12~休日の予定~

「愛彩」


 六月十六日の放課後。ミサンガ部。真織がいつも通り声をかけてきた。

 真織が倒れてしまった日から、もう四日が経っていた。


 そしてお互い秘密を知った日から、少し仲が良くなった気がする。


「一緒に帰ろう」


「いいよ」


 私は頷き、席を立つ。


 斎藤さんと部長に「さようなら」と頭を下げ、ミサンガ部を出た。


 二人で並んで廊下を歩き、下駄箱でローファーに履き替え校門をくぐる。


「明日、土曜日だからどこか行こうか」


 真織が首を傾げる。

 さらりと彼の太陽に照らされた。思わず見とれたあと、我に返って「うん、どこ行く?」と微笑む。

 彼は「うーん」と首を傾げた。


 真織は私が余命三ヶ月だと知った次の日、悔いなく過ごせるためのサポートをしたいと言い出した。

 私は「真織がしたいならいいけど」と答えると、真織は「じゃあ、サポートさせてもらうね」と嬉しそうに笑ったのだ。

 それから真織は、事あるごとに話しかけてくる。


「あ、じゃあ、僕の趣味なんだけど……美味しい食べ物巡り、しない?」


 真織の言葉に、私は即答した。


「うん。行きたい」


 そう言うと、彼は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、明日の十一時くらいに愛彩の家に行くね」


 私はうん、と頷いた。


 今からとても楽しみで、頬が緩んでいるのを隠すために私は横を向いた。




「お姉ちゃん」


 家に帰り、部屋のベッドでゲームをしているお姉ちゃんに声をかけた。


「え、なになに」


 お姉ちゃんが首を傾げ、ベッドから降りてこちらに歩み寄る。


「ちょっと明日、友達と出かけるんだけど……。お姉ちゃん、ファッションセンスいいでしょ? 服、選んでほしいの」


 そう訊ねると、お姉ちゃんは「いいよー」と軽く笑った。


 私はあらかじめクローゼットから出した服をお姉ちゃんに渡す。


「うんうん。ちょっと待ってねー」


 私はベッドに座って待機する。


 五分ほどして、お姉ちゃんが「このコーデは?」と服を見せてきた。

 青色のオフショルダーに、白のロングスカート……ん?


「お姉ちゃん……私、オフショルダーなんて持ってないけど……?」


 首を傾げると、お姉ちゃんが「あー」と頷く。


「それ、愛彩にプレゼントしようと思って今日持ってきたやつ」


「えっ」


 私はシンプルな服しか着たことがなかった。


「で、でも……」


「じゃ、このコーデで決まり! 明日、楽しんでねー!」


 私の言葉を遮り、お姉ちゃんは部屋を出てしまった。

 私はしょうがないか、とため息をつき、肩掛けバッグに荷物を入れ始めた。




「いってきます」


 午前十時四十五分頃。家のインターホンが鳴った。真織の姿が映っている。


「え、なになに?」


 アイスを食べているお姉ちゃんが興味津々という顔でこちらに来る。


「友達? 男の子? え、もしかして」


 お姉ちゃんがくすくすと笑ったので、私は「うるさい」とお姉ちゃんを睨む。


「じゃ、いってらっしゃい!」


 お姉ちゃんが手を振った。


 私はまだお姉ちゃんを睨みながら、お父さんとお母さんに「いってきます」と声をかけ、家を出た。


「真織、おはよ」


 私が微笑みながら家の前に立っている真織に声をかけると、真織も笑顔で「おはよう」と言った。


「服、可愛いね」


 そう言われて胸が高鳴った。


「……お姉ちゃんが、選んでくれたの」


「お姉さんがいるんだね」


「うん……」


 私が頷くと、真織が「いいなあ」と言った。


「行こうか」


 真織の言葉に私が顔を輝かせると、彼はくすくすと笑う。


「じゃあ、まずは近くの場所からね」


「うん」


 そして私は、歩き始めた真織の横を歩いたのだった。

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