7月30日(日) 『握手』

 夢を見た。多分、明け方くらいに。


 私、櫻井あいらは、スマホからラジオ番組へメッセージを送っていた。番組名は、タソアイこと、タソガレドキにはアイスティーを。

 昨日まで、何度検索しても見つからなかったのに、夢の中ではあっさりと番組ホームページが見つかった。なんとも都合のいい夢だ。


 ホームページ内のメッセージフォームからメッセージを書き込む。この一ヶ月の感謝を込めて、タソアイへの想いを書き綴っていたら長文になってしまった。

 ラジオネームや電話番号、住所の欄もあって、一応書き込んでおく。ラジオネームは安直に【ラジオっ子なりたてのアイラ】にしておいた。書き込んだ内容に誤字脱字などがないか、二回確認してから送信した。


 ふう、と息をつくと、誰かに左肩をぽんと軽く触れられた。驚いて振り向くと、そこには二十代後半に見える女性がいて。

 多分、初めて会う人なのに、微笑んでいるその人に見覚えがあった。彼女は、私へ何か喋りかけて口を動かすのだけれど……聞き取れない。音として、声として、空気を揺らすことができていないかのように。


 私に言葉が伝わっていないのが分かったのだろう。彼女は少し悲しそうに眉を下げて苦笑した。そして、代わりに、なのだろうか。私へ片手を差し出してきた。

 握手を求められているのはすぐに理解できたので、この状況を不思議に思いながらも私は応じた。


 その人の手はあたたかく、心地よいぬくもりだった。


 ***


 朝六時、自然と目が覚めた。夢の内容は鮮明に覚えていた。

 夢の中のあの人は、もしかして……。


「セツナさん、だったのかな」


 私が、声から勝手にイメージした、セツナさんだったのかも。うん、きっとそうだ。


 枕元に置いてあるスマホを手に取る。淡い期待を抱いて、ネット検索をした。【タソガレドキにはアイスティーを】で、検索をかける。番組ホームページは、出てこない。


 やはりあれは、夢の中での出来事だったのだと。諦めざるを得なかった。

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