7~友達~
六月二日。
明日は土曜日。真織と会うことがないと思うと、少し清々する。
――けど。
なんだか少し寂しい気がした。
ていうか休日なんてあっという間……いや別に、真織に会いたいわけじゃない。
こんな考え気のせいだ、と私は頭をぶんぶんと振る。
「おはよう」
振り向くと、真織がいた。微笑みながら隣に座る。
「どうしたの、頭振って」
彼は笑って首を傾げた。
「いや、別に……」
私はふいっとそっぽを向く。
彼はおかしそうにくすくすと笑った。
その笑顔にどきりとしてしまったのは、気のせいであってほしい。
「愛彩」
いつも通りお弁当の入った包みを持って教室を出ようと席を立つと、同じくお弁当の入った包みを持つ真織が声をかけてきた。
「一緒にお弁当、食べない?」
彼が首を傾げる。
私はいいけど、と言い、彼の前を歩く。
私がいつもお弁当を食べている場所は、ミサンガ部だ。
ミサンガ部は落ち着くし、誰も来ないから。
「……ここ」
私はミサンガ部の中に入り、いつもの席に座る。
真織は私の隣に座った。
「いただきます」
彼が礼儀正しく手を合わせて小さく頭を下げた。
私はいつも一人なのをいいことに、いただきますは言っていない。
でも、今日は、今日だけは、真織がいるから。
「いただきます」
そっと呟いて、お弁当の包みを開けた。
「その包み」
真織が私の包みを見て言った。
「
「えっ」
唐突の色の発言に驚いていると、彼が「お弁当箱の包み」と私の手元にある包みを指さした。
「そうなの?」
私が首を傾げると、彼は「たぶん」と曖昧に微笑む。
包みを見る。
柔らかいピンク――桃色、と言った方がいいのかもしれない。柔らかい色だ。
今まで、無地で地味だな、と思っていたけれど、よく見るととてもきれいな色だと思った。
「素敵な色だよね」
彼の言葉に、私はうん、と頷いた。
お弁当を食べ始める。
真織も私もなにも話さず、沈黙が訪れた。気まずい、と少し思う。
そんなことを思っていると、急に真織がふふっと笑った。
え?と真織を見ると、彼は頬を緩ませていた。
「どうしたの?」
思わず訊ねると、彼は口を開いた。
「これで愛彩と」
彼がにっこりと笑う。
「――愛彩と、友達になれたかなあ、って」
えっ、と目を見開く。
「最初、愛彩に『友達になろう』って言ったら、断られて。でも、今こうして一緒にお弁当を食べてるなら、もう友達かな、って」
心の底から嬉しそうに笑う彼を見て、私は「ふうん」と返事をして前を向いた。
友達。
彼がそう言うなら、私達は友達なのだろうか。
嬉しい反面、後悔も押し寄せてくる。
彼が話しかけてきたとき、無視すればよかった。
彼が話しかけてきたとき、彼を傷つけ、冷たい言葉をかけておけばよかった。
――でも。
やっぱり、嬉しい。
胸が嬉しさでいっぱいだ。
私は口角が上がりそうになるのを堪え、まだ手をつけていないお弁当を食べ始めた。
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