11~相談~
目を覚ますと、少し汚れた白い天井が目に入った。
がばっと起き上がる。
ここは薄暗く、私は制服のままベッドに寝かされていた。
少しして保健室だ、と気づく。あのまま寝てしまったのだろう。壁掛け時計を見ると、もう下校時間だった。
そんなに寝てたのか、と驚く。
カーテンの外に出るが、誰もいないようだった。
私は保健室を出て職員室に向かう。
先生を呼び出してもらった。
「あ、霞瑞さん、起きたの?」
「はい。すみません、寝てしまって……」
「いいよ、大丈夫」
私は苦笑いを浮かべ、「もう帰りますね、今日はありがとうございました」と会釈をして、教室に向かった。
教室にはまだ少し生徒がいて、友達と話している人、勉強をしている人がいる。
早く帰らないと、と思い、荷物をスクールバッグにまとめて教室を出た。
今日は部活が休み。そして今日、お母さんに「早く帰ってきて」と言われた。
早歩きで道を歩き、電車に乗ってまた早歩きで家に向かう。
鍵穴に鍵をさし、ドアを開けた。
「ただいま」
靴箱を開ける。
間に合った、と肩を撫でおろした。
「愛彩。おかえり」
「うん、ただいま」
お弁当箱を流しに置き、着替えるために自室に向かう。
適当な服に着替え、椅子に座って机に課題を広げた。
課題を済ませ、伸びをしていると、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
帰ってきた。
急いで階段を下りる。
「おかえり、お姉ちゃん」
今日は、一人暮らしをしているお姉ちゃんが帰ってくる日だった。
お姉ちゃんはスーツケースを持っていた。昨日の夜、【明日から一週間、実家に帰るよー】と一通のLINEがきていた。
「ただいま、電車混んでて座れなかったよー」
はあ、とため息をつき、お姉ちゃんが玄関に座り込む。
私は苦笑しながらお疲れさま、と言いスーツケースをリビングへ運んだ。
「お母さん。ただいま」
「おかえり」
お姉ちゃんは手を洗ってからソファーに沈んだ。
お姉ちゃんの名前は
悩みは彼氏がいないことらしい。お姉ちゃんは可愛いからモテそうなのに。お姉ちゃん曰く、モテ期はもう過ぎたらしい。
「愛海、一人暮らしはどう? ちゃんとご飯食べてる?」
お母さんが心配そうに首を傾げた。
「うーん……あはは」
誤魔化すのが相変わらず下手なお姉ちゃんだ、と思う。
お姉ちゃんは昔から誤魔化したり嘘をつくのが下手で、何かしてしまったときにばれて叱られるのはしょっちゅうのことだったのだ。
お母さんがむっとした顔をしている。
「あはは……。お母さん、料理は私が作るよ! お母さんは休んでて」
お姉ちゃんが笑顔を浮かべてお母さんをソファーに座らせ、お姉ちゃんが料理を作り始めた。
「まったく、怒りたいのに怒れないじゃない」
お母さんがふう、とため息をつく。私はそうだね、と頷いた。
「愛彩」
寝ようと自室のドアを開けていると、部屋にいたお姉ちゃんが声をかけてきた。
私はどうしたの?と首を傾げる。
「答えたくなかったら答えなくていいんだけど。……病気、大丈夫?」
どくん、と心臓が脈を打った。息が苦しくなる。
私は平然を装って「大丈夫」と笑う。
「まだ大丈夫だよ。心配しないで」
私がそうにっこりと笑うと、お姉ちゃんは「そっか」と言う。
「なにかあったら、ちゃんとお父さん、お母さん、それか私に相談して」
「わかった。……おやすみ」
「おやすみ」
ぱたん、とドアを閉め、ベッドに倒れこんだ。
「相談なんて……心配かけれるわけないじゃん」
自嘲的な笑みと共に零れ落ちた私の独り言は、夜の静寂に吸い込まれていくように、ゆっくりと溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます