9~体調不良~
「今日は魁、休みな」
六月五日。
担任が言った。
確かに今日は真織が来ていなかった。
なんでだろう、と首を傾げる。
……まあ、いいや。
そうして私は窓の外に視線を向けた。
『どうしたの?』
未送信のLINE。
送信ボタンを押すか、文字を消すか。
たった五文字のLINEなのに、送信のためにはひどく勇気がいる。
送信か、消すか……。
休み時間ずーっと悩んだ挙句、消してしまった。
私には勇気がない。
そう思った。
六月十二日。月曜日。
真織は一週間も高校を休んでいる。
今日も彼は来ないだろう。
彼が休んだ翌日――六月六日、今日は来ないかな、とどきどきしながら待った。
七日、今日も来ないなあ、ときょろきょろと辺りを見回していた。
八日、風邪ならそろそろ来るかなあ、とじっと待っていた。
九日、明日は休日だから二日間会えない、と思っていた。
十日と十一日は休日だったので、適当に時間を潰した。
そして遂に今日が来た。でも今日、真織が来るかはわからない。
花梨と駅に向かい、改札口を通ってちょうど来た電車に乗る。
吊り革を持ち、花梨と喋りながらぼーっと外の景色を見ていた。
駅に着き改札口を通りまた歩く。そして高校に着き、下駄箱で上履きに履き替えた。
その途中に花梨が友達に捕まってしまい彼女とはそこで別れた。
一人すたすたと歩き教室に入る。
そこですぐ、茶色がかった髪の毛を視線がとらえた。
「真織……」
小さく呟くが、男子と話している真織は私に気が付かない。
私が自分の席に着くと、真織がこちらを振り返った。
「あ、おはよう。愛彩」
にっこりといつもの笑みを浮かべた彼。
――でも、その笑みがいつもと違う気がする。違和感があった。
「うん、おはよ……」
「おっ、真織ー」
一人の男子が、教室に入った途端真織に駆け寄る。
「おは。真織、どうして休んでたんだ? 心配してたんだぞー」
彼は小さく首を傾げる。私も訊きたかったことだった。
「ちょっと微熱出して、休んでた。心配かけてごめん」
「なーんだ、微熱か」
よかったよかった、と彼は太陽みたいに明るい笑顔を真織に向けていた。
よかった、と私も思う。
微熱でよかった。高校に来れてよかった。――真織に友達がいてよかった。
自然と頬が緩んだ。私は慌てて口元を隠す。
なににやけてるんだろう、と思われてしまうから。
ふぅ、と息をはく。
窓の外を見ると、良く晴れている空が広がっていた。
「愛彩」
真織が私を呼ぶ。
その柔らかい声にどきりと胸が高鳴った。
振り向くと、真織の笑顔。
……でもやっぱり、どこか体調が悪そうな顔をしている。
「真織」
「ん?」
「……なんか、顔色悪いよ」
勇気を振り絞って言うと、真織が驚いたような顔をする。
「……微熱出したからかな?」
彼が首を傾げる。
いつもの真織だけど、いつもの真織じゃない。
そんな思いが頭で渦を巻いた。
結局私はそれ以上彼に心配の言葉をかけることはできずに、「そうかもね」と作り笑いを浮かべた。
――そして、やっぱり真織の顔色が悪かったのが微熱のせいじゃないとわかったのは、休み時間だった。
私は真織が心配で、彼の後をついて回った。もちろんばれないようにだ。
そして彼は、一通りの少ない西階段の踊り場で足を止めた。
すると、踊り場に座り込み、膝の間に顔を埋める。
「真織?」
私は偶然来たように装って、真織に話しかけた。
彼がゆるゆると顔を上げ、ぼんやりと私を見る。
「え……っ、大丈夫?」
あまりにも真織の顔色が悪かったため、私は驚いて彼に近づいた。
「う……ん」
全然大丈夫ではなかった。
「保健室、行こう。歩ける?」
彼が首を横に振る。
だよね、と思う。こんな状態で、歩けるわけがない。
でも、どうしよう。
焦りで頭がいっぱいになる。
「養護の先生呼んでくるから、待ってて!」
そうして私は保健室へ走り出した。
「失礼します!」
ノックをしてドアを開ける。だが、先生が見当たらない。
「どうしよう……」
冷や汗が額に滲む。汗が頬をつたう。
心なしか息が苦しい。
慌てて真織の元へ戻る。
そこで私は驚きの現場を目の当たりにし、絶句した。
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