなの?」


 碧ちゃんが笑う。


 私は「まだまだだよ」と清水くんに言った。そして清水くんが「友達だと思ってたのは俺だけだったのか……!」と悔しがり、「どんまい」と真織が清水くんの肩を叩き、碧ちゃんがまた笑った。

 私もつられて笑いながら、三人を見ていて。

 平和だな、と思った。この時間が、永遠に続けばいいのに――。

 そんな、叶わぬことを思ってしまう自分がいた。

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