5~入部~

「愛彩ちゃん、紬ちゃん!」


 放課後、いつも通り絵を描いている斎藤さんと話しながらミサンガを編んでいると、宮本さんが部室に飛び込んできた。


「え?」


「あのね、実は、一年生の男の子がこのミサンガ部に入部届を出したの!」


 興奮気味に話す彼女を唖然として見つめる。


「え、本当ですか?」


 斎藤さんが嬉しそうに目を輝かす。


「本当! 明日から、いい?」


「もちろんです!」


 私は遅れてはい、と答えた。

 なんだか嫌な予感がした。




 そして翌日——五月三十一日。私の予想は当たった。


「初めまして」


 その声には、とても聞き覚えがあった。今日も隣で聞いた声。


「魁真織です」


 はあ、とため息がこぼれる。


「魁くんは一年C組だから……愛彩ちゃんと同じクラスだね」


 部長がにっこりと笑う。

 あ、はい、と少し遅れて返事をした。不自然に思われなかったか心配になる。


「じゃあ魁くんは、好きな席に座って」


「わかりました」


 私は花梨に渡すミサンガを編みながら、ちらちらと彼の姿を見る。


 どこに座るのだろう。私の隣じゃありませんように。話しかけてきませんように……。

 そう心の中で願う。


 すると、すぐ隣でがたん、と音がした。


 ミサンガから視線を外し、恐る恐る横を見る。

 そこには、にこにこと笑っている彼の姿。


 えっ⁉と声を上げて後ずさりする。


「こんにちは」


 彼が小さく首を傾げた。

 私はなにも言えずに彼をじっと見つめる。


 部長がくすくすと笑う。

 笑わないでください、という気持ちを込めて部長を軽く睨む。だが部長は声を堪えて笑うばかりだ。


「じゃあ愛彩ちゃん、魁くんに色々と教えてあげて」


「わ、わかりました……」


 私は小さく頷き席に戻る。


「どうして私がミサンガ部に所属してるってわかったの?」


 小声で訊いてみた。


 彼に私がこの部に所属していると話した覚えはない。


「愛彩さん、休み時間にミサンガ編んでたから。もしかしたら、って」


「ふうん……」


 こいつ、勘が良い。

 そう思いながら「愛彩さんって」と口を開いた。


「ん?」


「愛彩さんって……愛彩でいいのに」


 ぼそっと呟く。

 独り言……。

 だったのに、彼は「じゃあ」と笑う。


「え、本気?」


 私は目を見開く。しまった、と思った。冗談、というか、独り言だった。

 引き返すことはできずに、私はそっぽを向いた。『これ以上私に近づかないで』というオーラを出す。


「僕も真織でいいよ」


 その言葉に振り向くと、彼は満面の笑みを浮かべていた。

 私はそう、と返事をして、ミサンガの編み方を教え始める。


「私が初めて作ったミサンガの編み方……一番簡単なんだけど」


 そうして真織に見本を見せる。


 彼はうん、と頷き、見様見真似で編み始める。


「おおっ……」


 初めてなのだろうか。初めてだとは思えないほど上手だった。


「真織って、手先器用だね……」


 そう言うと、彼が一瞬驚いたような顔をして、柔らかい笑みを浮かべる。

 褒められて喜んでいるのだろうか。


「ありがとう」


「……いいえ」


 そんなに嬉しかったのだろうか、と思い、私はまた編み方を教え始めた。

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