13~食べ物巡り~

「ここだよ」


 真織が連れてきてくれた場所は、中央駅の周辺にある、外装がたい焼き屋みたいな、でも外装の色はパステルカラーで可愛らしい、クレープ屋だった。クレープの匂いが鼻をくすぐった。


「美味しそう」


 私は思わず呟く。

 真織がそうだね、と頷いた。


「それに、行列だね……」


「うん。人気のお店らしいから」


 私達は苦笑いしながら列に並ぶ。


「もしかしたら今日、雨降るかもね」


 真織が空を見上げて言った。


「そうなの? 折り畳み傘一応持ってきたんだけど……」


「よかった。僕も持ってきたよ」


「真織、雨好き?」


「んー、家にいるときは雨好きだけど、こういう大事なお出かけのときは降らないでほしいかな」


「私も。お出かけのときに雨が降ると大変だもんね」


「そうだね」


 二人でくすくすと笑いあった。


 なんか私と真織って仲良くなったな、と思う。


 最初、真織に会ったときには、私は彼を避けていた。

 それで、彼の秘密を知った日から仲良くなったんだっけ。

 私が悔いなく死ねるように。そして、真織が悔いなく死ねるように。


「愛彩はなんのクレープがいい?」


「えーっと……」


 真織が『ご自由にどうぞ』と書かれているメニューを持ってきて私に見せた。


 色々なクレープがあるが、私は一択だった。


「イチゴバナナチョコがいい」


「わかった」


 私の答えに、真織は頷く。


「うーん、僕は何にしようかな……」


 彼が首を傾げた。


「じゃあ、僕はフルーツクレープにしようかな」


 真織が選んだのは、フルーツがたくさんのっているクレープだった。


 そして列が進み、それぞれのクレープを注文してクレープを作っている店員さんの手元を見ているとあっという間にクレープが作り終わり、クレープ受け取り近くのベンチに座った。


 いただきます、と言い、二人でクレープを食べ始める。


 クレープを頬張った瞬間、生クリームとイチゴ、バナナの味が口に広がった。


「美味しい……」


「うん、美味しいね」


 ゆっくりと食べ終え、ベンチを立った。


「美味しかった。また行こう」


「そうだね」


 そしてまた、別のお店へ向かい始めた。




 色々な食べ物を食べた。


 ソフトクリーム、和菓子、ドーナツ、チョコレート……。


「じゃあ、最後に僕のお気に入りの場所に行こうか」


 マカロンを食べ終えた真織が言った。


「えっ、いいの?」


 私が目を見開いて言うと、彼が「もちろん」とくすくす笑う。


「すぐ近くだから」


「うん」


 私は微笑みながら頷いた。



 五分ほど歩き、真織が「ここ」と足を止めた。


「わあ……っ」


 そこは、こじんまりとした食堂だった。ドアの横に【食堂リオマ】と書かれた看板が置いてある。


 二人でお店のドアを開ける。


「いらっしゃいませー……あ、真織」


 お店の奥から女性の声がした。

 真織のことを呼び捨てで呼んでいることから、きっと彼は常連客なんだろうな、と思った。


「母さん」


「母さん!?」


 奥から出てきた女性を真織が「母さん」と呼んだので、私は驚いて声を上げる。


「うん」


 私は混乱しながら真織と女性を交互に見る。

 真織と女性は、とても顔が似ていた。


「僕の母さん。ここは、僕たちが営業するお店」」


 ええ!?とまた声を上げる。

 予想外だった。


「あら、こんにちは」


 真織のお母さんがふふふと笑う。


「初めまして……。真織の……友達の、霞瑞愛彩です」


 会釈をする。


「初めまして。私のことはおばさんでいいわよ」


 私は戸惑いながらもわかりました、と頷く。


 そういえば、この食堂の名前は食堂リオマだった。リオマは、反対から読めばマオリ。真織の名前だ。


「愛彩にごちそうするよ。空いてるカウンター席に座って」


 真織がそう言ったのだが、ごちそうされるのは申し訳なくて、「で、でも……」と首を横に振る。


「大丈夫。愛彩にはお世話になってるんだし」


 全然お世話になんてなってないけど、と思いながら、私は渋々と頷いた。

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