7月28日(金) 『方眼』
自室の壁掛けカレンダーを見る。今日は七月二十八日、金曜日。七月の終わりは、もうすぐそこ。つまりそれは。
「セツナさんの声を聴けるのも……あと二日、か」
高校二年の夏休みがじわじわと消化されていくことよりも、悲しい現実。
私の好きなラジオ番組は、今夜の放送と来週月曜日の放送で、終わってしまう。初回の放送から、七月限定のラジオ番組、といっていたもんなぁ……。最初から終わりが見えていた番組だ。
頭では分かっていたのに、気分はどうしても沈んでしまうのだった。
***
親との夕食を終えて、自室で迎える夜七時。卓上ラジオから時報が流れて、そして。
『七月二十八日金曜日、時刻は午後七時になりました。こんばんは、声優の瀬戸川セツナです。七月限定の番組、タソガレドキにはアイスティーを、略して、タソアイ。夜七時から七時三十分まで黄昏時の三十分間、どうぞよろしくお願いします。タソアイの放送も、今日を含めてあと二回となりました。皆さんとご一緒できる時間も残りわずかですが、今夜も飲み物片手に、気軽に、気楽に、聴いてくださいね』
タソアイの放送が始まった。いつも通りの、セツナさんの明るい声とは対照的に、私はしんみりと細く長い息を吐く。
今夜のメッセージテーマは【国語数学理科社会その他もろもろ!私の得意教科はこれでした〜!】で、一曲流れたあと、セツナさんはリスナーさんからのメッセージを紹介し始めた。
『──ラジオネーム、冬眠体質さん。《セツナちゃん、こんばんは。タソアイの最終回がもうすぐで寂しいです。私の得意教科は国語でした。高校時代は特に古典が好きで、大学でも学んでいました。逆に理系は全般的に苦手で、テスト前は理系が得意な友人にノートを借りてコピーさせてもらってました。友人は方眼ノートを使いこなしていて、とても分かりやすい内容で、毎回助けられていました。今となっては良い思い出です。》冬眠体質さん、メッセージありがとうございます。大学でも古典を学んでいらしたんですね〜。お友達は方眼ノートを使いこなしていたとのことで、憧れます。私も理系が苦手で──』
「方眼ノートか……。使いこなすって、どんな感じなんだろ?」
ふと疑問に思ってスマホで調べてみた。
方眼ノートの使い方、で検索してみると、方眼ノートの使い方を紹介しているブログやまとめサイトが出てきた。タップして見てみると、結構面白い。
ページを縦や横に分割して使ったり、中心から書き始めて関連する内容を周りに書き加えたりなど。授業中にノートをとる際のポイントも一緒に紹介されていて勉強になった。高校の二学期が始まったら試してみよう。
私が調べている間もタソアイの番組は進行していて、来週月曜日の最終回について説明されていた。
『──で、タソアイ最終回では私セツナと電話でお話してくれる方を募集します!電話出演してもいいよー、というリスナーさんは番組ホームページより──』
「えっ!セツナさんと電話!?」
思わず大きな声を上げてしまった。が、私にはできないのだとすぐに悟り、ため息をついてしまうのだった。
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