16~お昼~

 席替え後。

 授業が始まった。


 だが私は、全く集中できていない。


 それは清水くんが、ずーっとこちらを見ているからだ。


 ころころと表情を変えながら。


 うふふとした笑い。はっとした顔。悩み顔。しかめっ面。


 これまでたくさんの彼の表情を見た。


 心の中で、彼に百面相というあだ名をつけたほどだ。


 授業が終わり、友達に「外行こう」と誘われた清水くんだったが、「今日はいいや」と友達からの誘いをばっさりと断っていた。

 そしてまた私をじっと見つめる。


 正直言って、気まずい。


 なにか話したほうがいいだろうか? それとも私はいつも通りに過ごせばいいだろうか?


 数秒悩んだ挙句、私は彼に声をかけることに決めた。


「ねえ」


「ん?」


「な……なんで、ずっとこっち見てるの?」


 清水くんはきょとんとした顔をする。


「友達になんない?」


 答えにならない、言葉が返ってきて、私は「友達?」と目を見開く。



 目の前では、清水くんがにひひと笑っていて。

 友達。太陽みたいな、彼と、友達。

 いいかもしれない。

 ああ、でも……。


 そして私は——首を、横に振った。


 瞬間、彼の目が丸くなる。


「えっ、なんで?」


 清水くんは、綺麗な澄んだ目を丸くした。


 そうだ、決意が緩んでいたが、私は友達を作りたくない。真織は仕方ないとして、もう新しい友達は作りたくなかった。


「ごめん」


「うーん……じゃあ、霞瑞と友達になれるように頑張るから!」


「え」


 私は濁音が付きそうな「え」を口から発した。


「じゃあ、よろしく! 俺と友達になれる日を待っててなー!」


 どこまでポジティブなの、彼は。


 そう思いながら、私は重いため息をついた。




「愛彩」


「霞瑞ー」


 二人の声は、綺麗に重なっていた。


「一緒にお昼食べよう」


 この声も重なっていて、私は「三人で食べよ」と苦笑した。


 教室を出て、屋上に向かう。


「食べてみたかったんだ。屋上でお昼」


「へー」


「そっか。なら食べれてよかったね」


 真織の優しい言葉に、私はうん、と頷く。


「早く食べようぜ」


 清水くんがお腹を鳴らす。


「そうだね。いただきます」


「いただきます」


「いただきます」


 私と真織はお弁当の蓋を開け、清水くんが購買で買った総菜パンの袋を開けた。


 お弁当が、いつもより美味しい。きっとそれは、二人と食べているから。

 私は頬が緩みそうになり、慌ててお弁当を頬張る。


「へー。二人はお弁当なんだ」


「そうだよ。清水くんは総菜パン?」


「おう。母さんがお弁当作んないから」


「そっか」


 またもぐもぐとお弁当を食べる。


「……で、さ」


 清水くんがまた口を開いた。


「だれ、こいつ」


 彼が見ていたのは、真織だった。

 そういえば忘れていたが、二人は初対面だ。


「初めまして。僕は魁真織です。最近転校してきたから、僕の名前は知ってると思ったんだけど……」


「あー……その日、俺ちょっと用事があって高校来てなかったんだよな」


「それなら……知らなくてもおかしくないか」


「そうだな。俺は清水純磨。よろしくなー」


「よろしく」


 なんだか二人の挨拶が面白くて、私は小さく噴き出した。


 二人がきょとんとこちらを見る。


「なんか、面白くて……」


 私はくすくすと笑う。

 なんだか三人でお昼が食べれることが、とても特別なことに思えた。

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