6~通学~

「愛彩?」


 聞きなれた声がして勢いよく振り向く。

 朝日で照らされた茶色がかった髪の毛の男の子――真織がこちらを見て首を傾げていた。


「えっ」


「おはよう」


 真織はたぶん、挨拶を大事にする人だ。いつも誰かと会うと挨拶をする。


 朝は「おはよう」。部活で「こんにちは」。帰り際に「さようなら」。


「おはよ……」


 私はにっこりと笑う彼とは正反対に、笑みもなにも浮かべずに小さく呟く。


 今日は六月一日の朝の通学路。

 彼とは話したくなかったのに、結局彼が転校してきた五月二十九日から、毎日話してしまっている。私はひそかにため息をついた。


「一緒に行こう?」


 真織がふわりと微笑み、首を傾げた。


「……いやだ」


 私はそう言って歩き始める。

 後ろから足音がして、ついてきてる、と思った。


「ちょっと、ついてこないで」


 彼に低く言い放つ。

 


「本当に、いや?」


 そんな彼の言葉にどきっとする。


「……」


 一瞬の沈黙を後に、私は何事もなかったふりをして歩き出した。

 彼はやっぱりついてきて、私の隣を歩く。


 本当に鬱陶しい、と思った。


 あ、花梨。

 少し前に、花梨が歩いている。

 すると、不意に花梨が振り向いた。


「あっ、愛彩ー!」


 彼女は私に大きく手を振り、ダッシュでこちらに駆け寄ってくる。


「あれっ、君は……」


 花梨が真織を見て大きく目を見開いた。


「僕は魁真織です。よろしく」


 真織がにっこりと笑みを浮かべる。


「あっ、転校生の君か! よろしくね」


 二人が握手をした。

 私はそんな二人をぼんやりと見つめる。


「じゃあ、君と愛彩と私で一緒に行こ!」


 そうして、私は強制的に真織と花梨で学校に行くことになった。




「へー、真織くんはミサンガ部に入ってるんだ」


 花梨がにこにこと笑う。

 うん、と真織も笑った。


「星宮さんは?」


「私は帰宅部……特に入りたい部がなくてー」


「星宮さんもミサンガ部に入ればよかったんじゃない?」


「ううん、失礼かもだけど、ミサンガにはあんまり興味はなかったから」


 仲睦ましく話しながら歩く二人の後ろを、私は少し遅れて歩く。

 二人は元から仲が良かったかのように話している。距離も近い。


 私は時々、唐突に話を振られ、適当に相槌を打つ。それの繰り返し。


 なんのために私がいるのかわからない。

 そう思いながら道を進む。


「愛彩もそう思うよね?」


 突然、花梨が話を振ってきた。

 私は「ごめん、聞いてなかった」と謝る。


「もう、ちゃんと聞いてよねー」


 泣いちゃうよ、と彼女が冗談交じりに笑った。

 私も笑いながら、ごめん、とまた謝る。


「仲良いね」


 真織がくすくすと笑いながら優しく言った。


「もちろん! なんたって、幼稚園の頃から愛彩の幼馴染、ずーっと続けてますから!」


「そっか、幼馴染かあ……」


 真織が優しく微笑む。


「あっ、駅着いた」


 そうして私達は話を終え、駅に入ったのだった。

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